22.交錯する想い
バルサザールはジリジリと近寄り、その冷たい微笑みが私の恐怖を楽しむかのように見えた。彼の視線が私を鋭く見つめるたびに、私は心臓が早鐘のように鳴り響くのを感じた。
「やっ…。」
私は小さな声で抗議し、後ずさりしたが、彼の圧迫感に動けなくなった。
彼はゆっくりと首を傾げながら、目を細めて話し始めた。
「あぁ、そういえば…あの男に口付けをしたそうですね?」
「あの男ってミハエルのこと?」
彼の瞳が一瞬鋭く光った。
「えぇ、そうです。そんなことをせずとも…処分してしまえば良かったのでは?」
彼は冷ややかに言い放ち、唇の端がわずかに上がった。その冷酷な提案に私は一瞬息を呑んだ。
「流石にそれは可哀想でしょ!?」
私は強く反論したが、声が震えているのが自分でも分かった。
「そうですか。可哀想だからと、あなたは誰とでも口付けを交わすと?」
その目は私を試すように見つめていた。
「は!?そんなわけないでしょ!?ミハエルは私が…。私の存在のせいで彼の人生を狂わせてしまったから…それで…。」
彼の表情がわずかに緩み、冷たい瞳に一瞬の柔らかさが見えた。それが私をさらに困惑させた。バルサザールの本心が見えないまま、私は彼の言葉の重さに押しつぶされそうになっていた。
「スティグル、効果時間は?」
「5分ほどです。」
スティグルは素早く動き、水が入ったコップをバルサザールの手の届く位置まで差し出した。
バルサザールは冷静に頷き、「十分でしょう。」と答えた。彼はコップを受け取り、静かに錠剤を取り出した。
バルサザールは錠剤を口に含むと、私の方に顔を近づけてきた。
彼の顔が私の目の前に来ると、その冷たい瞳が柔らかく揺れ動いた。そして、彼は私の唇に自分の唇を重ね、錠剤を口移しで私に渡そうとした。彼の息が私の顔にかかり、その瞬間、全身に電流が走ったような感覚が広がった。
――お、推しにこんなことされたら飲むでしょうが!!!!!!
私は動けなくなり、彼の行動に身を委ねるしかなかった。錠剤が私の口に入ると、彼の舌がわずかに動き、それを押し込むようにした。私の心臓は爆発しそうなほど早鐘のように打ち続け、彼の口移しに応じてゴクンと飲み込んだ。
彼はゆっくりと顔を離し、その冷静な瞳で私を見つめながら、静かに言った。
バルサザールは冷たい微笑みを浮かべ、私の顔を覗き込んだ。
「さあ、王女殿下。お答えください。」
「何を?」私は不安げに彼を見つめた。
「どうして、迷いなく、私を伴侶とすることを望んだのかをです。」
その瞬間、自白剤の効果が現れ、言葉が自然と口から溢れ出た。
「バルサザール…私はあなたを愛しているから。ずっとあなたのことを考えていたの。あなたの冷酷な瞳、冷静な判断力、全てが私を引きつける。あなたの側にいるだけで心が満たされるの。」
――何言ってるの!?うそ、うそ!?口!!止まれ!口止まって!!
私は自分の思いを抑えることができず、さらに続けた。
「この世界は乙女ゲームの中の世界なの。私は現実の世界から転生してしまった。最初は戸惑ったけど、あなたに出会った瞬間に全てが変わったの。」
バルサザールは驚いた表情を一瞬見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「続けてください。」
「私の前世では、あなたはただのキャラクターだった。でも、今は違う。あなたは私の全てなの。あなたの冷たい目で私を見つめるたびに、心が震える。あなたの言葉一つ一つが私の魂を揺さぶるの。私はあなたのためなら何でもする。あなたのためならどんな犠牲も厭わない。」
私の声は震え、涙が溢れ出た。
「バルサザール、あなたがいないと生きていけない。あなたのためにこの世界に転生したのかもしれない。私の全てはあなたのもの。あなたが望むなら、私は何でもする。」
バルサザールはしばらく黙って私の言葉を聞いていた。その瞳には一瞬の困惑と興味が交じり合っていたが、やがて冷静な表情に戻った。
「本心なのですね…。」
「本心。あなたが私の全て。私はあなたのために生きているの。あなたがいないと意味がない。」
バルサザールは私の言葉に対して無表情を保ちながら、静かに考え込んだ。
――お願い…もうやめて…。
「では、私以外の男性は眼中にないと?」
「あなた以外には誰も…いない。」
彼の瞳には一瞬の動揺が見えたが、すぐに冷静さを取り戻した。バルサザールは私の顔をじっと見つめ、やがて軽くため息をついた。
「わかりました。あなたの言葉を信じましょう。嬉しいですか?」
私は心の奥底から湧き上がる感情を抑えることができなかった。
「嬉しい。」
バルサザールは微かに笑みを浮かべ、再び私の顔に近づいた。その瞳には何かを見透かすような冷たい光が宿っていた。
「時に、何故私に自白剤を盛ろう等と考えたのですか?」
彼の質問に、私は一瞬息を呑んだ。心の中で自白剤の効果が私を縛りつけ、言葉が自然と口から溢れ出るのを感じた。
「それは…あなたの本心を知りたかったからです。あなたが何を考えているのか、私には見えない部分が多すぎたの。あなたの計画や思惑、私に対する気持ちを確かめたかったの。」
彼の瞳がさらに鋭く光り、私の心の奥底を見透かすように見つめた。
「私の本心を知りたかった?それが理由ですか?」
「はい、そうです。あなたのことをもっと理解したかった。あなたが何を考えているのか、何を望んでいるのか、それを知ることで私もあなたに寄り添いたかったの。」
バルサザールはしばらく下らない私に関する質問を繰り返していた。私の好きな色や食べ物、幼い頃の思い出まで、どれも無意味に感じる質問ばかりだった。
「そろそろ時間です。」スティグルが静かに告げた。
その言葉に合わせるように、徐々に私の口が自由になっていくのを感じた。
「い、いや…いや…。」
私は自分の本心を吐き出してしまった羞恥心に耐えきれず、その場にしゃがみ込んで泣きじゃくった。涙が止まらず、胸が締め付けられるような感覚に包まれた。
バルサザールは私の前に立ち、冷静なまま私を見下ろしていた。
「スティグル。同様の薬を用意なさい。」
「承知しました。」
スティグルは静かに頷き、手早く作業台に向かい、同じ薬を慎重に調合し始めた。彼の動きは迅速かつ正確で、無駄のない手際だった。
私は涙で視界がぼやけたまま、何もできずにその場にしゃがみ続けていた。スティグルが薬を完成させ、バルサザールの手に渡した。
バルサザールは片膝をついてしゃがみ、私と同じ目線になるように顔を近づけた。彼の表情は冷静そのもので、その冷たい瞳が私を見つめていた。
「今度はあなたの番です。」彼の声は低く、まるで命令のように響いた。
「え…。」
バルサザールは手渡された薬を私の手に持たせ、その手を優しく包み込んだ。彼の手は冷たく、力強かった。
「どうして…私にこれを?」
「あなたが私の本心を知りたがっているのでしょう?私もあなたの前で全てを明かします。ただし、同じ方法で。」
私は彼の言葉に驚きと困惑を感じながら、手の中の薬を見つめた。彼の瞳は冷静さを保ちつつも、何か期待するような光を宿していた。
「どう飲ませるかは…先程お教えしたでしょう?殿下。」
彼の声は低く、誘惑するような響きを持っていた。
バルサザールはさらに近づき、その冷たい息が私の肌に触れるほど近くなった。彼の瞳はまるで私の心を見透かすように鋭く、同時に冷たい光が宿っていた。
私は覚悟を決め、薬を口に含んだ。そして、バルサザールの顔にさらに近づき、唇が触れる寸前で彼の瞳を見つめた。彼の瞳には冷静さと期待が混じり合っていた。ゆっくりと唇を重ね、薬を彼の口に移した。彼の唇は冷たくも柔らかく、私の心を震わせた。
薬を飲ませた後、私は息を切らしながら彼を見つめた。彼は静かに目を閉じ、薬の効果が現れるのを待っていた。
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