19.紡がれる思い
私が目を覚ますと、朝の光が部屋に差し込んでいた。少しぼんやりした頭で周囲を見回すと、そこには疲れた様子のドラが座っていた。
「起きたか…。丸1日眠っていたぞ。」
ドラは私を見つめ、少し微笑んだが、その目には深い疲労が浮かんでいた。
「ずっと、ここにいたの?」
私はベッドから身を起こしながら尋ねた。
「もちろん。ティアナが無事に目を覚ますまで、離れるわけにはいかなかったからな。」ドラの声は静かで、しかしその中には私を気遣う温かさが感じられた。
「ありがとう、ドラ。でも、少し休んだ方がいいわ。私のためにそんなに無理をしないで。」
ドラは一瞬ため息をつき、深い疲れを隠すように目を閉じた。
「お前が無事なら、それでいいんだ。俺はそれで満足だ。」
「ドラ…。」
私は彼の言葉に胸が締め付けられるような感情を覚えた。
「それにしても、ティアナの思いを寄せている奴は宰相だったのか。」ドラは軽く笑いながら言った。
――ギクッ!どうしてそれを…。
私は驚きで息を飲んだ。
「分かっちゃった?」
「あぁ、なんとなく。見てればわかる。」
彼は目を細めて私を見つめた。
「ごめんね…。私酷い奴よね。」
私は頭を垂れ、申し訳なさを感じていた。
「いや、スティグルから色々聞いた。ティアナの中身が別人だってことも。だから、お前が気にすることじゃない。」ドラの言葉は優しく、私を慰めるような響きがあった。
「ドラは…優しいね。ドラの大切にしていたティアナを私は奪ってしまったのに。」
私は涙がこぼれそうになるのを必死に堪えながら言った。
「いや、もし、万が一…あのティアナが戻るようなことがあれば、今度こそ俺はティアナを攫う。そのために今後もお前の側にいることにした。」
「ドラ…。」
――でも、ヒロインがドラを選んだ場合どうなるんだろう?
私は心の中で疑問が渦巻いた。ドラが本当に幸せになるためには、私がどうするべきなのか。ヒロインとの関係がどうなるのか。考えれば考えるほど複雑な感情が胸に広がった。
「ティアナ、今は無理をしないで休むんだ。」
ドラは私の手を優しく握り、そっと励ました。
「ありがとう、ドラ。あなたがいてくれて、本当に助かるわ。」
私は感謝の気持ちを込めて彼に微笑んだ。
「そういえば、本当の名前はなんていうんだ?」
――私の名前か…。なんだったっけ…。
その瞬間、私は記憶の糸をたどるように思い出そうとした。テレビやクーラー、スマホといった生活に必要なことは覚えているのに、名前だけがどうしても思い出せない。両親や友達の名前も、ぼんやりとしていて掴めない。
「あ…れ…?」
ドラが心配そうに顔を覗き込んできた。
「どうした?」
「名前が…思い出せないの。両親や友達のことも…全部ぼんやりしていて…。」
私は頭を抱えながら答えた。
ドラは眉をひそめ、私をじっと見つめた。
「それは…大変だな。」
「うん…。どうして、こんな大事なことを忘れてしまったんだろう。」私は不安でいっぱいだった。
「ティアナ、焦るな。俺はあまり信じていないが、お前のその、別の人生の記憶は前世…だったりしてな。」
「そんなはず…。」
――だって…この世界は乙女ゲームの中の話だもん。
「信じていなかったが、信じざるを得ないものが目の前にいるものだからな。空想や幻想を実現させるのはいつだって未来だ。」
私は彼の言葉にいまいちピンとこなかった。
彼は少し考えてから、わかりやすい例えを使って説明した。
「いいか?青い薔薇はかつて存在しなかった。しかし、人々が青い薔薇に夢を抱き、品種改良を重ねた結果、実際に青い薔薇が咲いたんだ。夢や空想も、努力次第で現実になることがある。」
「なるほど…そういうことね。」
私はようやく理解し、少しずつ希望を感じ始めた。
「その体はお前のもので、今はルナティアナだ。自分の体だと思って自信を持っていいんじゃないか?現にお前は、その体がしてきたことへの償いをしようとしてるじゃないか。」
「確かに…。」
私は深く頷き、ドラの言葉に励まされるのを感じた。彼の優しさと理解が、私の心を少しずつ軽くしてくれた。
「さて、今ならまだ朝食に間に合う。準備をするか?」
「うん。お願い。」
私はベッドからゆっくりと起き上がり、まだ重たい瞼をこすりながら周囲を見回した。ドラはすでに立ち上がり、手際よく準備を始めていた。
彼は私のために洗顔用の水を準備し、銀の盆に乗せて持ってきた。彼の動きは迅速かつ丁寧で、その一つ一つが私に対する思いやりを感じさせた。私は盆から水を取り、顔を洗った。冷たい水が肌に触れ、心地よい爽快感が広がった。
――これは…女性人気No.1なのも頷けるわ。
「さあ、髪を整えよう。」
ドラは櫛を手に取り、私の長い髪を丁寧に梳かし始めた。彼の手は優しく、それでいて確実な動きで私の髪を整えてくれる。
髪を整え終わると、ドラは私のドレッサーから朝食にふさわしいドレスを選び出した。彼はそのドレスを持ってきて、私の前に広げた。
「これでどうだ?」
「うん、いいわ。」
私はドレスに袖を通し、ドラの助けを借りて背中の紐を締めてもらった。彼の手はしっかりとしながらも優しく、私の体にぴったりとフィットするようにドレスを調整してくれた。
「準備完了だな。」
――ウルスウドラ推しの皆さま…大変申し訳ございません。ここまでされていて、バルサザールが大好きです…。
ドラは微笑みながら言い、私の手を取って部屋を出るよう促した。私は彼の手を握り返し、共に部屋を出た。部屋の前にはラーカンが待っていて、彼の表情には安堵の色が浮かんでいた。
「おはようございます、殿下。ようやくお目覚めですね。」
ラーカンは礼儀正しく頭を下げ、私たちを迎えた。私は彼に微笑みかけ、感謝の気持ちを込めて言った。
「おはよう、ラーカン。ごめんなさい、心配かけて。」
ラーカンは軽く首を振って、「そんなことはありません。さあ、朝食に向かいましょう。」と促した。
私たちは三人で廊下を進んだ。ドラとラーカンが両側に付き添い、私は中央を歩いた。廊下は静かで、朝の光が窓から差し込み、床に美しい光の模様を作り出していた。ラーカンはドラと私の様子を見守りながら、時折私に微笑みかけていた。
「殿下、昨夜はよくお休みになれましたか?」
「ええ、ありがとう。おかげでスッキリしたわ。」
ドラはラーカンに目配せをし、軽く頷いた。
「今日の予定は、スティグルがミハエルのことで相談があるとのことです。」
「スティグルが?」
「そうだ。彼が今朝、早くに連絡を寄越してきた。ミハエルの状態に関して詳しく話す必要があるらしい。」ドラは穏やかな声で説明した。
私たちは食堂に入り、お父様に挨拶をした。お父様は私たちを見て、少し驚いた表情を浮かべた。
「ルナティアナ、もう起きて大丈夫なのか?丸1日眠っていたと聞いて心配していたぞ。」
お父様の声には心からの心配が込められていた。私は少し申し訳なさそうに微笑み返した。
「ごめんなさい、お父様。大丈夫です。たくさんのことがあって、少し疲れてしまったの。」
お父様は私の言葉に安心したように頷き、席に着いた。ドラが優雅に私の椅子を引いてくれ、私は感謝の気持ちで彼に微笑みかけた。そして、食事の支度が整えられた。
「それにしても、しっかり休めてよかった。無理は禁物だぞ。」
「ありがとうございます、お父様。気をつけます。」
テーブルには新鮮なパンや果物、香ばしいベーコンやふわふわの卵料理が並べられていた。温かいスープの香りが漂い、朝の食事を楽しむのにぴったりな雰囲気だった。私は少し緊張しながらも、食事を楽しむことに集中した。
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