17.朝霧の戦場、策略の勝利
翌朝、私たちはアグレグレット帝国軍と対峙していた。冷たい朝霧が戦場を覆い、視界がぼんやりとしていた。周囲の騎士や兵士たちは緊張した面持ちで剣を握りしめ、いつ始まるか分からない戦闘の準備を整えていた。私は馬の上からその光景を見渡し、胸が締め付けられるような不安を感じていた。
「王女殿下、しっかりしてください。ここが正念場ですよ。」バルサザールが冷静な声で私に言った。
「わ、分かってるわ…。」
私は震える手で剣の柄を握りしめた。心臓が激しく鼓動し、頭の中は混乱していた。
ドラが私の隣に立ち、その赤い瞳で敵陣を睨みつけていた。
「ティアナ、俺が守る。心配するな。」
突然、兵士たちの叫び声が耳に飛び込んできた。敵軍が動き始めたのだ。私はその音に一瞬凍りつき、視線を前に戻すと、敵兵が迫ってくるのが見えた。
「今です!」バルサザールが鋭く命令し、剣を抜いて前に進んだ。
「う、うん…!」
私は自分に言い聞かせるように答え、馬を前に進めた。しかし、体が震え、剣を持つ手が重く感じられた。これが戦争なのか。初めて味わう恐怖が私を支配していた。
敵兵が私に迫ってきた。私は恐怖に駆られながらも、必死に剣を振り下ろした。金属がぶつかる音と共に、剣が敵の剣とぶつかり合った。力が抜けそうになる手を何とか握り締め、次の一撃を繰り出そうとした。
「ティアナ!」ウルスウドラが私の側で敵兵を斬り伏せながら叫んだ。
「分かってる!」
私は震える声で答えたが、内心では恐怖と混乱が渦巻いていた。血の匂いが漂い、地面に倒れる敵軍たちの姿が視界に入り込んできた。その光景に心が揺さぶられ、目の前の現実を受け入れるのが難しかった。
「殿下!東に回り込んでから後ろから攻撃をしかけましょう!」
「わかった!」
私は何とか返事をし移動した。
敵の攻撃が次々と迫ってくる中で、私は恐怖を押し殺しながら剣を振り続けた。血と汗が混じり合い、戦場の音が耳に響く中で、自分の存在がどれほど小さなものかを痛感した。しかし、それでも戦わなければならない。王女として、仲間を守るために。
戦場の混乱の中で、私の心は恐怖と決意の間で揺れ動いていた。戦争の現実が私を飲み込み、初めて味わう恐怖が私を試していた。それでも、バルサザールとウルスウドラの存在が私を支え、戦い続ける勇気を与えてくれた。
バルサザールの指揮は見事であり、戦場全体を見渡しながら的確に指示を出していた。彼の策略はまるで緻密に計算されたように、敵の動きを先読みし、たった三人の小さな戦力で大勢の敵軍を翻弄していた。
「ティアナ、後ろに回りまわりなさい!敵の補給部隊を襲撃しましょう!」バルサザールは冷静な声で指示を出した。
「了解!」
私は急いで馬を駆り、指示された通りに補給部隊に向かった。敵の補給物資を狙うことで、戦力を削ぐ計画だった。
「ウルスウドラ、右から攻めなさい。アナタなら敵の指揮官を狙えるでしょう。」バルサザールは素早く次の指示を出し、ウルスウドラは頷いて敵陣の右側に突進した。
バルサザール自身も戦闘に加わりながら、巧妙に敵兵の隙を突いては次々と撃破していった。彼は戦場の地形を巧みに利用し、敵を狭い場所に追い込んで一気に仕留める戦術を繰り出していた。
「ティアナ、あの木陰に潜んでいる敵狙撃手を排除なさい!」
バルサザールが指差した先には、木陰に隠れて弓を引く敵狙撃手が見えた。
私は馬を駆り、狙撃手に近づくと素早く剣を振り下ろし、彼を無力化した。息を整えながら、バルサザールの指示の的確さに驚かされていた。
「ウルスウドラ、ここを守りなさい!私は敵の後方に回って混乱を引き起こしてきます。」バルサザールはさらに策を巡らし、敵の陣形を崩すべく自ら動いた。
彼は敵陣の中に潜り込み、敵から奪った火薬を使って敵の補給物資を爆破した。突然の爆発に敵兵たちは混乱し、戦意を喪失していく。バルサザールはその混乱を利用して次々と敵兵を撃破し、敵の戦力を著しく削いでいった。
「ティアナ、援護を頼みます!」バルサザールの声に反応し、私は彼の背後から敵兵に向かって突進した。剣を振り下ろし、敵兵を倒すことでバルサザールの動きを援護した。
「さすがだな、宰相。」ウルスウドラも戦いながら称賛の言葉を漏らした。
彼の指揮と策略はまるで魔法のように戦況を変え、私たち三人の力で大勢の敵軍を圧倒する結果となった。敵軍は次第に後退し、戦場から逃げ出す者たちも現れ始めた。
「勝った……?」
私は息を切らしながら、戦場を見渡した。バルサザールの指揮と策略が見事に奏功し、私たちは敵軍を撃退することに成功したのだ。
バルサザールは剣を収め、私の方を見て微笑んだ。
「よくやりましたね、ティアナ。これでしばらくは安心できるでしょう。」
ウルスウドラも疲れ切った顔で笑みを浮かべていた。
「帰りますよ。ティアナ…。」
「うん…。」
――いつの間にか…私のことティアナって…。戦いに夢中で気付かなかった…。
勝利の喜びをかみしめながら、私たち三人はシュエット王城へと帰還する道を辿った。朝霧が薄れていく中、私たちは疲れきった体を引きずりながらも馬を進めた。
バルサザールは私の疲労の度合いに気づき、自分の馬を進めて私の隣にやってきた。
「ティアナ、少し休んでください。」
「でも、まだ…」
私は抗議しようとしたが、バルサザールは優しく微笑んで私の手を取り、自分の馬の前に私を乗せた。
「休むことも大切です。私が責任を持ってあなたを守りますから。」
馬の上で彼の体温を感じながら、私は徐々に疲労感に包まれていった。ウルスウドラも心配そうに私を見守りながら、黙々と馬を進めていた。
――優しい…。こんなにも優しいのに、これも彼の策略のうちなのかな。戦争での彼は見事過ぎた。私が一人で突っ走ってたら絶対に死んでた。規模が違ったもん…。こんなに才能があるのに、悪役宰相なんてもったいないよ…。
途中、私たちは静かな森を抜け、穏やかな小川を渡った。鳥のさえずりが心地よく響き、戦いの緊張感から解放された気持ちになった。バルサザールの腕の中で私は次第に瞼が重くなり、しばしの安らぎを感じた。
「ティアナ、眠ってください。安全に城まで連れて行きます。」
バルサザールの優しい声が耳元に響き、私はその言葉に従い、意識を手放した。
しばらくして、シュエット王城の大きな門が見えてきた。城の周囲には警備兵が立っており、私たちの帰還を見守っていた。バルサザールは馬をゆっくりと進め、門を通り抜けて城内へと入った。
「起きて下さい、もうすぐです。」
彼の声に反応して、私は目を覚ました。まだ少しぼんやりしていたが、城の中に戻ったことを感じ取った。
城の中庭に到着すると、バルサザールは私を馬から降ろし、優しく手を取って支えた。ウルスウドラもすぐに駆け寄り、私を心配そうに見つめた。
「大丈夫か、ティアナ?」
「うん、大丈夫。ありがとう。」私は微笑んで応えた。
バルサザールは私たちを城の奥へと案内し、すぐに王のもとへ報告に向かう準備を整えた。
「陛下に勝利の報告をしなければなりません。共に参りましょう。」
バルサザールの言葉に、私たちは王のもとへ向かう。シュエット王城の大広間へと足を踏み入れると、重厚な扉が静かに開かれ、王が待つ玉座が見えてきた。
大広間に入ると、王は既に待機していた。その側には、ラーカンが剣を手にし、警戒を緩めずに王を守っていた。私たちが近づくと、ラーカンの表情が緩み、安堵の色が浮かんだ。
「おかえりなさいませ、王女殿下。」
ラーカンの声が震え、涙が頬を伝って流れていた。
「ただいま、ラーカン。」
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