16.迫りくる戦火
バルサザールは私を見下ろしながら、深く息をついた。
「もう二度と、こんな無謀なことはしないでください。命を落としていたかと思うと…ゾッとします。」
「ごめん…なさい…。」
バルサザールは私の肩に手を置いて少しだけ優しい目を向けると、すぐに真剣な表情に戻り、王の前に進んだ。彼の動きは堂々としていて、言葉の一つ一つに重みが感じられた。
「陛下、我が国の王女がこのような無謀な行動を取ったこと、誠に申し訳ございません。全て私の不徳の致すところでございます。」バルサザールは深々と頭を下げ、その姿勢には誠意と謝罪の気持ちが込められていた。
王はバルサザールの謝罪に対して、手を上げて制止し、暖かい笑みを浮かべた。
「バルサザールよ、そのような謝罪は必要ない。私にとっては、謝罪よりも大事なことがある。」
バルサザールは顔を上げ、王の言葉に耳を傾けた。
「我が息子よ、そなたが無事であったことが何よりも嬉しいのだ。これまでの年月、そなたを失ったと思い、ずっと悲しみに暮れていた。だが、今こうして目の前にいる。それだけで十分だ。どうか、シュエット王国に戻り、王子として生きてほしい。」
バルサザールは驚きの表情を隠せなかった。彼は深く息をつき、王の言葉の重さを感じ取った。
「陛下、私は…」その瞬間、私は前に進み出て、声を張り上げた。
「待ってください!バルサザールを奪われたら、我が国は終わってしまいます!」
部屋の中は一瞬、静まり返った。王もバルサザールも、私の突然の発言に驚いていた。
「王女殿下…?」バルサザールは戸惑いながら私を見つめた。
私は深く息を吸い、覚悟を決めて続けた。
「バルサザールは私たちの国にとって、欠かせない存在です。彼の知恵と指導がなければ、私たちの国は混乱し、崩壊してしまうでしょう。だから、彼をここに留めることはできません。」
バルサザールはその言葉を聞きながら、内心で複雑な感情を抱いていた。
王は私の言葉に耳を傾けながら、深く考え込んだ。
「ルナティアナ王女、あなたの言葉には一理ある。しかし、私としても息子をこの国に戻したいという気持ちがある。どうすればよいのか…。」
その瞬間、私の心に一つのアイディアが閃いた。
「陛下、バルサザールを第一王子として復活させ、私の婿に迎えるのはいかがでしょうか?」
部屋の中は再び静まり返った。王もバルサザールも、私の突然の提案に驚いていた。
バルサザールは目を見開き、私を見つめた。
「ティアナ、あなたは本気で言っているのですか?」
「ええ、本気よ。これなら、バルサザールはシュエット王国とエヴァレーン王国の両方にとって重要な存在になれる。そして、私たちの国同士の関係も強固になるわ。」
王はその提案に驚きを隠せなかったが、やがて微笑みを浮かべた。
「確かに、それは一つの解決策かもしれない。バルサザールが私の息子であり、あなたの夫となれば、両国の絆は一層深まるでしょう。」
バルサザールは深く息をついた。
「王女殿下、あなたの提案は私にとっても大きな意味を持ちます。ですが、本当にそれでよろしいのですか?あなたの気持ちは…」
私は彼の真剣な眼差しを受け止め、しっかりと答えた。
「今はこれが最善です。バルサザール、報告を受けていませんか?セインタール公爵子息が愚かな行動に出ようとしていたことを。」
バルサザールの顔に一瞬の驚きが走り、すぐにその表情は冷静さを取り戻した。
「その件については聞いています。しかし、詳細までは把握していませんでした。」
「ミハエルがシュエット王国に進軍しようとしていました。彼を止めるためにここに来たのです。もし私たちが動かなければ、戦争になっていたかもしれません。」
王はこの報告に顔をしかめ、重々しく頷いた。「なるほど。それで、あなたはこの状況を収めるためにここに来たのですね。王女殿下の行動には感謝しますが、今後の対策を講じなければなりません。」
「だからこそ、バルサザールを第一王子として復活させ、私の婿に迎えるのです。そうすれば、両国の関係はさらに強固になり、ミハエルのような事態も未然に防げるでしょう。」
バルサザールは私の提案を考え込み、やがて王の方を見た。
「陛下、私はこの提案に従います。しかし、私自身の気持ちも尊重していただきたい。」
王が何かを言おうとしたその瞬間、国境警備兵の一人が血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「大変です!アグレグレット帝国軍が攻めてきました!!」
「何!?こんな時にか!?」
王は驚愕し、立ち上がった。
私は焦燥感に包まれた。
「大変!シュエット王国の兵士たちは三日は起きないわ!!」
バルサザールは私を鋭く見つめ、怒りを抑えた声で言った。
「王女殿下、あなた!!無謀過ぎる!一体何を考えているんですか?こんな重要な時期に、シュエット王国の兵士たちを眠らせるなんて、正気の沙汰とは思えません。国の安全を脅かす行動を取るなど、王女としての自覚が足りません!」
彼の声は冷たく、私の心に鋭く突き刺さった。彼の目は怒りと失望で燃えていた。
「あなたの行動がどれだけ危険で愚かなことか理解していますか?これでは敵に付け込まれるだけです。エヴァレーン王国の未来が危険に晒されているというのに、何を考えていたんですか?」
「ごめんなさい…でも、今は…私が制圧しに行きます!」
私は決意を胸に飛び出した。バルサザールの叱責が心に響くが、今は立ち止まっている場合ではない。
「待ちなさい!!ルナティアナ!!」
バルサザールの声が背後から響くが、私は振り返らずに走り続けた。
「ラーカンはここに残って王を守って!」
ラーカンは冷静に頷き、「承知しました。」と言って王の元へ戻った。ウルスウドラは私の後ろについてきた。その決意に満ちた足音が心強かった。
しかし、もう一つ足音が聞こえた。振り返ると、バルサザールが追いかけてきていた。
「バルサザール!説教なら後で…。」
「私もついていきます。」彼の声は強く、揺るぎない決意が感じられた。
「なっ!?アナタも残って王を守りなさい!」
「いいえ、私は…私の一番守りたいものをこの手で守ります。」
バルサザールの言葉は深く、まるで心の奥底に訴えかけるようだった。
――どういうこと?私の使い道がまだ残ってるの?バルサザールの狙いはいったい…。ううん、今はそんなこと考えてる場合じゃない。急がなきゃ。
私たちは城を飛び出し、急いで馬に乗ってアグレグレット帝国の方向へ走り出した。風が顔を切るように吹きつけ、馬の足音が地面を力強く叩く音が響く。時間が経つにつれ、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
しばらく走り続けていると、バルサザールが突然声をかけた。
「少し休憩を取りましょう。」
「こんな時に何を言ってるの?」
「こんな時だからこそです。もう少しすれば敵軍が見えるでしょう。」
バルサザールは冷静に言いながら、馬に積んであった荷袋から保存食を取り出した。そして、それを私の口に強引に押し込んできた。
「むぐっ…ちょ、ちょっと。」
「何日…食事を抜いていますか?」バルサザールは厳しい目で私を見つめながら尋ねた。
「忘れたわよ。そんなこと。」
「ウルスウドラ?」とバルサザールは私の代わりにドラに問いかけた。
「4日ほどです。」
「国境を超えてシュエットまでの道のり、何も食事をしなかったのですか?」バルサザールは信じられないといった様子で眉をひそめた。
「水は飲んだわ。それに干し肉は食べたわ。」
バルサザールは私の顎をつかみ、ウルスウドラの方へ顔を向けさせた。
「見なさい。彼はあなたに合わせたために、同じように食事を抜いているんです。」
私はウルスウドラの顔を見つめた。彼の顔には疲れの色が浮かび、目の下にはクマが見えていた。その視線は決して私から離れず、忠誠心と心配が入り混じった複雑な表情をしていた。
――私…目の前のことに夢中過ぎて気付いてなかった。ドラ…あんなにやつれて…。
「大丈夫です。少しの休憩で、また力を取り戻せます。」
バルサザールは優しく微笑み、私に保存食を渡した。
私はためらいながらも、それを受け取り、一口かじった。味が口に広がると、疲れた体に少しずつ力が戻ってくるのを感じた。ウルスウドラも同じように保存食を口にし、ラーカンも静かに見守っていた。
しばらくの間、私たちは静かに食事をとりながら、これからの戦いに備える時間を過ごした。
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