13.決意の裏に隠された愛と策謀
それから私は、ミハエル・セインタールとのお茶会を取り付けるための日程を調整し、その日まで毎日朝から晩まで剣術や体術の訓練に励んだ。訓練の合間に、スティグルには3日間眠り続ける薬を新たに用意するようにお願いした。それは全て、ある朝の朝食時に父に言われた言葉が影響していた。
朝の光が窓から差し込み、食堂には穏やかな雰囲気が漂っていた。私は重い足取りで席に着いた。父が厳しい表情で私を見つめていることに気づいた。彼の金髪は太陽の光に輝き、紫色の瞳には深い憂いが宿っていた。
「ルナティアナ、父さんは心配なんだ。」
父はゆっくりと口を開いた。その言葉には重みがあり、私は自然と背筋を伸ばした。心臓が一瞬だけ早鐘のように鳴り響くのを感じた。
「心配?」
私は軽く笑みを浮かべて答えたが、その笑みはすぐに消えた。父の表情があまりにも真剣だったからだ。彼の瞳には、私が知らない何かが宿っているように見えた。
「親としても、王としても、君の将来が心配だ。君は立派な王女だが、今のままでは国を守ることができない。」
私は一瞬、何を言われているのかわからなかった。しかし、父の次の言葉がすべてを明らかにした。
「近隣国のシュエットの王子なんかはどうだ?っと言っても、もう話は進めている。」
父の言葉に、私は驚きと困惑を隠せなかった。心臓が一瞬止まるような感覚に陥った。
「シュエットの王子…?」
私は思わず問い返した。声が震えていたことに自分でも驚いた。
「そうだ、シュエットの王子だ。彼は君と同い年で、非常に優れた人物だと聞いている。彼との結婚は君の将来にとっても、国にとっても良い選択だ。」
父の手がテーブルに置かれたコーヒーカップを握りしめる様子が目に入った。彼の指先が白くなっているのを見て、彼の言葉がどれほどの重みを持っているかを感じた。
「でも、父上、私は…」
私は反論しようとしたが、父は手を挙げて私の言葉を遮った。
「ルナティアナ、これは君のためだ。親として君の幸せを願い、王として国の安定を考えた結果だ。」
その瞬間、私は理解した。父は私の未来を真剣に考えてくれているのだと。しかし、同時に、自分の運命が他人の手で決められてしまうことへの恐怖と不安が湧き上がった。目の前の朝食が急に遠く感じ、手が震えているのを隠すために膝の上で握りしめた。
朝食が終わり、私は部屋に戻ると、スティグルを呼び出した。彼がやって来ると、私は深呼吸をしてから言葉を紡いだ。
「スティグル、お願いがあるの。」
私は真剣な表情で彼に向き直った。声が震えているのを感じたが、何とか平静を装った。
「はい、殿下。何でしょうか?」
スティグルは丁寧に頭を下げた。彼の瞳には心配と疑問の色が浮かんでいた。
「3日間眠り続ける薬を作ってほしいの。その薬が必要なの。」
スティグルは驚いた様子で私を見つめたが、すぐに理解して頷いた。
「承知しました、殿下。早急に準備いたします。」
その後の日々、私は父の言葉を胸に刻みながら訓練に打ち込んだ。剣術や体術の技術を磨き、自分の力を信じるために。汗が流れる度に、父の言葉が頭をよぎり、もっと強くならなければという思いが私を駆り立てた。
訓練の合間に、私はスティグルに会い、薬の進捗を確認した。彼はいつも冷静で、私の質問に的確に答えてくれた。その姿を見るたびに、私は彼の協力に感謝し、自分も負けていられないと思った。
そして、ついにミハエルとのお茶会の日がやって来た。庭園に設置された美しいテーブルが、色とりどりの花々に囲まれた中で輝いていた。暖かな陽光が降り注ぎ、そよ風が優しく吹き抜けるその場所は、まるで夢のように穏やかだった。
私は緊張しながらも優雅に庭園のテーブルへと歩いて行った。視線を感じて振り返ると、ラーカンが遠くから見守っているのが分かった。彼の鋭い目は私に安心感を与えてくれた。一方、スティグルは近くの木陰に立ち、何かを考え込んでいるようだった。ウルスウドラはさらに遠く、控えの位置で私たちを見守っていた。
お茶会の準備が整い、私はテーブルに着席した。銀のティーセットが輝き、香り高い紅茶が注がれたカップが私の前に置かれた。しばらくして、ミハエル・セインタールが庭園に現れた。
「ルナティアナ王女殿下、お招きいただきありがとうございます。」
彼は礼儀正しく一礼し、私の前に座った。彼の目には以前の情熱的な光が宿っていた。
「こちらこそ、お越しいただきありがとう、ミハエル。」
私は微笑みながら答えたが、心の中では緊張が高まっていた。
お茶が注がれ、二人の間に静かな時間が流れた。ミハエルは私を見つめながら、優雅にカップを持ち上げた。
「ルナティアナ、君は本当に美しい。」彼の声には真剣さが滲んでいた。
「ありがとう、ミハエル。」
私は微笑みを浮かべながら答えたが、その言葉の裏に潜む彼の本心を探ろうとしていた。
ミハエルは少し前かがみになり、私に囁くように言った。
「ここは人が多すぎますね。二人きりになれるところへ行きませんか?」
彼の言葉に心臓が跳ね上がったが、私は冷静を保ちながら答えた。
「ミハエル…ごめんなさい。私、シュエット王国の王子と結婚させられそうなの。お父様に話が進んでいると言われていて…。」
その瞬間、ミハエルの顔が一変し、彼の手が無意識にティーカップを叩き割った。陶器の破片がテーブルに散らばり、鋭い音が庭園に響いた。
「シュエット?…嘘だ…。嘘ですよね?」彼の声は震えていた。
「王から言われた言葉は絶対よ…。どうすることもできないわ。」
ミハエルは椅子から立ち上がり、拳を握りしめた。
「あぁ…そんな…。君は私のものだ。君の父上が何を言おうと、君を諦めることはできない。」
「だから諦めて…。」
「いいえ…。王女殿下は私との結婚だけ考えておいてください…。私がどうにかします。」
「え?無理よ。もう話は進んでるのよ?」
私は驚いて問い返したが、ミハエルの表情は変わらなかった。
「今日はこれで失礼します。急ぎの用事ができました…。」
彼は冷静さを取り戻し、礼儀正しく一礼してその場を去った。
ミハエルの背中を見送りながら、私は胸の中に重いものを感じていた。その時、スティグルが肩越しに静かに言った。
「あれは重症ですね。」
その言葉に、私は深いため息をついた。ラーカンも同意するように頷きながら続けた。
「相当だな…。ウルスウドラ、君もあんな感じだ。」
その言葉に、ウルスウドラは一瞬動きを止めたが、すぐに散らばったティーカップの破片を片付け続けた。彼の赤い瞳は冷静なままで、何も言わずに作業を続けていた。
私は彼の姿を見ながら、心の中で葛藤していた。ウルスウドラもミハエルと同じように、私への思いを強く抱いているのだろうか。彼の忠誠心と愛情がどれほど深いものかを改めて感じ、どう対処すべきかを考えた。
「ドラ、ありがとう。片付けは私がやるわ。」
「いいえ、ティアナ。これは私の仕事です。」彼は静かに答え、そのまま片付けを続けた。
スティグルは私の方に向き直り、眉をひそめたまま話し始めた。
「殿下、単独でシュエットに行かれるおつもりでしたよね?」
「どうしてそれを?」
「なんとなくです。睡眠薬で軍を眠らせて回り、婚約を取り消そうとなさっているご様子だったので…。」
「えぇ…まぁ…。そうね。」
私は考えを読まれていることに驚いた。
実はシュエット王国に乗り込み、兵や騎士を全員眠らせて王に降伏させて属国にし、婚約を取り消してもらおうと考えて体を鍛えていたのだ。
スティグルは少し考え込んでから、冷静に続けた。
「もう数日様子を見てみませんか?セインタール卿が何をするのか見てからでも遅くはないかと。」
「誰に見張ってもらうの?」私は疑問を口にした。
スティグルは微笑みながらウルスウドラの方を見た。
「適任がいるではないですか。」
その言葉に、私はウルスウドラの方に目を向けた。彼はティーカップの破片を片付けながらも、その赤い瞳は私に対する忠誠と愛情を示していた。
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