12.新たな従者
ラーカンとスティグルも緊張感を高め、警戒を強めていた。ウルスウドラの言葉には真剣さと危険が交じり合っていた。私は必死に状況を冷静に見極めようとした。
「ドラ、そんなことは望んでいないわ。誰も傷つけたくないの。」
「なら、せめて側にいさせてくれないか…。離れている間…俺は気が狂いそうだった。」
ウルスウドラは目を閉じ、一度深く息を吸い込み、再び私を見つめた。その瞳には切なげな光が宿り、彼の声はかすかに震えていた。彼はゆっくりと私の手を取り、その手を両手で包み込むように握りしめた。
――切実な愛と渇望は伝わるけど、既に十分狂ってるーー!!
「スティグル、これ薬で治せないの!?」
私は半ば絶望的に尋ね、スティグルに助けを求めるような視線を送った。
スティグルは少し考え込みながら冷静に答えた。
「フェニルエチルアミンを抑制する薬を出しましょうか?」
「可能なの!?」
「えぇ。恐らくは…。」
「ドラ、薬飲んでみよう!それで収まるなら、それに越したことないし…。」
「ティアナがそういうなら…。」
ウルスウドラは私の目をじっと見つめ、深く頷いた。
スティグルは棚に向かい、慎重に薬瓶を取り出してラーカンに手渡した。ラーカンはその薬瓶を受け取り、ウルスウドラに差し出した。スティグルは腕を軽く振って自分の筋肉のなさをアピールし、冗談めかした仕草を見せた。
ウルスウドラは薬瓶をじっと見つめ、眉をひそめながら考え込んだ。
「これを飲んだら…何か褒美をくれないか?」
「ほ、褒美?」
ウルスウドラは視線を逸らし、少し照れくさそうに言った。
「その…その唇に触れる許可をくれないか…。」
――知らん人とキスできるかーーー!!
「の、飲んでから考えよう?ご褒美はあげるから!ね?」
ウルスウドラは一瞬だけ私を見つめ、その後、深く息をついて薬瓶の蓋を開けた。中身を確認し、決意を固めるように一気に薬を飲み干した。彼の顔には一瞬の苦みが浮かび、その後、少しずつ表情が和らいでいった。
スティグルは少し緊張しながら、「さて、どうなるか…」と小声で呟いた。
ウルスウドラはしばらくの間静かにしていたが、やがて顔に少しずつ変化が現れ始めた。
「…うっ。もう飲まない。」彼は苦々しい表情で言った。
「どうして!?」私は驚いて尋ねた。
「こんなつまらない感情になるなら…生きている意味がない。」ウルスウドラは冷たく言い放った。
「えぇ!?」
「効果はあるようですね…。どうやら、ウルスウドラさんは恋愛依存症のようですが…。」
ウルスウドラは再び私を見つめ、深いため息をついた。
「ティアナ、君のためなら何でもする。でも、俺が普通の感情に戻るのは嫌だ。君への愛だけが俺の生きる意味だ。」
「ダメだこりゃ…。これはあれだわ。ヒロインに助けてもらうしかないわ。」
スティグルが冷静に提案した。
「なるほど。ですが、セインタール公爵子息と見比べてより酷い方にヒロインをあてがった方が良いのでは?」
「ティアナ、何の話をしているんだ?」
「ううん。気にしないで…。うーん、ドラいったん戻ってもらっていい?」
「嫌だ…。もう戻りたくない。」
「えぇ!?今まで戻ってたじゃん。」
「でも今のティアナは俺がいても怒らないだろう?」
ウルスウドラは私を強く抱きしめて、まるで私を離さないと言わんばかりの態度だった。
私は困惑し、スティグルとラーカンに助けを求めるような視線を送った。スティグルは腕を組み、眉をひそめながら考え込んでいたが、やがて小さく頷いた。
「ウルスウドラさん、王女殿下の側にいたいのなら、せめて使用人か騎士になってはどうですか?」
ウルスウドラは一瞬考え込み、そして再び私に目を向けた。
「使用人として、君の側に仕えたい。君のためなら何でもする。」
「分かったわドラ。これからよろしくね。辞めたくなったらいつでも辞めていいからね?」
「ティアナのために全力を尽くすよ。」
スティグルはラーカンの影からひょっこり顔を出し、にっこりと微笑んだ。
「それなら、彼を正式に使用人として迎え入れましょう。殿下の安全が第一ですから。王宮での規則と任務について説明いたしましょう。」
手続きを終えたウルスウドラは、すぐに服を着替え、どこからどう見てもやり手の執事と化していた。彼の黒いボディースーツは今や上品な執事服に変わり、髪もきちんと整えられ、その姿はまるで別人のようだった。
スティグルが用意した規則や任務についてまとめた冊子を手に取り、ウルスウドラは黙々と読み込んでいた。彼の赤い瞳は一つ一つのページを鋭く見つめ、内容を深く理解しようとする意志が感じられた。
部屋の隅で、彼は丁寧にページをめくり、細かな規則や任務の詳細を確認していた。ウルスウドラの顔には集中と決意が浮かんでおり、時折メモを取る姿も見られた。
その様子を静かに見守りながら、スティグルと共に今後の対応について話し合っていた。
「今後の方針としては、早急にセインタール卿と会う約束を取り付けた方がよろしいでしょうね。状態を確認する必要があります。」
「会うって…記憶をたどると、もうデートになっちゃうんだけど…。」
「危険ですね。しかし、招くしかないですね。」
「そうね…。お茶に誘ってみるわ。」
すると勢いよく薬剤室の扉が開かれてバルサザールが現れた。
「王女殿下!!あなたという人は!!」
「うわぁ!!今何時!?」
気が付けば窓の外は暗く、優に晩餐の時間を過ぎていた。バルサザールの表情は怒りと困惑が交じり合っていた。
「このようなところで何を?」
「あ、新しい美男子を見つけたので…使用人にしようと…。」
私は軽く笑って誤魔化した。
「はぁ…。呆れて物も言えません。」
バルサザールは深いため息をつきながら、私の手首を掴んでどこかへ連れて行こうとした。
その瞬間、ウルスウドラがバルサザールの手首を強く掴んだ。
「おい!」
「ドラ!やめなさい!」
ウルスウドラはびっくりしたような顔をして、パッと手を放した。
「何人たりとも…バルサザールに手をあげてはいけません。命令よ。」
その場が凍り付いた。バルサザールは冷静さを取り戻し、咳払いをしながら言った。
「コホンッ…良い心掛けですね。行きますよ。」
私はバルサザールに連行され、自室へと連れていかれた。廊下を歩く間、彼の手の温もりを感じながら、私たちは無言のまま進んでいた。廊下の灯りが淡く私たちを照らし、足音だけが静かに響く。
「王女殿下は…腹が空かないのですか?」
「え?あ、そうね。やることが多くてつい…。」
「つい?それで昼も夜も食事を抜くのですか?…また痩せ細ってしまっている。」彼の声には冷静なトーンが保たれていたが、その奥には心配の色が垣間見えた。
――もしかして、心配してくれてる!?って、当たり前か…。この人の大事な駒だもんね。
「気を付けるわ。」
「先程の、あの男を従者に迎える気ですか?」
「えぇ、一応。もう手続きは済ませたわ。頭も良くて気が利くのよ。それに強そうだし。」
「……残りの二人とも随分と、仲が良さそうでしたね。」
「あ、あー…あの部屋の窓からならラーカンが見えるから…居座ってるの!」
「ラーカンには付きまとわれて大変だと…仰っていませんでしたか?」
――やば!!そうだったわ!!
「目、目の保養にはなるなーって…。」
ようやく自室に到着し、バルサザールが扉を開けると、そこにはすでに食事が用意されていた。彼は私を椅子に座らせ、優雅に食事の準備を始めた。
「従者の身元調査を行います。」
「ダメよ!彼は孤児なのよ!?ろくな結果が出ないわ。」
バルサザールは私の意見を無視するように、私に食事を食べさせ始めた。彼の手つきは冷静で、しかしその行動にはどこか優しさが感じられた。
「最近のアナタの奇行に王がとても心配していましたよ。やはり、伴侶を急ぐと。」
「伴侶を…」
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