11.闇の忠誠と危険な愛
ラーカンが訓練を終え、汗を拭きながら部屋に戻ってきた。彼の靴音が廊下に響くと、私はスティグルと共に立ち上がった。ラーカンは私たちの緊張した様子を見て、眉をひそめた。
「殿下、スティグル、何かありましたか?」
ラーカンは鋭い目で私たちを見つめ、ゆっくりと部屋の中央に歩み寄った。
「ラーカン、実はウルスウドラを呼び出す必要があるの。」
ラーカンは訝しげに首をかしげた。
「ウルスウドラ?彼は一体何者ですか?」
私は一瞬ためらったが、ラーカンの質問に答えるために口を開いた。
「ウルスウドラは、幼い頃私が支配していた貧困の少年よ。彼は私に対して盲目的な忠誠心を抱いているの。今では裏社会のボスとしての地位を築いているわ。」
ラーカンの目が鋭く光り、彼の表情には警戒の色が浮かんだ。
「そんな人物を呼び出すのは非常に危険です。彼がどのような行動を取るかわかりません。」
「だから、あなたがここにいる時に呼ぶの。もし彼が暴走したら、すぐに対処してね。おもに…スティグルの護衛をお願い。」
「承知しました。殿下。」
ラーカンは一瞬戸惑いの表情を浮かべた後、深く頷いた。彼の目は私からスティグルに向けられ、何故王女ではなく得体の知れない男の護衛をしなければならないのかという疑問が浮かんでいた。
スティグルはその視線に気づき、肩をすくめて微笑んだ。
「ラーカン、私はただの薬師ですが、ウルスウドラに対して無力な存在です。彼の怒りを買えば、私が真っ先に標的にされるでしょうから。」
ラーカンはスティグルをじっと見つめ、眉をひそめた。「殿下、私はあなたを最優先に守りますが、スティグルの護衛も承知しました。」
私は深呼吸をして、笛を手に取った。
「それじゃあ、始めるわ。」
意を決して笛を吹いた。静かな音が部屋に響き渡り、その瞬間、私の心臓は早鐘のように打ち始めた。音が止むと同時に、部屋の空気が変わり始めた。まるで冷たい風が吹き込んできたかのように、温度が一気に下がり、背筋に冷たい悪寒が走る。
部屋の灯りが一瞬揺らめき、影が濃くなっていく。まるで闇そのものが部屋を包み込もうとしているかのようだった。壁にかかった絵画が不気味に揺れ、窓の外からは聞こえないはずの風の音が耳元でささやくように響いた。
そして、床にうっすらと黒い霧が漂い始め、その霧の中からゆっくりと一人の男の姿が浮かび上がってきた。彼の出現は、まるで次元の裂け目から這い出してきたような異様な雰囲気を醸し出していた。黒いマントが風に舞い、銀の鎖が微かに鳴り響く。
ウルスウドラの姿が完全に現れた。彼は黒髪を風に揺らし、赤い瞳が鋭く輝いていた。瞳の色は血のように深紅で、その目は冷たくも情熱的な光を放っていた。ウルスウドラの体はラーカン並みに筋肉質で、全身が力強さを象徴しているかのようだった。
彼が纏うのは、ぴったりとした黒いボディースーツで、そのボディースーツは彼の鍛え抜かれた筋肉を際立たせていた。黒い布地が彼の体に密着し、一つ一つの筋肉の動きがはっきりと見て取れた。胸板から腹筋、そして腕や脚に至るまで、全てが完璧に鍛えられていることがわかった。
彼の姿はまさに闇の戦士そのものであった。
彼の目は冷たく光り、その瞳の奥には底知れぬ闇が広がっているようだった。視線が私に向けられ、その目には混乱と疑念が見え隠れしていた。
――ギャーー!!本物のウルスウドラーーー!!圧倒的女性人気を誇る闇のキャラクター。い、色気がレベチ…。
「ティアナ…どうして、連絡をくれなかったんだ…俺がどれだけ会いたかったか…。」
彼の声は低く、しかしそこには抑えきれない感情が込められていた。ウルスウドラは一歩近づき、私を力強く抱きしめた。その腕の力強さに驚きながらも、私は彼の胸に顔を埋めた。
――抱きしめられたーーー!!!こ、こ、こわいいいい!!!
「ご、ご、ご、ごめんなさい、ウルスウドラ…」
しかし、彼の目は私の後ろにいる二人に向けられた。ウルスウドラは私を抱きしめたまま、その赤い瞳でラーカンとスティグルを射抜くように見つめた。彼の眼力はまるで雷のように鋭く、怒りと警戒心が露わだった。
「彼らは誰ですか。」
ウルスウドラは威嚇するような声で尋ねた。まるでその場で二人を射殺してしまいそうな勢いだった。
ラーカンは一瞬も怯まず、ウルスウドラの視線を真っ直ぐに受け止めた。
「私は王女殿下の護衛騎士、ラーカンです。そしてこちらはスティグル、殿下の薬師です。」
スティグルもまた、ウルスウドラの威嚇に対して冷静に答えた。
「私は殿下の相談役を担っています。」
ウルスウドラは二人をじっと見つめ、まるで彼らの心の中を覗き込むかのようだった。その視線には疑念と警戒が溢れていた。
「ウルスウドラ、彼らは信頼できる人たちよ。」私は彼の腕の中で囁いた。
ウルスウドラはしばらくの間黙っていたが、やがてその視線を緩め、私を見つめ返した。
「ティアナ、君がそう言うなら…信じることにする。それより、いつものようにドラと呼んでくれないのか?」
「あ、ごめんなさい。ドラ。」私は少し笑顔を浮かべて言った。
「ウルスウドラ、殿下は幼少期より薬の影響でまともな思考を持てない状況にありました。何者かによって操られていたのです。そのため、彼女が過去に行った行為は、彼女自身の意思によるものではありませんでした。」
スティグルが説明すると、ウルスウドラに向けられた言葉に「そうだったのか!?」とラーカンが驚いた。
ウルスウドラはスティグルをじっと見つめ、その言葉を受け止めるように黙っていた。彼の赤い瞳には、理解と疑念が混ざり合った複雑な感情が浮かんでいた。しばらくの沈黙の後、ウルスウドラは低く問いかけた。
「何がいいたい。」
「今、王女殿下は毒を抜き、洗脳から解き放たれ、まともになられました。今の彼女は別人です。ですから…彼女を解放してあげてはどうですか。」
ウルスウドラの瞳が鋭く光り、彼の感情が激しく揺れ動いているのが見て取れた。彼は私をじっと見つめ、しばらくの間黙り込んだ。部屋の中には緊張した空気が漂っていた。
「ドラ、私は今、過去の過ちを正すために頑張ろうと思ってるの。少しでも償いたいと思ってる。」
「ティアナ…俺は知っていた。だからこそ…君を守ろうと力をつけたんだ。だからティアナは何もしなくていい。」ウルスウドラの言葉に、全員が驚きに包まれた。
「え…。で、でも。私はドラに自由になってほしくて…。」
ウルスウドラの瞳が少し柔らかくなり、しかしその言葉には強い決意が込められていた。「十分自由だ。…できることならティアナを攫ってしまいたい。」
どうしよう、と焦りながらスティグルに目配せをした。スティグルは一瞬戸惑いながらも、すぐに機転を利かせて答えた。「か、彼女には別に好きな人がいるそうですよ。」そして、さっとラーカンの後ろに隠れた。
ラーカンは驚きながらも、毅然とした態度を保ち、ウルスウドラを見つめ返した。
「ウルスウドラ、私たちは殿下を守るためにここにいます。彼女の意志を尊重し、協力してください。」
ウルスウドラはしばらくの間、ラーカンと睨み合った後、深いため息をついた。
「俺に指図していいのはティアナだけだ。あの二人のどちらかか?」
「ち、違うよ。もっと別の人。ドラ、私をあきらめることってできる?」
ウルスウドラの瞳がさらに鋭くなり、冷たい光を帯びた。
「できるわけがない。一生を添い遂げたい。お前の好いている奴を殺してでもだ…。」
「おっふ…。」
私は息を飲んだ。そして…危険要素すぎる。どうするのコレ…。
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