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97.えいっ!


 二層に到達するとダンジョンの雰囲気は一変した。

 今までは洞窟のようだったのに、二層からはまるで神殿の中のようだ。

 

 一層は宝珠集めという実質鍵を探すような仕掛けがあったが、二層はどうやらクイズらしい。

 道はほとんど一直線に近いが、事あるごとに扉があり、その扉は謎かけに答えないと開かないのだ。


 普通であれば、かなり厄介な仕掛けだっただろう。

 なにしろ内容が内容だ。

 足の数が変化する生き物は、みたいな頭を捻って答えを出すタイプではなく、答えを知っていなければまず正解できないような問題ばかりであった。

 しかもそれは、このアルカディアに伝わる神話のような設定にまつわるものだからだ。


 アラタが思うに、攻略を急ぐようなタイプであればあるほど世界設定に関心がないものは多い。

 アラタなどその筆頭だし、ユキナもメイリィも大差ないだろう。

 だが、パララメイヤだけは違った。


 普通であればかなり厄介、というのはそのためだ。

 アラタたちのパーティにはパララメイヤがいた。

 それが非常に大きなアドバンテージになった。


 二層の謎掛けは、アルカディアの神々に関する問題が大半であった。

 パララメイヤは、そのことごとくを悩むことなく解答していった。

 二層に関してはアラタもユキナもメイリィも棒立ちで、パララメイヤの独壇場であった。

 よくもまあそんなことまで、といったパララメイヤの記憶力には脱帽する他なかった。


 そんなわけで、二層はほぼフリーパスで進むことができた。

 二層の特徴的なところは、その見た目以外にも敵が一切いないところだった。

 一定の間隔で謎解きをしなければ開かない扉がある。それ以外には何もない場所であった。

 

 推定であるが、敵は謎解きに失敗した場合にのみ出現するのではないかと思う。

 そうではないと二層になってから突然敵が出現しなくなった理由の説明がつかないし、謎解きに失敗したら即ゲームオーバーということもないはずだ。

 なので、謎解きに失敗した場合は敵が出現し、その場合はそれを倒すと再度謎解きを行えるか、それとも扉が通過できるようになるかのどちらかだと思う。

 間違えたらどうなるのかは気になるが、レベルが1stフェーズのカンストに達している以上試してみる価値は皆無だ。


 そしてそんな疑問を持ったのは、アラタだけではなかった。


 六つ目の扉でパララメイヤが解答しようとしている時であった。

 パララメイヤが答えを入力しようと台座の前に立っている。

 見た目は石造りの台座だが中身は別物で、早い話がタッチパネル状になっていて、それで八択の答えを入力するというものだ。


 パララメイヤが答えを押そうとすると、


「ねえ、これって間違えたらどうなるのかしら?」


 メイリィであった。

 アラタは嫌な予感がした。


「どうって、そんなん罰ゲームやろ。敵が出てくるとか、戻されるとか?」

「アラタは何が起こると思う?」

「やっぱり敵が出るんじゃないですか? 二層に来てから一度も遭遇してませんし」

「ふーん」


 メイリィはそう言いながら後ろに手を組んでパララメイヤにつかつかと近づいた。

 それから台座の上を覗き込み、


「フワフワちゃん、これってどれが正解なの?」

「これは上から四番目が正解ですね。アゼーネ神が創ったのは主に植物ですが、それ以外に唯一創った動物が――――ってメイリィさん!? なにを――――」

「えいっ!」


 メイリィが勢いよく台座上のパネルを押した。

 それも、間違いである一番下の答えを。


「ちょ! 何やっとんの!!」

「何って、間違えてみたの」


 やる気はしていた。

 止めようと思えば止めることもできたかもしれない。

 それでも止めなかったのはアラタの中にも知りたいという気持ちがいくらかあったからだ。


「間違えてみたじゃないわ!! アホか!!」


 ユキナが得意のハリセンを取り出したところで、


「起こってしまったことは仕方ありません。構えてください」


 扉の横に配置されていた怪物の石像が、その色を変えた。

 石だった体が生々しい肉の体へと変化していく。


 それだけではなかった。

 石像が変化すると同時に、台座から煙が吹き出したのだ。

 視界が遮られ、敵の姿が見えなくなる。


「メイリィ覚えとけよ!!」

「責任はちゃんと取るからさぁ」


 苦戦というほどではないが、手間取りはした。

 メイリィとアラタは比較的動けたが、パララメイヤとユキナの遠隔組は半戦闘不能と言ってもいい状態であった。

 ユキナのカラクリが多少ダメージを負った程度で撃破できたが、それでも避けられた被害ではあった。


 戦闘が終わってから、一応メイリィに問いかけた。

 ユキナの方もメイリィをある程度理解しているのか、呆れの度合いが強く怒ってはいなかったのが意外だった。


「メイリィ、なにか言うことはありますか?」

「ごめんってば。でも二層に入ってから戦闘がなかったし、ちょっとは楽しめたでしょ?」

「戦わないで楽した方が僕は好きですから」

「ウソばっかり」

「とにかく、もうやめてくださいよ」

「またやったらどうなるの?」

「約束を破りますよ。開放されたら会うっていうね」

「じゃあやめるわ。楽しみがなくなっちゃうもの」


 そんなこんなで、二層で起きたトラブルといえばそれくらいのものであった。

 合計で十の扉を越えたところで、三層への階段が出現した。

 一層と違い、今度は野営できそうな場所はなかった。

 二層と三層はセットで攻略することが想定されているのだろう。

 確かに二層はスムーズに進んだとはいえ、一層よりもかなり短かった。


 三層へと上がると、そこにあるのは巨大な扉だけだった。

 階段を上がった直後に、巨大な扉があるだけの部屋。

 たぶん、このダンジョンは三層で終わりなのだろう。


 アラタ以外もそう考えたようだった。


「この扉の先って……」


 パララメイヤが言った。

 アラタはそれに対して、答えた。


「ボスでしょうね。間違いなく」

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