94.ビルド完了
装備や素材の調達に関してはユキナの主導によって行われた。
アラタ達は実働部隊となりひたすらクエストをこなしていった。
クエスト報酬で有用な装備が取れる部位はクエストで、そうでない部位はユキナの製作によって補うことになった。
ネメシスは、アルカディアのゲーム面での細かい部分に精通しているといわけではなさそうだった。
それは、装備に関するオススメクエスト部分から把握できた。
ネメシスがオススメしているクエストで報酬が装備であるものは、基本レアリティ重視である。
ざっと見た感じでもその傾向が顕著で、それぞれのクラスにあった強装備といったものではなかった。
例えばアラタの戦闘スタイルであれば、単純に防御力の高い装備よりも、敏捷や力などのステータス補正が得られる装備の方が役に立つわけだ。
それなのにネメシスのメモに載っているクエストの装備報酬はレアリティがミシックでこそあるが、防御力、耐性が優秀というだけのものだった。
アラタは別にカチカチ忍者を目指しているわけではないし、これらの情報は役に立たないものも多かった。
そういったわけで、そういう部位に関してはユキナの製作に任せることになった。
幸い報酬が素材であるクエストも大量に記載されており、必要素材の調達には困らなかった。
レベリングの過程で手に入れた素材と、必要に応じて追加で調達した素材とで、アラタの装備更新は完了した。
現在のアラタの状態は以下のようなものになる。
アラタ・トカシキ
レベル:30
クラス:忍者
理念 :星を追うもの
HP :214/214
MP :55/55
筋力 :17(+1)
敏捷力:25(+3)
体力 :14(+2)
魔力 : 9(+1)
精神 :11(+1)
魅力 :14(+1)
武器:月影+2
胴 :常闇の衣
足 :伊賀忍の足袋
首 :誓いの忍札
指 :女神の指輪
同撃崩LV5
雷神 LV3
練気 LV5
忍びの心得LV5
縮地LV3
空蝉LV5
手裏剣術LV2
精神耐性LV1
八重桜LV2
片手印
観察眼
スキルに関しては、空蝉に振ったところが大きい。
空蝉は攻撃を受けた時に確率で被ダメージを軽減するという代物だが、フォーラムからの情報によると、レベル4からは任意発動ができるらしい。
簡単な印こそ必要だが、緊急時や対全体攻撃への防御スキルとして意識的に使えるのは非常に大きい。
装備も武器を除いてすべて更新することができた。
これはほぼ1stフェーズの最終装備といっていいものだろう。
武器を除いてというのが気になる点ではあった。
武器が入手できるクエストはやはりなく、更新するとしたら製作になる。
が、最新素材から製作したところで大きく攻撃力は伸びないとユキナは言っていた。
前に報酬としてもらった月影+2がそもそも優秀すぎるのだ。
これはただでさえガイゼルで作れる最強装備を、さらに手間をかけて強化したものだ。
これを超えるには、クエストで素材を手に入れ、最新の装備を作り、そこからまた強化素材を入手してようやく強化ということになる。
しかもそれだけの手間をかけても伸びしろはそう大きくない。
それをパーティ4人分やるかといえば、かなり怪しい。
全員の分をやるか、アラタとメイリィの近接だけやるか、それとも一旦保留にするか、話し合った末に結局は保留で行くことにした。
おそらくだが、現時点で次のダンジョンを攻略するのに、オーバーパワーとなっているはずだ。
なにせ、レベルキャップかつほぼ最強装備なのだ。
下手をうたなければ次のダンジョンは楽勝なはずだ。
パララメイヤとユキナがフォーラムで情報を得ている限り、今のアラタ達はすべてのミラーを合わせても、最もビルドが進んでいるパーティで間違いない。
そして、今確認できる範囲で最後の街にたどり着いているパーティは5パーティ。
そのうち、一部メンバーが被っているパーティは3パーティらしい。
つまり、実質的には十数名しか最後の街にはたどり着いていないわけだ。
それらのプレイヤーよりも強力な装備があり、しかもレベルまで高いわけだ。
楽観ではなく苦戦するとは思えない。
よって無理をせずに武器は更新しないことにした。
次の街でさらに強い武器素材が手に入るというのは大いにあり得るし、2ndフェーズに入って新たなクエストなどが解禁されればどうせ装備は更新されていくのだ。
それならばこれ以上は求めず、先に駒を進めてしまおうという考えだ。
ビルド開始から8日でここまで整った。
メンテナンスまであと6日。
アラタ達はユキナの工房に集まっていた。
ユキナがパララメイヤとメイリィの分の装備を完成させ、お披露目会というわけだ。
パララメイヤとユキナとメイリィが、工房の中央で新しい装備を見せあってはしゃいでいる。
その様は本当に楽しそうで、見ている方までほっこりとした気持ちになる。
アラタは工房の壁に身を預けてそんな様を見ていた。
アラタも装備が更新されたことが嬉しくないわけではない。
数字が大きくなるのはいいことだし、古のロックバンドみたいな衣装から開放されたのにも喜びはある。
今のアラタは黒い忍装束を着て、かなり忍者らしく見える。
それでもあそこに混ざってはしゃぐ気にはなれない。
「なんだ? アラタは騒がないのか?」
ロンだった。
アラタの横に来て、同じように壁に背を預けた。
「アナタこそどうなんです?」
もちろんロンの装備も更新されていた。
レベルこそまだキャップにまで届いていないが、それも近いうちに30になるだろう。
「バカ、俺がいくつだと思ってんだよ」
アラタはロンの外見をまじまじと見る。
相変わらずの弁髪だ。特徴的過ぎてまずそこに目がいく。
装備は裸にノースリーブのジャケットから更新されたはいいが、今度は肩パッドにトゲがついた装備を着ていた。
ユキナが狙ってそれをやっているのか、それとも本当に現時点での最強装備なのかは判断するのが難しい。
ロンはアバターの外見だけなら二十の半ばと言ったところだが、いくつだと思うのか、などと質問するからには外見年齢よりは上なのだろう。
「三十の半ばくらいですか?」
ロンは不敵に笑った。
その笑みには、若者を笑う年長者を感じさせるなにかがあった。
「九十六だよ、若返り処置も経験済みだ」
「もっと礼儀正しくしたほうがいいですか?」
「する気ねーだろ、それは」
シャンバラでは、外見と実際の年齢が一致していないことも珍しくない。
それでも、ロンはその性格からそれほどアラタと離れていない年齢かと思っていた。
「言っただろ、世話係だって」
「シャンバラでもその妙な髪型なんですか?」
「そりゃあ会いに来ればわかるさ。メンテが始まったら来るんだろ?」
「行けたら行きます」
「まさか来ないつもりか?」
そういうつもりではなかった。
アラタが無事ログアウトできるかはわからない。
そういった含みを持たせたつもりだった。
しかし振り返ってみると、ユキナはロンにはアラタがログアウトできないことを伏せると言っていた気がする。
「行きますよ、たぶん」
「そうか、ならいい。お嬢はだいぶ楽しみにしてるみたいだからな」
ユキナたちの方に目を移す。
メイリィがファッションショーのような歩き方で工房を横切り、ユキナとパララメイヤが観客役で拍手をしている。
アラタが見ていることに気づいたメイリィが、
「アラタ、アラタもバカなことやろ!」
「バカなことをやってる意識があったんですか?」
「あるわよ、バカなことって面白いもの」
するとユキナとパララメイヤが近づいて来てアラタの両腕を抑えた。
「さあさあ、アラタさんもやりましょ!」
「ウチの作った装備や! お代に付き合うくらいしいや」
ロンが半笑いになりながら引きずられるアラタに手を振っていた。
とにかく、これでビルドは完了した。
あとは1stフェーズ最後のダンジョンに挑むだけだった。




