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87.魔眼

 

 終末の光(カタストローフ)、名前からしていかにもな即死攻撃だ。

 アラタの経験上、こういった技は食らえばまず死ぬ。

 その代わりに、ゲームである以上なにか発動を阻害する手段か、防御する手段が用意されているはずだ。

 正規の攻略手順を踏まなかった場合のペナルティ、という可能性もなくはないが、普通に戦闘をしていたからそれはないはずだ。

 仮にそうだったとしたらなにをしても無駄なので考慮しないことにする。


 まず最初に試すべきは、結界への大火力攻撃。

 アラタがそう考えたところで、パララメイヤの詠唱は完了していた。


全て飲み込む無垢な力(テンペストオーダー)!!」


 黒き結界を竜巻が包み込み、破壊の力が荒れ狂っていた。

 そこにユキナのカラクリがさらに追撃をかける。ログに現れるソニックカノン/ダブルの文字。

 大容量のビームが黒き結界を焦がさんと奔っていた。


 命中とともに爆音が響いた。

 一拍おいて、竜巻が煙を巻き上げながらその姿を消す。

 

 煙が明けてアラタの視界に映ったのは、明滅する黒い結界だった。

 結界が弱ったような気配は見られず、完全に効果がないように思えた。

 それどころか先程よりも明滅の間隔が短くなっている。時間切れが近いということだろう。


PARALLAMENYA-RES:火力じゃだめみたいです!!!!


 パララメイヤの念信から切迫感が伝わってきた。

 こうなると終末の光(カタストローフ)は火力での結界破壊で中断する技でない。


ARATA-RES:となると……

MEILI-RES:あの岩でしょうね。


 先ほど落ちてきた最後の大岩。

 他に落ちた岩はいつの間にか消えているのに、あの大岩だけが残っている。


YUKINA-RES:あの大岩に隠れて凌げってこと!?

ARATA-RES:それでダメなら終わりでしょうね。

YUKINA-RES:不吉な言い方すんなや!!

ARATA-RES:言ってる暇あったら動いてください。もう時間が少なそうですよ。


 黒い結界の明滅は、今にも爆発しそうな気配を孕んでいた。

 全員が岩陰へと走った。

 アラタ、メイリィ、ユキナ、パララメイヤの順で陰に入り、最後にユキナのカラクリが到着したところで、目もくらむような閃光が坑道内を照らした。


「我が破壊の力を受けよ!!!!」


 耳をつんざくような爆発音の中で、魔道士の声が不自然なほどよく響いた。

 アラタは岩陰に隠れ、風圧だけを感じていた。

 痛みはなく、ステータス上の異常もなく、今のところはギミックの処理が成功しているように思える。


「連なる力よ、我が手が束ねん」


 そんな中、パララメイヤが詠唱を始めていた。

 爆発の中、微かにパララメイヤの歌うような詠唱が聞こえる。

 その流れは淀みなく、戦闘の最中であるにも関わらず、聞き入ってしまいそうな響きがあった。


 アラタたちが隠れていた大岩が、閃光の破壊の力に耐えきれずに弾けた。

 失敗か、と一瞬ヒヤリとしたが、それと同時に終末の光(カタストローフ)は終わっていた。


 それでもまだ、この攻撃は終わりきっていない。

 弾けた岩塊がアラタたちを襲っていた。

 メイリィとカラクリが飛び来る岩を叩き落とし、アラタはパララメイヤを守るように動く。

 全員が無傷、というわけにはいかなかったが、必要最小限のダメージには抑えられた。


 岩がなくなったことで、魔道士のいる祭壇が見える。

 祭壇を覆っていた結界はもうなく、そこには信じられぬといった目でアラタたちを見る魔道士の姿があった。


 そこで、パララメイヤの詠唱は完了した。


大地の威よ怒りを示せ(アースグレイブ)!!!!」


 パララメイヤの大魔法が魔道士を襲う。

 祭壇から鋭い岩の群れが、魔道士を飲み込まんと次々と生まれていく。

 さらにパララメイヤの攻撃はそれだけでは終わらなかった。


PARALLAMENYA:CAST>>連続魔カスケード


 ログに流れる連続魔の文字。

 湿原でも見たスキルだ。どうやらパララメイヤは全火力を吐いてしまうつもりらしい。

 パララメイヤが両手で杖を握り、その杖で地面を強く突いた。


滅ぼす慈悲なき業火(イグニションデマンド)!!」


 岩の群れが業火に包まれた。


「があああああああああああああああああああああ!!!!」


 今度こそ、魔道士の悲鳴が聞こえた。

 アラタたちのいる場所まで、熱風が吹き付ける。

 ものの数秒で、祭壇は生物が生きていい場所ではなくなっていた。

 業火は激しく、一目見てあの中にあって無事でいられるとは思えなかった。


 業火が収まる前に、その中から、黒い人間大のものが飛び出す。

 黒い塊は着地と落下の中間くらいの音を立てて地面へとたどり着いた。


 それはもちろん魔道士であった。

 見るからに効いている。

 魔道士は立ち上がった。

 炎に包まれていたというのに衣服は無事で、顔の包帯からは、今までと変わらず不気味な赤い瞳が覗いている。


 暗澹なる魔道士

 HP429/2444


 あと一息。

 アラタと、メイリィと、ユキナのカラクリがトドメを刺さんと動いていた。

 全速力で三秒とかからぬ距離。

 ほとんど競争じみた速度で三者は飛び出したが、それでも魔道士の方が早かった。


「我が魔眼の力を見よ!!!!」


 見ませんよ。アラタは心の中で笑った。

 ゲームとしてのフレイバーであると共に、攻撃に対するヒントとしてそう発声するように設定されているのだろう。

 それでも真剣勝負の最中にそんなことを伝えるのは滑稽に思える。

 これで発言とまったく関係ない攻撃をしてきたら大したものだが、ゲームである以上それはないだろう。


 アラタは咄嗟に頭を下げて魔道士から視線を逸らす。


 そこでアラタはミスをした。

 これは個人戦ではなく、パーティ戦なのだ。

 ギミックがわかったのならば、それは共有すべきだ。

 念信を送るだけの時間は確実にあったのだから。

 それなのにアラタはそれを怠った。


 異常は、パーティ欄からわかった。

 

 ユキナとパララメイヤは、魔道士の魔眼を見た。

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