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86/202

86.猛攻


 った。

 アラタは確信と共に魔道士の首にその刃を滑らせた。

 しかし確実に命中したにも関わらず、両断されるはずだったその首は健在だった。

 

 魔道士の身が翻り、蛇の群れとなった腕がアラタを巻き込もうとする。

 アラタは咄嗟に距離を開いた。


YUKINA-RES:まったく、先走って!!


 ユキナのカラクリとメイリィが、祭壇を登ってきていた。

 そうして背後から魔道士を攻撃する。


 背後を狙う二人の攻撃にも魔道士は反応した。


 身体を横にし、両の腕でカラクリ側の二人とアラタの双方を対処しようとしていた。


 暗澹なる魔道士

 HP2302/2444


 先ほどの首を狙った一撃。

 魔法の類で逸らされたと思ったが、そういうわけではないらしい。

 ログを呼び出せばそれがわかる。

 PvPだったら確実に首を両断していたはずの一撃は、クリティカル扱いになっていた。

 ある程度意思のあるボスだろうと、戦闘の仕様は通常のPvEと変わらないらしい。


 それでも、その戦いぶりは今までのエネミーとは一線を画していた。

 ボスの反応が素早く、的確だ。

 巨大な蛇の群れと化した両腕を使い、攻めつつもアラタ達を近づけぬように立ち回っている。

 まるでプレイヤーのように攻撃を防ぎ、避ける。だからHPの値がそれほど多くないのかもしれない。


 アラタは蛇を刀で弾きながら隙を伺う。

 強引に攻めきる手もないではないが、蛇の群れは思ったよりも厄介で、突っ込めば無傷ではいかないかもしれない。

 まだ開幕であることを考えると、ここでダメージを受けるのは良くないように思えた。


MEILI-RES:メイリィちゃんいきまーす!


 そう考えているうちに、メイリィが強引に突っ込んだ。

 パララメイヤのマジックミサイルに合わせて切り込み、踏み込みながら身体を捻ってギリギリ蛇を避けながら魔道士へと迫る。


 魔道士が両腕を閉じるようにしてメイリィに蛇を集中させた。

 メイリィはスライディングの要領で身を沈めながら蛇を躱し、魔道士を大鎌で引っ掛けながらその背後に抜ける。


 アラタはメイリィが作った隙を見逃すほど寝ぼけてはいなかった。

 瞬時に距離をつめ、斬撃から入る。

 メイリィが魔道士の右に、アラタは左へと回り挟撃の形をとった。


 魔道士は蛇の群れを小さくし、盾のようにしてアラタとメイリィの攻撃を防ごうとする。

 が、その程度で防げるようなものではなかった。

 大鎌と、刀と、徒手攻撃の嵐が魔道士を襲い、そこにさらにユキナのカラクリが加わった。

 まさしく袋叩きの様相に、魔道士のHPが削れ始める。


 アラタは突如身体が暖かくなるような感覚を味わった。

 たぶんパララメイヤのバリアだ。

 三人があまりにも密接状態にあるために遠隔攻撃ができないのだろう。

 手持ち無沙汰になってバリアを付与しておくくらいしかやることがなくなってしまったのだ。


 まさかこのまま攻めきれるはずはないとは思っていたが、予想通り魔道士側からアクションがあった。

 その身が黒いオーラのようなものに包まれたのだ。


ARATA-RES:離れましょう。


 アラタが一瞬だけ先行したが、ほぼ全員が同時に魔道士から距離をとった。


「わが魔力、思い知るがいい!!」


 発声とともに、魔道士を包んでいた黒いオーラが爆発した。

 魔道士を中心に、球状の爆発が発生した。黒い炎のようなものがあたりに飛び散る。

 アラタとメイリィとカラクリは既に爆発圏外だ。


ARATA-RES:ずいぶんいい声してましたね。舞台役者の方が向いてるんじゃないですか?

YUKINA-RES:そんなん本人に言いや。

ARATA-RES:声じゃ間に合わないですし、念信は通じないじゃないですか。


 そんなふざけたやり取りをしていると、爆発が明け、魔道士が再度姿を現した。


PARALLAMENYA-RES:飛び散った炎、位置が……


 アラタは視線を走らせる。確かに魔道士を中心に、円を描くように黒い炎が配置されているように見えた。

 その形は不自然で、偶然とは思えない。なにか追加のギミックがある。


 アラタとメイリィは突っ込むことを選んだ。

 ユキナはカラクリを退かせた。


 その瞬間に、黒い炎が線で結ばれて、ドーナツ状の黒炎が発生した。

 アラタとメイリィは魔道士に密接することで難を逃れていた。

 そして、その時にはもう印は結んでいる。


「さっきみたいないい声で悲鳴をあげてもいいですよ」


 右手は、銃を象っている。


「雷神」


 アラタの指先から奔る電光が魔道士を焼いた。


MEILI-RES:気が合うじゃない。


 戦闘の最中で、メイリィの声はとても澄んで、落ち着いて聞こえた。


犠牲的な急襲(スーサイド・アサルト)


 アラタの目に、メイリィの大鎌が赤く輝くのが見えた。

 そしてその大鎌に二つの非実体の刃が生まれ、三又となった大鎌が不可解な速度で魔道士を襲った。

 大鎌と人体が接触したとは思えない、爆発音に近い音が響いた。


 風。

 アラタは風圧を感じたと思ったら、身体が浮いて吹き飛ばされていた。

 初めはメイリィの攻撃でのなにかかと思ったが、メイリィ自身も吹き飛ばされ、魔道士だけが祭壇の中央に立っている。


「この虫けらどもめ!!!!」


 魔道士の声が空間を満たし、坑道内が揺れ始めていた。

 

 タイミングで的に偶然の地震ということはないだろう。

 さきほどの風圧もおそらくは強制的なノックバック。


 暗澹なる魔道士

 HP1142/2444


 HPが50%を割っている。

 アラタとメイリィが同時に大技を入れたことで一気にHPが減り、連続で特殊行動になったのだろう。


 アラタとメイリィが祭壇から落とされ、着地した。

 ユキナとパララメイヤは遠隔攻撃を続けているが、祭壇の周囲に結界のようなものが張られて攻撃が通らない。


 目の端に、塵のようなものが降ってきているのが見えた。


ARATA-RES:上ですね。


 アラタは注意を促す。

 天井から生えていた氷柱のような岩が震えている。

 それらが一斉に降り注いできた。


 全員が走り回ってそれを躱していく。

 パララメイヤとユキナはスキルで加速し回避に専念する。


 岩の落下を避けるのが難しいわけではないが、魔道士の方が気になった。

 祭壇に張られた結界が、どんどん黒ずんでいるように見えるのだ。


 岩の雨が降っている時間は十秒もなく、ユキナのカラクリが多少のダメージを受けた以外に、パーティに被害はなかった。


 岩の雨が終わったと思ったところで、最後に巨大な岩が落下し地面に突き刺さった。


「我が魔導で滅びるがいい!!!!」


 もはや黒ずんで見えなくなった結界の内側から魔道士の叫び声が聞こえる。

 その結界は不自然に明滅していた。


 たぶんその結界の名前が見えていたのは、観察眼を持っているアラタとパララメイヤだけだろう。


 戦闘ログにはこうある。


 CAST>>終末の光(カタストローフ)

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