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83/202

83.同時撃破


「僕が行くので、ユキナは遠距離から初めてください」

「了解、気を付けてな」


 アラタが中ボスエリアに踏み込むと、鎧が動き出した。

 首のない鎧が壁際から立ち上がる。

 大きさは人間よりも一回り大きい程度で、戦いにくいということはなさそうだ。

 よくファンタジーもので見るデュラハンかと思ったが、馬が出てくる気配はなく、あくまでも単独のボスであるようだった。


 リビングアーマー

 HP888/888


 二人パーティで攻略する前提からか、HPはそれほど高くなかった。

 これだとそれほどの長期戦にはならなそうだ。


「では行きますか」


 アラタが走り出す。

 リビングアーマーまでの最短距離になる一直線ではなく、わざと軸をずらして走った。

 ユキナのカラクリの射線を開けるためだ。

 

 カラクリが砲撃を開始する。アラタの横を砲弾がすり抜け、鎧へと迫る。

 鎧が大きく横へと動いて砲弾を躱した。

 鈍重そうな見た目ながら、それなりに動けるらしい。

 

 ユキナが矢での攻撃に切り替える。

 いくらか命中はしているが、矢は鎧に弾かれていた。


 リビングアーマー

 HP870/888


 刺突には耐性があるようで、大したダメージになってはいない。

 ユキナの弓が一旦止み、アラタが鎧の間合いに入った。


 鎧の手には、いつの間にか大剣が握られていた。

 踏み込んだアラタに大剣が振り下ろされる。


 アラタはそこにタイミングをあわせて切り込んだ。

 大剣の一撃を躱し、同撃判定をもらって横一文字に斬りつける。

 硬い金属を殴りつける感触。

 そこから反撃の隙を与えず、即座に練気を込めた前蹴りを叩き込んだ。


 鎧がたたらを踏んで後ずさる。

 そこをユキナのカラクリによるビーム攻撃が襲った。

 アラタの横を閃光が横切る。


 悪いタイミングではなかったはずだ。

 それなのに、ビームは命中しなかった。

 

 鎧が後ずさった状態からさらに後ろに跳んで射線を外し、カラクリのビームを避けたのだ。


YUKINA-RES:動かんといてや! 外れるやろ!!

ARATA-RES:どうやら遠隔に対しての回避能力は高めみたいですね。


 鎧を覆っていた黄色いオーラが光を増した。

 そして、突如アラタに向かって突撃してきた。


 鎧は突きから入った。

 アラタは攻撃の軌道から横にずれて回避。

 そこから横薙ぎ、切り上げ、唐竹割りと四連撃が続いた。

 アラタはそれを体捌きだけで躱した。

 どんな隠し玉があるかわからない以上、最小限の動きよりも大きく余裕をとって動く。


MEILI-RES:こちら80%。


 メイリィからの念信だった。

 どうやら向こうの削りは順調らしい。


 リビングアーマー

 HP816/888


ARATA-RES:こっちはまだ1割程度しか削っていません。

MEILI-RES:なに? 遅くない?

ARATA-RES:慎重にいってるんですよ。競争じゃないんですから。

MEILI-RES:そうなの? じゃあ競争しよっか。


 四連撃を終えたリビングアーマーの鎧の中心に、練気を込めた肘打ちを叩き込んだ。

 ログを見る限り、斬撃よりも打撃の方が通りがいいようだ。


ARATA-RES:調整という話は?

MEILI-RES:アタシは全力で行くから、アラタが合わせてくれればいい感じになるんじゃない?


 リビングアーマーは肘打ちによろけはしたが、そこから反撃に大剣を振り回してきた。

 いくらかの技巧は感じるが、それでも当たるような攻撃ではない。


ARATA-RES:加減して無理なく討伐しない理由、ありますか?

MEILI-RES:なに? もしかして削り負けるから加減してほしいの?


 それを聞いて、アラタはユキナに個人念信を飛ばした。


ARATA-RES:近接モードになってめちゃくちゃしてください。僕も合わせますから。

YUKINA-RES:ちょ、メイリィの挑発に乗るんか!?

ARATA-RES:どっちにせよ向こうがやる気ならこっちも合わせるしかないでしょ。


 アラタはリビングアーマーの攻撃をいなしながら、右手で印を結んだ。

 メイリィへと念信を飛ばす。


ARATA-RES:途中でペースを緩めてくださいとか寒いこと言わないでくださいよ。


 念信からも、メイリィの笑っている気配が伝わってきた。


MEILI-RES:素敵。


 アラタの人差し指と中指が、リビングアーマーを指した。

 攻撃を一拍ずらし、リビングアーマーの斬撃をわざと待つ。


「同撃雷神」


 そこから先は攻め手が途切れることはなかった。

 ユキナのカラクリの近接攻撃に巻き込まれないように立ち回りながら、さらにリビングアーマーの攻撃を回避して的確に打撃を入れていく。

 リビングアーマーの最大攻撃は先程の四連撃であるようだった。

 アラタは率先してそこに突っ込んだ。

 そんなものは、アラタにとっては同撃崩を入れるチャンスが四回あるに過ぎなかった。


ARATA-RES:55。

MEILI-RES:45。

ARATA-RES:35。

MEILI-RES:30。

ARATA-RES:20。

MEILI-RES:20。


 報告も数字を言うだけの雑なもので、協力して戦っているとはとても思えない状態であった。

 

 アラタがリビングアーマーの体勢を崩し、そこにユキナがバンカー/ダブルを叩き込んだ。


ARATA-RES:5。手加減、いります?

MEILI-RES:15。気にしなくていいわよ。


 アラタは言われた通り気にしなかった。

 バンカーを受けて倒れ込んでいる鎧に接近し、大きく右足を振り上げた。


YUKINA-RES:待て待て待て待て! 同時撃破するんやろ!!

ARATA-RES:僕はメイリィを信じてるんで。


 アラタはなんの容赦もなく、乗せられるだけ練気を乗せたかかと落としをリビングアーマーに決めた。


 二つの念信は、ほぼ同時に発信された。


ARATA-RES:撃破。

MEILI-RES:撃破。


 おそらく、最後になにか大きいスキルを切って帳尻を合わせたのであろう。

 削り合いに勝っても、同時撃破になってもいいので構わず行ったわけだが、結果的には最良に近い成果となってしまった。


 突然リビングアーマーの鎧が粉々に砕ける。

 その中身はなにもない。

 そして、砕けた鎧の破片が光の粒子になってアラタとユキナの身体に吸収された。

 網膜にレベルアップの表示が流れる。


 経験値が入ったということはもう復活はしないのだろう。

 パーティを分割して二体のボスを同時撃破するというギミックは成功したわけだ。


MEILI-RES:アタシたち、最高のコンビネーションだったんじゃない?

ARATA-RES:僕の知ってる世界の最高とはずいぶん違うみたいですね。


 とにかく撃破には成功したのだ。

 アラタとユキナは来た道を引き返した。


 ちょうど入口のあたりで、メイリィとパララメイヤに合流した。

 メイリィの嬉しそうな顔と、パララメイヤの疲れたような表情がえらく印象的であった。

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