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71/202

71.思案


YUKINA-RES:今日ちょっと会える?:FGS

ARATA-RES:いきなりなんです?:FGS

YUKINA-RES:聞きたいことがあるんよ、色々と:FGS

ARATA-RES:念信じゃだめなんですか?:FGS

YUKINA-RES:味気ないやん。やっぱ直接会って話さんと。今ガイゼルにいるんやろ?:FGS

ARATA-RES:わざわざ聞かなくてもフッターの通りですけど:FGS

YUKINA-RES:なら会えるやん? 十時までにはウチの工房に来てな!


 アラタが起きた直後にそんなやりとりがあった。

 

 現在時刻は九時三十分。

 そろそろユキナの工房に向かう時間だ。

 

 朝食を終えてアラタは店から出る。

 状況はどんどん良くなっている、はずだ。

 開放への条件が進んでいるのはもちろんのこと、たった今アラタの胃の中に収まったものについてもそれは言える。

 

 ユキナと関わったことで、マニーに対する意識をいくらか下げてよくなったのは大きい。

 探索が進み手に入るマニーが大きくなったのもあるが、武器が手に入ったことで嗜好品に対して、金遣いを前より緩い基準で考えていいのは精神的にかなり楽になった。

 ちゃんとした味がある飯はやはり最高だ。

 朝食をきちんと取っているというのは一日の活力になる。

 アルカディアに拘束されている以上まだ固いベットは避けられないが、食事に余裕ができただけでも有り難い話だ。


 アラタはユキナの工房への道すがら、昨日のことを考えていた。

 

 ネメシスと名乗った幼女が言った言葉。

 シャンバラを自由に改変できるウイルス。

 話を聞いてから、そのことをずっと考えていた。


 もし本当ならば、即保安委員会に通報して領域を停止してもらう案件だ。

 しかし、アルカディアは保安委員会のチェックを抜けている。

 それはつまり、調べた限りでは危険はない領域だと判断されているわけだ。


 もしウイルスが仕込まれているならば、チェックを抜けられるとは思えない。

 ネメシスが言っていたのはどこまで本当なのか。

 

 ただ、見世物にされている、というのは本当であるような気がした。

 退屈なエデン人が最後に行き着く娯楽が追想リプレイというのはいかにもありそうで、良質なドラマを見るために一計を案じているというのは嘘ではないのかもしれない。

 そう考えてしまうと、ネメシスすら見世物をよりドラマチックにするための舞台装置なのかもしれないと考えてしまう。

 老人とネメシス、この二人を巧みに使い、アラタを動かすわけだ。


 微妙なところだ、とアラタは考えいる。

 今のところはゲームに乗ろうという気持ちは変わっていない。

 アラタは喧嘩は買う主義だ。

 見世物にしようというなら、その思惑くらい超えてやろうという気概がある。


 しかし、もしものことを考えるとパララメイヤには話せなかった。

 アラタ個人が囚われているだけでなく、シャンバラに危険が迫っている可能性があるということは。

 信憑性のない話でいたずらに怖がらせる意味はない。

 しかし、そういった決断をしたのは、心のどこかでネメシスの言葉を信じていたのかもしれない。


 そして、話さないのはユキナにもだ。

 

 十中八九、ユキナは昨日の出来事について聞いてくるだろう。

 アラタ以外の人間には、老人の姿が見えていないようであった。


 見えない誰かと話し、その直後に通常のものとは思えないイベントが発生した。

 それにユキナはアラタの目についても何かを察していたような気配があった。

 直接会って話したいというのは、重要な話をしたいからなのだろう。

 念信ではなく、対面でしか得られない情報というのは山程あるものだ。


 アラタは、話すつもりでいた。

 アラタがアルカディアから出られなくなっていることを。

 おそらく、エデン人のいたずらだと。


 巻き込んでしまったせいもある。

 本人がどう言おうとロンが強制切断されたのだ。

 それを全く知らんぷりしようとはアラタは思わない。


 それに、ユキナはあまり気にしない予感がするのだ。

 アルカディアになにかエデン人の思惑が絡んでいようと。

 

 アラタが領域を移動できない状態にあると聞いて保安委員会に通報するようなことはないと思う。

 それよりは、その事象そのものを娯楽として楽しもうとするような気がする。

 もし上手くいけば、パララメイヤに次いでアラタに協力してくれるかもしれない。


 そういった希望がアラタの中にはあった。

 ユキナは職人クラスを上げていて、仲間に引き込めれば様々な面で有利になる。

 間違いない話だが、そんな理由は後付だった。

 

 一緒にいて悪い気がしなかった。

 それが一番重要な理由だ。

 だから話そうと決めた。

 だから仲間になって欲しいと考えた。


 ウマの合わない相手というのは、ちょっと一緒にいればなんとなくわかるものだ。

 ユキナにはそういった違和感がなかった。

 本当の理由はそれだけで十分だ。


 それでもアラタの考えをすべて話すかはまた別問題なのだが。

 

 昨日のネメシスの話。

 あれは本当にわからない。

 アラタが想像しているよりも笑えない話なのか、それともアラタを見世物にするためのブラフなのか。


 もっとネメシスと話せば判断できる部分もあるのかもしれないが、どうすれば接触できるかはわからない。

 向こうからの接触を待つしかないのだ。


 昨日あった話については濁しておこうかとは思う。

 真偽不明であり、最悪の可能性を話して無駄に怖がらせるのも良くない。

 重要なのは、アラタが本当に領域を移動できないことと、それを解除する手段が用意されているところだ。

 エデン人とのゲームを手伝って欲しい、そう言えばユキナは食らいついてくれそうな気がする。


 時刻は九時五十分。

 アラタはようやく、ガイゼルのスラム街じみた地域にたどり着いた。

 このペースなら十時きっかりにユキナの工房に着けそうだ。


 そんな時だった。

 ユキナからの念信。

 念信だけではわからないが、そこには冗談ではない、本当の緊迫感があるように思えた。

 冗談でなかったのなら、全く笑えない一言だけのメッセージ。


YUKINA-RES:助けて:FGS

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