66.攻略の糸口
YUKINA-RES:どうするん!?
ARATA-RES:どうするもこうするも、倒すしかないです。
落ち葉の集合体はゆっくりと回転しながら僅かに浮いていた。
巻き込んでしまった、という意識がノイズとなって、アラタの行動を遅らせていた。
真っ先に動いたのはロンだった。
攻撃を誘発するように集合体の射程へと飛び込む。
集合体は体の一部を錐のように伸ばして、ロンを串刺しにしようと行動を起こした。
ロンはそれをかわす。
集合体は回転しながら次々に錐を伸ばしてくるが、ロンは回避だけに専念してそれを凌いでいた。
RONALD-RES:たぶんコイツは一番近いプレイヤーを狙う! 俺が引き付けておく!
パララメイヤのバレットが集合体に発射されていた。
連続で放たれる魔法の弾が落ち葉の集合体に命中する。
その体は落ち葉で構成されているはずなのに、まるでバリアでも張っているかのように魔法の弾を弾いていた。
そこでようやくアラタも動いた。
手裏剣を手元に出現させ、投げながら前線へと飛び出る。
ロンの邪魔にならぬように接近し、攻撃を分散させる構えだ。
的がデカければ当てるのも容易い。
手裏剣は命中したが、当たり前のように何の効果も示さなかった。
接近したアラタを、一部の錐が狙い始めた。
かなり早い攻撃だが、直線であることが救いだった。
アラタはさらに距離を詰めて忍者刀の一撃を振るった。
両手で柄を握り、威力だけを考えた一つの太刀。
硬い金属を殴りつけたような感触。
刀が弾かれ、それと同時に集合体の攻撃がアラタに殺到した。
一つの個体から出ている一直線の攻撃である以上回避は難しくないが、いかんせん早すぎた。
密接距離を維持することは不可能で、回避するには距離を開く必要があった。
アラタは後ろへと跳びながら空中で体をひねり、錐の軌道から無理やり外れる。
複数箇所に痛みの感覚。
直撃はなかったが錐がかすり、かすった部分は皮膚が裂けて血が滲んでいた。
着地。
もし着地点を狙われていたらどうしようもなかったかもしれないが、そうはならなかった。
ターゲットは再びロンへと戻っていた。負担を減らすためにアラタも再度前へと出る。
近距離攻撃が通じた様子はない。
ロンの右拳は逆にダメージを受け、アラタの刀にしても効果はなかった。
ロンは近距離攻撃に見切りをつけているのか、ヘイトを取ることだけに注力しているようであった。
しかし、遠距離攻撃にしても通じている気配がない。
近接組が攻撃を引き受けている間、パララメイヤのバレット、カラクリの飛ばす矢のような攻撃が集合体に命中し続けているが、それらがダメージを与えているように思えなかった。
集合体が錐による攻撃をやめ、またしても落ち葉の嵐を放ってきた。
アラタは腕で顔だけをかばった。そう大きくないダメージにせよ、目にあたったらそれだけで致命的になりえる。
葉の嵐が全員を飲み込んだ。
大打撃ではないにせよ、回避不能なのが笑えない。
アラタとロンのHPは半分近くまで削られ、パララメイヤとユキナに至っては1/3程度しかHPが残っていない。
攻撃が通じず、回避不能な全体攻撃が来る。
劇的な攻撃を仕掛けてきているわけではないのに、勝ち筋が見えず敗北への道だけが見えていた。
UNKNOWN
HP???/???
一体なにと戦わされているのか。
観察眼のスキルがあるにも関わらず、何のデータも追加されない。
それどころか、戦闘ログにはこの集合体の攻撃は一切表示されていなかった。
まるで、その存在が実在していないかのように。
この相手をどうにかすればアラタの解放条件に繋がるのかもしれないが、そんなことを考えている余裕はありはしなかった。
PARALLAMENYA-RES:回復するので集まってください!!
RONALD-RES:俺はいい!!
迷ったのは一瞬だ。
アラタはロンを信じることにした。
アラタはパララメイヤの元へと戻り、ロンに攻撃が集中する。
ロンはそれを見事にかわしながら回復薬を切っていた。
ロンは間違いなく良いプレイヤーだ。それに最速のクラスというのも伊達ではない。
回避だけに専念すれば直線的な攻撃を受けることはそうそうないはずだ。
下っている最中に、パララメイヤがロンに何か魔法を飛ばしていた。
ログにはミスティックヴェールと表示されている。バリア系のスキルなのかもしれない。
パララメイヤの元にはユキナも集まっていた。
アラタの到着と同時にパララメイヤのヒールが発動し、三人のHPが戻った。
リキャが戻ったカラクリのビームが放たれるが、やはり集合体には効果がないようであった。
YUKINA-RES:攻撃が通じんやん! なんなんアイツ!!
確かに攻撃は通じている様子はない。
全くダメージが与えられず、こちらだけが一方的に削られ続けている。
しかし、なにか糸口があるように思えた。
アラタはあの老人が大嫌いだが、絶対に勝てない相手と戦わせるとは思えない。
そこには不思議な信頼があった。
これはゲームだ。それだけは間違いない。
ならば、なにか攻略の糸口が用意されている。
赤い光球を、あの老人は見せていた。
そして、その光球があの落ち葉の集合体を構成していると考えていいはずだ。
ARATA-RES:最初に見た光球、あれが弱点だとは思いますが……
それが正しいとしてどうすればいいのか。
集合体は今のところ鉄壁に見える。
いや、
ARATA-RES:最初にロンが攻撃した時にだけ、落ち葉に隙間ができてましたよね?
PARALLAMENYA-RES:それはわたしも確認しています。
ロンは今も最前線で攻撃を避け続けていたが、どこまで集中力が続くかはわからなかった。
最初のロンの攻撃だけがどう違ったのか。
パララメイヤがアラタの疑問に答えるかのように念信を飛ばした。
PARALLAMENYA-RES:単純に威力かもしれません。ログを辿りましたが、ギガンティックブロウとあります。
ロンをが念信に割り込んでくる。
RONALD-RES:ああ、あれは今の俺の最大スキルだ。
にしては地味でしたね、という言葉は飲み込んだ。
正しいかはわからないが、糸口は見えた。
高威力の攻撃を当て、そこで開いた隙間から光球を狙う。
単純に思えるが、高速で放たれ続ける錐を掻い潜ってそれを実行するのは簡単ではない。
雷神はまだ一撃残っている。
ARATA-RES:では僕が……
その時にはもう、ユキナが動き出していた。
カラクリを先行させるだけではなく、ユキナ自身まで走っていた。
速度からして移動系のスキルを使っているのは間違いない。
ユキナは本体は最弱と言っていた。
それなのに前線に出るなど一体なにを考えいるのか。
それでもユキナからは自身に満ちた念信が飛んできた。
YUKINA-RES:ウチがやったるわ!!




