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58/202

58.ガチャ


 念信の内容は「ちょっと来てくれん?」だった。

 その時点で、少し嫌な予感はしていた。


 アラタはパララメイヤを連れてガイゼルの商業地区まで飛び、そこの女神像の前でユキナは待っていた。

 ユキナはすぐにアラタたちに気付き、耳をぴょんと反応させる。


「お、そっちの子が噂のキャスターか?」


 興味深そうにユキナがパララメイヤを見ている。


「はじめまして、パララメイヤ・スースルーです。あの、杖、ありがとうございます」


 ユキナは大げさな身ぶりで手を振り、


「いいっていいって、約束してた報酬やし。アラタ・トカシキはそれだけの仕事をしてくれたからな」


 言ってアラタに笑いかけてくる。


「聞いてるかもしれんけど、ウチはユキナ・カグラザカ。良かったらフレンドにならん?」

「あ、はい」


 一瞬の間。


「おおきに、ウチ友達少ないんでうれしいわ」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 ずいぶんと気軽にフレンドになるものだな、とアラタは思う。

 ユキナ・カグラザカはもっと他人を警戒するタイプかと思った。


「ところで、何のために呼んだんですか? 言い方から目的のサブクエストを見つけたわけではなさそうですが」

「わからんよー、ちょっと二人とも着いてきてくれる?」


 ああ、これは絶対違うな、とアラタは確信した。

 そうであるならば事前に言うだろうし、ロンが同行していそうな気もする。

 一応歩きながら聞いてみる。


「ロンはどうしてるんですか?」

「素材集めのお使い中、ロンが集めてウチが加工しとるんよ」


 ユキナの足は賑やかな方へと進んでいく。

 大きな通りを進む毎に露店が増えていき、到着した先は市場であった。


「市場? ここにサブクエストがあるんですか?」


 とパララメイヤ。


「あるやろうなぁ、こんだけ人がいれば」

「つまり、サブクエストを見つけたわけではないんですね?」

「ちょっと協力して欲しいんよ」

「何をです? クエストを一緒に探そうと?」

「いやいや、それなら手分けして探した方がマシやろ。こっちこっち」


 ユキナは慣れた足取りでズンズンと市場を進んでいく。

 アラタとパララメイヤは人を避けながらついていく。

 呼びかける商人の声に食べ物のいい匂い。雑多に商品を並べている露店に値切ろうとする客の声。

 

 そうして辿り着いたのは、一件の屋台だった。

 上部の看板には「天運来迎」とある。

 これはもう、絶対にアラタの望んでいるクエストではない。


「なんです? これは?」

「ちょっと見とき」


 そう言ってユキナは店の前まで進む。


「おっちゃん、一回お願い」

「へい、まいど!」


 屋台のカウンター上にはハンドルのついた八角形上の箱があった。

 箱は固定されていて、ハンドルを握って回せるようになっているらしい。

 ユキナはハンドルに手をかけて、目をつぶって念じるようにしながら箱を回した。


 ガラガラガラ、と中に入っている何かがぶつかり合う音が響く。

 そして、箱の中から小さな玉がコロンと転がり出てきた。

 玉は、真っ白な色をしている。


「残念、はいポーション」


 店のおっちゃんがユキナにポーションを手渡した。

 ユキナはポーションを手にアラタ達のところまで戻ってきた。


「というわけや」


 ユキナは頷いて言う。


「どういうわけですか?」

「これはな、ガチャや! ただし一人一日一回までしか回せん。そこで人海戦術というわけや。費用はウチが出すし、当たりが出たら適正な価格で買い取ったる。だから二人とも回してくれん?」


 何か違う気はしたが、まさかガチャを回してくれと頼まれるとは夢にも思わなかった。

 事態の緊急性を伝えていないアラタにも非はあるかもしれないが、いくらなんでもこれはないだろう。


「ちょっと楽しそうですね」

「せやろせやろ? ほらお小遣いや、回してき」


 ちょっとの間から、トレードをした気配があった。

 パララメイヤは屋台へと進んで、おっちゃんに声をかけた。

 パララメイヤがハンドルに手をかけ、抽選機がぐるぐる、ぐるぐると回る。

 出てきたのは、当たり前のように白い玉だった。


 パララメイヤがポーションを手に戻って来る。


「だめでした」


 それでもパララメイヤは楽しそうだった。


「ドンマイドンマイ! ナイスファイト! アラタも回してくれるよな?」


 ユキナがよくわからないノリで励ましながら、アラタにまで声をかけてくる。


 アラタは大きなため息を一つ。

 わからない話ではない。

 このガチャはデイリー制で一日一回しか回せない。

 当たりは一応貴重なものなのだろう。

 そうであるならば、早い段階で回数をこなしておくのは間違いではない。

 フレンドになったばかりの相手に頼んでまですることかはともかくとして。


「わかりましたよ……」


 アラタはユキナからガチャの代金をもらう。

 1000マニーとは結構な高額だな、と内心で思う。


 アラタは屋台の前まで行き、


「一回お願いします」

「まいど!!」


 おっちゃんの威勢のいい声と共に、手持ちから1000マニーが引かれたシステムメッセージが表示される。

 店頭にある掲示を見るに、一等から順に赤、オレンジ、黄色、ピンク、白となっているらしい。


 アラタはガラガラのハンドルに手をかけて、やる気のない感じで回す。

 ガラガラ、ガラガラ、中から玉のぶつかり合う音が聞こえる。


 そうしてコロコロと出てきたのは、赤でも、オレンジでも、黄色でも、ピンクでも、白でもない玉だった。


 出たのは、紫色の玉だった。


 店主のおっちゃんがハンドベルを取り出して急に音を鳴らした。


「特等!! 特等だよ!!!!」


 おっちゃんが叫ぶ。周囲のNPC達も何事かと集まってくる。

 遠巻きに見ていたユキナとパララメイヤもぽかんとした目でアラタを見ている。

 しばらくしてからようやくおっちゃんがベルを鳴らすのをやめた。

 おっちゃんは背後の棚から何かを取り出そうとしている。


「特等、とは? 掲示にはそんなものは書いていませんが」

「特等は特等だよ、ほら、持ってけ泥棒!」


 おっちゃんが戻って来てアラタに小さな杖らしきものを手渡した。

 長さは指揮棒くらいで、太さはそれなりにある。

 アラタは視線をポイントして詳細を見てみる。


 壊れた魔道具

 壊れている。直せば使えるものになるかもしれない。


「この店は特等に不良品をよこすんですか?」


 アラタが言うと、おっちゃんの目つきが変わった。

 怒ったわけではない。

 いきなり、おっちゃんから魂が抜けたように、その目は虚ろなものになった。


 まるで意識を失ったまま立っているようだ。

 そしてそれを裏付けるように、おっちゃんの口から出たのは予想だにしなかった言葉だった。


「それを追えば、お前の望むものに辿り着けるかもしれんぞ?」


 おっちゃんの声が、変わっていた。

 それは、あのエデン人を名乗る老人の声に聞こえた。


「なんですか? アナタは」


 そこでおっちゃんは、正気を取り戻したようにアラタを見た。


「な、なんだい兄ちゃん、怖い顔して」


 演技には見えない。


「今アナタは何を言ったか覚えてますか?」

「な、なにって特賞を渡しただろ? 今は不良品かもしれんが、もとは結構な魔道具だったと聞いてる? なんなら一等の景品に変えたっていいが」


 おっちゃんは狼狽している。

 一等と引き換えてもいいと言われてアラタは一瞬迷ったが、


「いえ、これをもらいます」


 そう言ってアラタは踵を返しユキナ達の方へと戻った。

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