57.合流
「どうして教えてくれなかったんですか!!」
パララメイヤが人目も気にせず叫んだ。
ユキナから武器を受け取ったあと、アラタはすぐにパララメイヤと落ち合った。
目的はもちろん武器を渡すためだ。
ガイゼルの女神像の前で合流し、事の経緯を話すと、パララメイヤはいきなりそう叫んだのだ。
その顔は、怒っているというよりも残念がっているように見える。
「いやー、武闘会のメンバーは決まってましたし、それにキャスター向きのイベントじゃないですしね」
「そういうことじゃないです!!」
「というと?」
「わたしも見たかったんですよ! アラタさんが戦うところ!!」
「ああ、そういう」
「しかも相手はヤン・イェンシーだったんですよね? わたしでも知ってるようなバイヤーです! そんな人とアラタさんが戦って、しかも勝つなんて!」
パララメイヤは見られなかったことが悔しくて仕方がないようだった。
「追想で見せられはしますよ、僕がこの領域から出られたらですが。メイヤはこの期間、何をしていたんですか?」
パララメイヤはまだ納得がいってないようではあったが、表情を改めて口を開いた。
「星を追うものについて調べていました。この領域内で」
「なにか成果があったんですか?」
「ないとも言えるし、あるとも言えます。わたしはフィーンドフォーンとガイゼルの図書館を当たりました。初めに言うと、星を追うものに関しての記述はどこにもありませんでした。理念はシステム的な用語なのでこれはある程度予測できたことでした」
「あるとも言えるというのは?」
「アラタさんはエデン人の複製体とやらから、星の試練という単語を聞いたんですよね?」
「確かそう言っていたと思います」
「それについての記述はあったんです」
「なにか有用な情報が?」
パララメイヤは首を傾げながら耳をいじっている。
「微妙なところです。記述があったのは、アルカディアの神話についての本なんです。そこには星の試練を超えしもの、神へと至るといった説明がありました」
「いきなり胡散臭い話になりましたね」
「でも、アラタさんは試練を超えたら、という話を聞かされたんじゃなかったですか?」
――――お前が星の試練を越えれば、どんなことも思いのままだ。
老人は、確かそう言っていた気がする。
それに幼女の姿をしたエデン人の複製体を名乗る人物も、願いの種子なる単語を口にしていた。
「心当たりがないとは言えませんね」
「思うんですが、星の試練とやらをクリアできたら、本当に神様になれるんじゃないですかね?」
「どういう意味ですか?」
「そういう遊技領域って結構あるんですよ。そういうゲームの場合は、初めからゲームの目的が王になるのを競ったりするものが多いですけどね。目的を達成したプレイヤーは、その領域を自分のものにできるんです。ニライカナイってわかりますか?」
「ファンタジー調の居住領域ですよね?」
「あれは元々遊戯領域で、この世を手にするのは誰だって競うゲームだったそうですよ。そしてゲームの勝者はニライカナイを居住領域として運営することを望み、今もその世界のマスターとして君臨しているそうです」
アルカディアのマスター。
まるで心を惹かれない話だった。
それに、その推測はどこか違っている気はしていた。
老人も幼女も、夢が叶うと言っていた。それがアルカディアを自由にできるものとは、どうしても思えなかった。
「死ぬほど興味の湧かない話ですね」
「そういうと思ってました。女神と星神についての話も興味ありませんよね」
世界設定的な話だろう。それも興味は惹かれない。
「理解してくれてて助かります。他に何か意味がありそうな情報はありましたか?」
「試練の内容について少しだけ。試練に挑みし者は、四つの獣を征した後、星神に召されると」
アラタは右目を大きく見開き、指で示した。
「この目に刻まれた六芒星の完成が試練のクリアに関係しているんじゃないんですかね? 現在は三体のボスを倒して、対応する頂点が三つ濃くなっている状態だ。六体のボスを倒せばめでたく最初の試練とやらがクリアで、僕は戒めをとやらを解かれてめでたくアルカディアとオサラバして、Beginner visionの曲を聞きながら伸びたカップ麺を食べられる。違いますか?」
パララメイヤは困ったように首を傾げ、
「わたしもそう思います。四つの獣を倒せが正しければ、あと一体ボスを討伐できればクリアということになりますからね」
「結局なにもわかってないに等しい、と」
「すいません」
「いえ、いいですよ。わざわざ調べてくれてありがとうございます」
パララメイヤはどこか照れているように見えた。
本当に照れているのかもしれない。
「ところで、アラタさんはシャンバラに戻れるようになったら、もうアルカディアでは遊ばないんですか?」
「そのつもりですよ。あの老人に一発入れたい気持ちはありますが、めんどうごとには関わりたくないですしね」
「そうですか……」
「どうしてですか?」
「いえ、一緒に遊べなくなっちゃうな、と……」
パララメイヤの寂しそうな表情を見ていると、不思議な罪悪感が首をもたげた。
「まあそこらへんは検討中です。出入り自由になれたら気軽に遊べるかもしれませんしね。そうだ、メイヤに渡すものがあったんです」
「? なんですか?」
アラタはパララメイヤにトレードを申し込んだ。
内容は当然征伐者の杖だ。
バザーに出ているどの武器よりも強い。現状このミラーで手に入る最強武器だろう。
「どうしたんですか!? これ!?」
「さっき言ったじゃないですか、武器と引き換えにクエストを手伝ったって」
「わたしの武器だったんですか!? じゃあアラタさんの武器は……」
「僕ももらいましたよ。クエスト報酬を考えるとそれでも安いものだった気もしますけどね。まあユキナ・カグラザカとコネクションができたのは大いに意味があると思います」
「もらえませんよ! こんなすごいの!!」
「受け取ってください。僕が持っていても仕方ありませんし、罪滅ぼしのつもりですしね」
「その件についてはもう言わない約束じゃないですか」
そう言えばそんな約束もした気がする。
アラタは何か気の利いた言葉がないか考え、
「じゃあそうですね、一緒に遊ぶ相手が強い武器を持っていると、僕自身も有利になるわけですしね」
パララメイヤはしばし沈黙してから、
「そういうことなら……受け取ります」
パララメイヤがトレードに了承を返した。
アラタの網膜に、相手が何もトレードに出していないがよいか? というシステムメッセージが表示される。
アラタも了承してトレードが成立した。
「それでこれからなんですが……」
その時だった。
アラタの視界にユキナ・カグラザカからの念信が来ていると表示された。
「思ったより早く話が来たようです」




