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51.リーパーの戦い


 会場の熱が、控え席まで伝わって来そうだった。

 波打つような観客席を、アラタは控え席で足を組んで眺めている。

 観客席ではNPC達が決勝に盛り上がっているが、当の戦う本人達は冷めたものだった。


 実況から決勝戦第一試合のアナウンスが流れ、メイリィが悠々と闘技場内へと歩み出る。


「じゃあ、ちょっと遊んでくるから」


 その顔に浮かぶのは、まるでこれからピクニックに出かける少女のそれだ。

 アラタはその表情を見て、たぶんこれは自分まで回ってくることはないなと悟った。


 メイリィは大鎌を抜刀して舞台へと臨む。

 相変わらずフザけた武器だ。

 見た目がかっこいいのは認めるが、どう考えても実用的ではない。

 

 それでもメイリィが勝つだろう。

 動きを見るだけでもそれはわかるし、実際に手合わせした経験から確信が持てる。


 いつの間にかユキナがアラタの隣に座っていた。


「なんやおもんなさそうな顔してるけどどしたん?」

「いや、自分の出番はないなと思いまして」

「さっき普通に勝つって言うてたやん?」

「戦えば、ね。けど、メイリィが勝って終わりですよ」


 正直に言えば、戦いたくはあった。

 デスペナがなく、ここに参加できた時点でユキナからの武器が確約されているなら、あとは遊びみたいなものだ。

 それならアラタだってやりたかった。

 ジャンケンに負けてしまい、その思いは潰えたが。


 闘技場の中心で、メイリィとワイルという名前のプレイヤーが対峙していた。

 キザっぽい男で、メイリィに大して余裕の笑みを浮かべている。


 闘技場内にはやかましい実況が流れていた。


「それでは決勝戦第一試合!! 開始です!!」


 戦いはすぐには始まらなかった。

 アラタからはわからないが、たぶん念信でのやり取りをしているのだろう。


 少しの間の後、二人は構えた。

 ワイルの獲物は長剣だった。そして、その長剣が炎に包まれる。

 魔法剣士のようなクラスなのかもしれない。

 

 メイリィとワイルが走り出した。

 距離は瞬時に縮まり、互いが間合いに入る。

 

 ワイルが炎剣を振り下ろそうとしたその手を、メイリィが狙っていた。

 大鎌をまるでハンマーのように操り、鎌で斬ろうとするのではなく、刃の付け根で殴りつけようとした。


 ワイルの反応は間に合った。

 咄嗟に手を引いて、再度炎剣を振り下ろそうと試みる。

 が、その時にはもうメイリィは次の動きに移っていた。


 不発に終わった一撃目の勢いを利用して独楽のようにくるりと回り、さらなる勢いをつけて二撃目を見舞った。


 今度は間に合わなかった。

 ワイルは長剣の腹を支えて、盾のように防御しようとした。

 しかし、それは苦し紛れの防御でしかない。


 十分な遠心力を乗せたメイリィの一撃に、体ごと弾き飛ばされた。


 メイリィが追う。

 鎌は構えず、ただ柄尻を持っただけの体勢で、鎌を引きずるように爆走する。

 

 立ち上がろうとするワイルの反撃をまるで考慮しない間合いの詰め方。

 長剣のリーチが逆に邪魔をしている。

 アラタが同じ立場であれば、長剣での反撃よりも徒手空拳での防御を試みたはずだ。

 ワイルは長剣での反撃を試みた。そうしてそれは、当たり前のように間に合わなかった。


 ワイルの顔面に、メイリィの華奢な膝が突き刺さった。


 体躯が華奢だろうがなんだろうが関係ない。

 この領域で物を言うのは筋力の値だ。

 

 ワイルが仰向けに倒れ後頭部を打ち付ける。

 そこへ、大鎌をハンマーのように振り下ろした。


 ぐちゃり、という嫌な音がアラタの元まで聞こえた。

 ワイルの姿がかき消え、相手の控え席へと戻っていた。

 ここでは死んでもペナルティなし、というのは確からしい。


ARATA-RES:刃を全然使ってないじゃないですか。


 アラタの念信に、メイリィは笑いながら答えた。


MEILI-RES:だってこの方が早いんだもの。


 隣にいたユキナが、ホッと一息をついていた。


YUKINA-RES:ご苦労さん、この調子でやったってや!

MEILI-RES:任せて。


 次に出てきたのは双剣使いだったが、どこか様子がおかしかった。

 明らかに萎縮している。


「そのヤン・イェンシーでしたっけ? 以外のプレイヤーは大したことなさそうですね」

「そうみたいやねぇ。今のワイルってのが戦いを求めるもの(デュエリスト)で参加協力って感じやろうな。戦いを求めてやられてちゃあ世話ないんやけど。そいで次のは明らかに数合わせやろ。めちゃめちゃビビっとるやん」


 この城塞都市ガイゼルにまで来られているということは、そこまで弱いプレイヤーではないはずだが、弱くない分だけ差がわかってしまっているのかもしれない。


「それでは決勝戦第二試合!! 開始です!!」


 実況の号令と共に、メイリィは歩きだした。

 散歩でもするようにゆったりとした歩調で距離を詰める。

 対する相手はいくらか迷いを見せたが、メイリィへと走った。


 大鎌の方がリーチは長いはずだが、メイリィはあえて相手の間合いへと踏み込んだ。

 双剣使いは左から入った。

 左剣の斬撃がメイリィを狙い、メイリィはそれを大鎌の柄で防いだ。

 

 メイリィは、防御の動作と共に柄尻で双剣使いの左足を狙っていた。

 反応できてしまったのが最悪だった。

 食らっても大したダメージはないだろうに、双剣使いは足を引いて柄尻での攻撃を避けた。

 

 致命的な隙だった。

 メイリィの大鎌が双剣使いの肩の上をするりと抜け、目にも止まらぬ速さで引かれた。


 その時にはもう、双剣使いの首の上には頭が乗っていなかった。

 双剣使いの姿がかき消え、観客席に移っている。


 早い。

 おそらくスキルでの攻撃だろう。

 そうでないと説明がつかない。

 アラタの目から見て、大鎌を引く動作から首を両断するだけの威力があるようには見えなかった。

 大鎌という無理のある武器を使わせる分、刃を使っての攻撃には大きな威力補正がかかるスキルがあるのかもしれない。


 メイリィがアラタの方に向き直り、見た目に似つかわしくない笑顔を浮かべて念信を飛ばしてきた。


MEILI-RES:どう? 刃を使ったけど。

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