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47.欲張りメイリィ


 手加減した一撃だとアラタはすぐに理解した。

 アラタの目を狙ったメイリィの手は、アラタの手に捕獲されていた。


 メイリィの人差し指と中指をがっしりと掴み、そこで動きが止まっている。


ARATA-RES:あれですか? 前回の件で、目を潰すのが挨拶だと勘違いしちゃった感じですか?


 メイリィは冗談めかした笑い。


MEILI-RES:ちょっと試しただけよ。

ARATA-RES:僕を相手に、今度は何秒生き残れるかをですか?

MEILI-RES:アラタ、あなたって本当に素敵ね。


 そのまま折ってしまうこともできたが、指はわざと離した。

 メイリィが距離をとり、お互いが構えを取る。

 周囲のプレイヤーがざわめいている。

 広場全体に念信が飛び交っていた。


 それに割り込んだのはロンだった。


「バカバカバカバカ!!!! 何やり合ってんだよ!!」


 ロンはアラタとメイリィの間に入り手を広げている。


MEILI-RES:邪魔よ。

ARATA-RES:邪魔ですよ。


 ロンはメイリィを無視して、アラタの方につかつかと歩いてきた。


「おい、お前はいったいなんのためにここに来た?」

「メイリィ・メイリィ・ウォープルーフからの喧嘩を買うために?」

「違うだろバカ!!」


 ロンごしに、メイリィの不満そうな声が聞こえてきた。


「ちょっと、誰なの? その面白い髪型の人は」


 メイリィが構えを解いていた。

 既に戦意がないのは目に見えて、そこにいるのはただの生意気そうな少女にしか見えない。

 アラタも構えを解くと、ロンが横にどいてメイリィへと向き直った。


「ロン、なんでしたっけ?」

「ロスタンロッドだ」

「だそうです」

「だから誰なの?」


 メイリィは不満そうだ。


「まあ僕の監視役というか、そんな感じですよ」

「よくわかんない。アラタは結局なんのためにここに来たの? 殺りあいたくなったわけじゃないの?」

「そういうわけでもないです。どこから話せばいいかな」


 そこにロンが割り込んだ。


「えーい、まだるっこしいな! 俺から話させてもらっていいか?」

「どうぞ」

「メイリィ・メイリィ・ウォープルーフ、あんたの理念は戦いを求めしものなんだよな?」

「そうだけど」

「そんなアンタに頼みがある」

「ヤダ」

「そう、ヤダって、ヤダ!? まだ何も言ってないだろ!?」

「だって変な髪型してるし、上半身がノースリーブだけっておかしいでしょ。子供の頃、怪しい人に声をかけられても相手をしないように教えられてるの」


 ロンは苛立ちからか髪の毛を掻きむしるが、弁髪でそうしているのを見るのは、なんだかちょっとおもしろい。


「メイリィ、僕からも頼みますよ」

「いーよ」

「は!?」


 ロンが信じられぬという顔でメイリィを見ている。


「まだ何も言ってないんですけど」

「それでもいいよ、アラタの頼みなら」


 見た目は丸切り少女なのに、その目には相応しくない妖艶な光が宿っていた。


「例えば、今すぐ死んでくれと言っても?」

「いいわね、楽しそう。それならさっきの続きができるじゃない」


 メイリィは本当に楽しそうに笑っている。

 アラタはため息を一つ。


 いつの間にかアラタとメイリィとロンの三人を、野次馬が遠巻きに取り囲んでいた。

 ここでユキナから聞いたイベントの内容をバラすのは論外だろう。


「詳しい話は、場所を移してからでいいですか?」


 

***


 三人はムーンデイズに移動した。

 

 日中だとムーンデイズの二階は開いていないらしく、一階でのみお手頃なランチを食べられるらしかった。

 プレイヤーの人数はまばらで、奥の方の席ならば密会をするのにもそう悪くはない。


「というわけです」


 事の経緯を一通り説明し終えたところだった。


「それで、アタシにその武闘大会とやらに参加して欲しいってこと?」

「ええ」

「いいんじゃない? ちょっと面白そうだし」


 食い入るように乗り出したのはロンだった。


「じゃあ手伝ってくれるのか!?」

「アラタも参加するのよね?」

「しますよ、当然」

「じゃあいいわよ」


 ロンがわかりやすくガッツポーズをして喜んでいる。

 次いで念信の気配。たぶんユキナに報告しているのだろう。


「僕は報酬に武器をもらうことになってますが、メイリィはどうしますか?」

「武器? ああ、確かに困るもんね。そっか、ユキナ・カグラザカってどっかで見た名前だと思ったけど、あのボッタクリさんか。アラタはその子と直接交渉したわけだ」

「そんなところです」

「報酬、ね。まあアラタと同じ感じでいいわよ」

「それでいいですか?」


 アラタはロンに伺う。


「ああ、いいぞ。これでメンバーが揃ったな」

「あ」


 メイリィがちょっと間の抜けた感じで口を開けていた。


「どうしました?」

「そのイベントって、ガイゼルでやるのよね?」

「そう聞いてますけど」

「アタシ行けない」

「まだリルテイシア湿原をクリアしていないって意味ですか」

「そう、だから報酬の前払いでそれのクリアも手伝ってほしいかな?」

「いいんですか?」

「どういう意味?」

「そうなるとたぶん、クリア者で囲んでキャリーに近い形になると思いますけど」

「構わないわ。アタシ、PvEにはそんなに興味ないし。ネタバレも気にしないタイプなの」


 こうなるとアラタとロンとメイリィで近接が三人になる。

 遠隔はいる方が好ましく、パララメイヤに声をかけるべきなのかもしれないが、なぜかメイリィとパララメイヤを会わせると面倒が起こるような気がした。


「ロン、遠隔は用意できますか?」

「ちょっと待ってくれ」


 ロンから念信の気配。

 しばし経ってから、


「大丈夫だ。俺たちが攻略したパーティのブラックメイジが手伝ってくれるそうだ」

「今からいけますか?」

「さすがにそれは無理だ。準備をして明日挑もう」

「メイリィもそれでいいですか?」

「やっぱり気が変わったわ」


 ロンが露骨に、おいおいおい、と言いたげな顔をした。


「どう変わったんですか?」

「報酬について、追加で欲しい物があるの」

「報酬を払うのは僕じゃないんで、そこの弁髪さんと交渉してください」

「いいえ、アタシはアラタから報酬が欲しいの?」

「僕の命なら勘弁ですよ」

「それも面白そうだけど、もっと面白いものが欲しいの」

「なんです?」


 メイリィは、実にいい笑顔をした。


「その大会で優勝したらさ、アラタ、アタシとリアルでデートしてよ」

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