46.再会
当該プレイヤーは、同エリア外からの念信を受け付けておりません。
気合を入れて念信を送った割に、アラタの網膜に表示されたメッセージはそのようなものだった。
「どうなん?」
「駄目ですね、同エリアじゃないと念信を受け付けない設定にしているみたいで」
「そのフレンドはどこにいるん?」
「フィーンドフォーンみたいです」
「なら話は早いな。ロンをつけるわ」
それを聞いたロンは体育座りから復帰し、
「お嬢、それじゃお嬢の護衛は?」
「いらんやろ。短時間やし」
「待ってください、どういう話ですか?」
「どういう話って、行って直接話すやろ? フレンドなんやから」
「いやあ……」
アラタは頭をかいた。
一度やりあった経験があるだけで、どう考えても友達ではない。
アラタはメイリィ・メイリィ・ウォープルーフとのやり取りを思い出す。
興味を持ってフレンド申請を飛ばしてくれたような気もするが、今思えば戦闘においての駆け引きの一種だった可能性もある。
とはいえ、他に手がなさそうではある。
「なんか気にかかることでもあるん?」
「色々とね。まあ行ってみますよ。メイリィと交渉するにあたって、メイリィにも武器を報酬として提示していいんですよね?」
「待て待て待て待て!」
ユキナはいきなり顔色を変えた。
「どうしました?」
「メイリィって、メイリィ・メイリィ・ウォープルーフか?」
「それです。知ってるんですか?」
「知らんはずあるかいな! そんな奴に声かけるつもりなんか!?」
「だって、メイリィの理念は戦いを求めるものですよ? 他にアテなんてないですし」
ユキナは苦虫を噛み潰すような顔をする。
「聞くけど、メイリィがデイサバイバーにやられたって話はマジなんやな?」
「ええ、僕がやりました」
「それでなんでフレンドなん?」
「戦いの中で芽生えた友情ってやつですよ」
ユキナは疑いの目を向けてくる。
「冗談です。僕にもわかりません。気まぐれじゃないですか? けど、どんな理由にせよフレンドで、連絡が取れるのは間違いないです。腕まで求めるならうってつけの人物には違いないでしょう?」
「うーん、それはまあそうなんやけど、うーん……」
「やめときますか?」
ユキナが室内をぐるぐると歩き回りながら考えている。
それから意を決したように、
「いや、頼んだわ。ここは勝負時や。ギャンブルするだけの価値はある」
「ですよね。それで話は戻りますが、交渉に当たっての報酬はどうしますか?」
「そこらへんは任せるわ。アラタ・トカシキ、アンタと同じ報酬でもええよ」
「わかりました」
守銭奴なはずの商人が随分と太っ腹だな、とも思うが、これはそれだけのチャンスなのだろう。
なにせ月イチで数万人に一人しか取れないレアアイテムを、ミラーが統合される前に確保しておけるのだ。
今現在の全財産を使っても、将来的には確実にリターンが得られるものだろう。
こうしてアラタは、ロンとフィーンドフォーンへと飛んだ。
***
城塞都市ガイゼルからフィーンドフォーンへと飛ぶと、目につくのは緑だ。
アラタは深呼吸をしてみる。肺に入ってくる森の空気を感じた。
城塞都市ガイゼルは人の匂いが強い。その落差から緑の匂いがえらく心地よいように感じた。
ポータルの出口は、前よりも賑わっているように見えた。
おそらくガンラ山道のクリア者も増えてきたのだろう。
「で? どうするんだ?」
ロンも同行していた。上半身は裸ではなくノースリーブのジャケットを直に着ている。
こういう装備なのだろうが、どういうセンスなのか。
まあマルチゲーの序盤装備の見た目がヤバいのはよくある話と言えばよくある話だ。
しかし、こうして月乙女の忍衣を着ているアラタとロンが並んでいると、いよいよ古のロックバンドといった様相を呈す。
「どうするって、連絡しますよ、普通に」
フレンド欄からメイリィに念信を送る。
ARATA-RES:メイリィ・メイリィ・ウォープルーフ、ちょっと用があるんでいいですか?:FFH
適当に言ってから、もっとよく考えるべきだったと思い直した。
向こうから見れば、アラタは自分をFDさせた相手である。
どういった経緯があるにせよ、そこについて話してから本題に入るべきだったかもしれない。
念信が拒否された気配はない。
十秒が経ち、二十秒が経ち、これは駄目かと思ったところで返信が来た。
MEILI-RES:あらデイサバイバー、どうしたの? デートのお誘い?:FFH
アラタはロンに目配せで念信が繋がったことを示す。
ARATA-RES:似たようなもんです。ちょっと直接会えますか?:FFH
MEILI-RES:今? 別に構わないけど:FFH
ARATA-RES:じゃあフィーンドフォーンの女神像前に今からで:FFH
MEILI-RES:わかった、楽しみにしてるわ:FFH
念信が終わった気配を感じて、ロンが話しかけてくる。
「どうだったんだ?」
「会ってくれるみたいですよ」
「協力はしてくれそうか?」
「さあ?」
「さあ? ってお前な」
「まあ交渉事は直接会ってがいいでしょ、今すぐ待ち合わせなんで動きましょうか」
アラタが歩き出すと、ロンが渋々といった感じでついてくる。
確かに念信で要件を伝えて交渉という手もあっただろうが、なんとなく、メイリィ・メイリィ・ウォープルーフは直接会って話すのを好む気がした。
ポータルから女神像の距離は数分で、アラタとロンはすぐに待ち合わせ場所に着いた。
女神像がある広場の周囲は目に見えてプレイヤーが多い。
ただだべって話しているものも多かったが、命からがらガンラ山道を越えて、ようやくフィーンドフォーンをトラベル地点に登録できてホッとしているプレイヤーも見受けられた。
他プレイヤーからの視線を感じる。
ロンの弁髪を見ているならいいが、おそらくはアラタのプレイヤーネームを気にしているのだろう。
少数ながら、中には露骨に広場から離れる者もいた。どうやら、まだアラタの評判は芳しくないらしい。
そうこうしていると、メイリィの姿が見えた。
薄い赤色の髪をなびかせ、悠々と歩いている。
メイリィはアラタの姿を見ると、目を輝かせた。
そして、前傾姿勢になって走り出し、穏やかじゃない速度でアラタに向かってきた。
アラタは緩く構える。
互いが間合いに入った瞬間に、メイリィの右手が暴力的な速度で閃いた。




