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45/202

45.参加条件


 アラタは奥の部屋へと通された。

 客間というわけではなく、まんま工房だ。椅子もなにもあったものではない。


「散らかっとってすまんなぁ、まあ適当にくつろいでや」


 ちなみにロンはまだ生きていて、部屋の隅で体育座りをして縮こまっている。


「ところでなんです? その妙な喋り方は?」

「これ? ウチの血筋のじゃあ、古の商人あきんどはみんなこういう喋り方をしてたんよ。ウチは形から入るタイプや」


 ユキナ・カグラザカはドンと胸を張る。

 ユキナの見た目は時代劇のお姫様のようなのに、口調と仕草は荒っぽいのがアラタには酷く不釣り合いに見えた。


「で? 何が欲しいん? 一通りのものはバザーに並べてあると思うんやけど」


 ユキナの兎耳がピョンと立っていた。

 目は爛々と輝き、商談に臨む商人の目をしている。


「武器ですよ、忍者用の。あと出来ればキャスター用の杖」

「バザーにあるのじゃ不満なん?」

「値段がね」

「わざわざこんなところまで値切りに来たってわけ? 手持ちは?」

「八万マニーってところです」

「話にならないやないか」

「そうなんですよ、だから何か手はないかなって」


 ユキナはアラタに勘ぐるような視線を向けている。

 警戒心なのかもしれない。


「なくはないわ」

「本当ですか?」

「アラタ・トカシキ、アンタ腕に自信はあるんよね?」

「そこで体育座りをしている人よりは」


 ロンにすごい目で睨まれたが、ユキナがそちらを見るとロンは再び顔を伏せて縮こまった。


「実は手に入れたい素材があるんよね」

「素材? レアドロップかレアエネミーですか?」

「いんや、イベント。ただまあ今のところ参加できるかわからんのやけどね。それを手伝ってくれたら武器を譲ってやらんでもないわ」

「内容は?」

「ここから先は受けるって言わんと話せん。イベント条件だけ教えて報酬だけさらわれたらたまらんからね」


 若干の怪しさはあったが、悪い条件ではない気がした。

 報酬が武器、というだけで受けない理由はないように思える。


「では受けます」

「話が早くて助かるわ」


 ユキナは手慣れた手付きでシステムから公証人ノータリーを呼び出した。

 これは約束を遵守させるためのもので、ほぼ全ての領域で呼び出す事のできるシステムだ。

 これを用いた約束事を破ると、それはまあ大変なことになる。


 アラタは迷わずサインした。


「ええね。そのイベントってのは武闘大会なのよ。この城塞都市ガイゼルでは一月に一度武闘大会が開かれていて、その優勝賞品がレア素材ってわけ」

「それに参加して優勝しろ、と?」

「要約するとな。正直これは誰にも知られたくない激ウマイベントや。本来であれば、月一でしか手に入らない素材にアホみたいな数のプレイヤーが群がるクソイベなはずや。けど、今は違う」

「ミラーですか」

「そう。今の時期はミラーで人が分散してる分、ありえんくらい取りやすいわけ。しかも今はガイゼルに来られるプレイヤーも極一部やから、そらまあめちゃくちゃよ」


 なるほど。よく見つけたものだなとアラタは関心する。

 

「けど色々あってな。まずチーム戦なんよ。三対三の勝ち抜きでPvP戦。それに参加条件もあってな、ガイゼルの武闘大会には冒険者ランクがB以上じゃないと参加できない」


 冒険者ランク、ギルドでクエストを成功させると勝手に上がる何か、というのがアラタの認識だ。

 ちなみにアラタはギルド由来のクエストは受注してないので、冒険者ランクなど存在していない。


「満たしてないですよ、僕はそれ」


 ユキナは笑い、


「今の時期、そんなん誰も満たしてないわ」

「じゃあ無理じゃないですか」

「ところがどっこい、他にも参加条件はあってな、理念が戦いを求めしもの(デュエリスト)のプレイヤーがいれば参加できるんよ」


 どこかで見た覚えのある理念だ。


「それにしたって厳しい条件やけどね。まずガイゼルまで来られるプレイヤーがほとんどいないし、その上理念がたまたま戦いを求めしもの(デュエリスト)なんて普通は無理や。逆に言えば、参加できるプレイヤーがほぼいないなら、上手く行けば代理のNPC戦だけやって即優勝もあり得る」

「クソ美味って言ってた理由もわかりますね」

「ただ、大会は三日後まで迫っとる。この間に準備を整えなくちゃアカン」

「他のメンバーに戦いを求めしもの(デュエリスト)、アテはあるんですか?」


 ユキナは首を振り、


「正直な話、ウチはめちゃめちゃ嫌われとる」

「いきなりなんです? どうしてですか?」

「そら当然クソボッってるからよ」


 自覚があったのか、とアラタはちょっとした驚きを覚える。


「だからウチに協力してくれるプレイヤーはそうそうおらん」

「それで嫌われ者同士仲良くやろうってことですか?」

「そういうこと」


 ユキナは悪そうな笑みを浮かべる。


「面子の一人はそこの体育座りマン、もう一人はアンタ、あとは理念が戦いを求めしもの(デュエリスト)で、ガイゼルまで来られて協力もしてくれる奇跡みたいな誰かさんって感じや。もし優勝賞品が取れたら武器に色もつけたる。参加できただけでも武器はやる。まずは戦いを求めしもの(デュエリスト)探しから頼みたい。見つけたらあとはこっちで買収なり試すわ」

「それについてなんですが……」


 戦いを求めしもの。

 アラタはさっきから頭に引っかかる言葉を思い返していた。

 どこかでその理念は確実に見ている。


「とりあえずフレンドになっとこ」


 フレンド申請が飛んでくる。

 アラタはそれに了承を返し、フレンド欄にユキナ・カグラザカの名前が表示された。


 ユキナ・カグラザカ

 レベル:13

 種族: 兎人ワービット

 クラス:からくり士・鍛冶師

 理念: 富を求めしもの(マネーメイカー)


 フレンド欄。

 そこで思い出した。

 アラタのフレンド欄には今、三人の名前が表示されている。


 パララメイヤ・スースルーと、ユキナ・カグラザカと、メイリィ・メイリィ・ウォープルーフである。

 メイリィはアルカディアにインしているようであった。確認はしていなかったが、デスペナルティが終わったのだろう。

 ハッとして、メイリィの二次情報を開いてみる。


 メイリィ・メイリィ・ウォープルーフ

 レベル:9

 種族: ヒューマン

 クラス:大鎌使い(リーパー)

 理念: 戦いを求めしもの(デュエリスト)


 ビンゴだ。


「あのですね」

「なに?」

戦いを求めしもの(デュエリスト)ですけど、心当たりがあるかもしれません」

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