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40.分かち合う喜び


 雷神がネザーレイスを貫いた。

 荒ぶる雷光が、亡霊を焼き尽くさんと荒れ狂う。

 その身を焼かれた亡霊の断末魔が響き、淡い光となっていく。


 ネザーレイスだった光の粒子は、アラタの右目へと吸い込まれていった。

 これで三体目だ。


PARALLAMENYA-RES:やったん、ですよね?


 アラタの網膜には、レベルアップの表示がされていた。


ARATA-RES:ええ、レベル、上がりませんでした?

PARALLAMENYA-RES:上がりました。ということはやっぱり勝てたんですよね?

ARATA-RES:そうですよ、メイヤのおかげでもあります。

PARALLAMENYA-RES:           :BLANK


 感情だけが乗った念信が来た。

 その感情は、途方もない喜びだった。


 アラタはネザーレイスなき湿原の景色に目をやった。


 湿原に、光が差し込んでいた。

 空に目を向けると雲が晴れ、太陽が覗き込んでいた。

 霧が明け、湿原に穏やかな空気が流れる。


 相も変わらずギリギリであったが、今回のダンジョンもクリアすることが出来た。

 そして、戒めの開放とやらもまた一歩進んだはずだ。

 疲労感もあったが、達成感がそれを打ち消していた。


 パララメイヤがアラタの元まで駆け寄っていた。


「これでもうダンジョンクリアなんですよね?」

「たぶん。あとはもう出るだけだと思います」

「ではリーダー、お先にどうぞ」


 パララメイヤが冗談めかして言う。

 アラタは言われた通りに先へと進んだ。

 ネザーレイスのいたエリアの奥に、水位が下がり通れるようになった道がある。

 ここを進めばクリアだろう。


 アラタとパララメイヤは新たに開かれた道を征く。

 勝利の凱旋だ。

 敵の姿はなく、多少足場が悪いことを除けば障害は何もなかった。


 そうして、ある区切りで足場の質が変わった。

 久々に踏みしめるはっきりとした大地だ。

 そこでミラーが切り替わる時特有の視界のぶれが発生した。


 網膜に、アチーブメントが表示される。


 湿原を超えしもの。


 どうやら、これでリルテイシア湿原を踏破したことになったようだ。

 

「クリアですっ! やりました!!」


 パララメイヤはぴょんぴょんと跳ねて、子供のように喜んでいる。


 見れば、ダンジョンの出口には別のパーティがいた。

 満身創痍の四人パーティだが、誰も欠けてはいない。

 四人は愉快そうに話し、アラタ達に気付くと笑いかけたが、その笑みにはどこか陰りがあった。

 もしかしたらアラタとパララメイヤは、残りの二人を犠牲にして踏破したパーティだと思ったのかもしれない。


「アラタさん! アラタさん! ほら! ほら!」


 パララメイヤは、なにやら両手を前に出してアラタに近づいて来る。


「なんです? それ。こんな場面でPvPでも始めるつもりですか?」

「もぉー!! どうしてそうなるんですか!!」

「だって、なんか構えてますし」

「ハイタッチですよ! ハイタッチ! 勝ったんですから素直に喜びましょうよ!!」


 ただでさえ恥ずかしいのに、他のパーティが見ているならなおのことであった。

 しかし、パララメイヤはハイタッチをしなければ納得はしなさそうに見えた。

 

 アラタは小さなため息をひとつ。

 両手を前に出すと、パララメイヤの両手が勢いよくぶつかってきた。


「いぇい!! クリアです!! やりました!!!!」


 すごいテンションですね、と言いたいところだったが、アラタとて嬉しくないわけはなかった。

 なにせ踏破者がほとんどいないダンジョンを、二人パーティという縛りプレイでクリアできたのだ。

 しかも二人とも健在で。

 新たなフィールドに進め、しかもアラタの戒めからの開放もまた一歩進んだ。

 喜ばない手はない。


 それにパララメイヤの喜びようを見ていると、こっちまで嬉しくなる。

 冷めた顔をしているアラタに不満があるのか、パララメイヤは子供みたいに頬を膨らませている。 


「もー、もっとアラタさんも喜びましょうよ! 嬉しくないんですか?」

「いえ、嬉しいですよ、かなりね」

「じゃあもっかいやりましょ! ほら! ほら!」

「仕方ないですね……」


 今度は勢い良く、互いの手をぶつけ合った。

 小気味よい音が湿原の出口に響く。


 こうして誰かと何かを成したことを祝いあったのはどれくらいぶりだろう。

 パララメイヤはそれはそれは嬉しそうに笑っている。

 アラタも自分ではわからないが、たぶん笑っているのだろう。


「さあ行きましょうか」

 

 アラタはなんだか急に気恥ずかしくなって先へと進んだ。

 後ろからパララメイヤの足音が聞こえてくる。


 マルチプレイの醍醐味か、とアラタは一人感慨に耽る。


 楽しかった、そう楽しかったのだ。

 この領域から出ることが出来ず、まともにパーティを組むことが出来ず、そんな状態で難関に挑む。

 振り返れば、そんな挑戦をアラタは楽しんでいた。


 そして、その結果は完全な形での勝利だ。

 

 いつのまにかパララメイヤが並んで歩いていた。

 その表情は見なくても想像が出来る。きっと満面の笑みだろう。

 

 ガンラ山道の出口。互いに喜びを分かち合うプレイヤーたちを、アラタは思い出していた。


 そうして、先程のパララメイヤとのハイタッチを思い出していた。


 アラタの口元は自然と綻んでいる。


 悪くない気分であった。

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