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4.団員募集


 アルパの街の賑わいは、ほどほどといったところであった。


 一次枠が一瞬で全て埋まるようなゲームとなると、サービス開始直後は最初の街が人だらけでとんでもないことになるのではないかと思うかもしれないが、そこらへんは対策がしてある。

 まず、プレイヤーの開始地点がクラスや理念によって三地点に振り分けられている。

 そして、サービス開始当初はミラーフィールドという、同じエリアの複製が大量に作られ人が分散されているのだ。

 こうしてダンジョンの入り口に何の緊迫感もない行列が出来たり、特定のNPCの周りに人だかりができることを防ぐわけだ。


 こうした施策は初期の一ヶ月に限られる。

 事前の告知だと、アルカディアのフェーズは三つに分けられるらしい。


 初めの一ヶ月は、準備期間。

 ミラーフィールドが大量に用意され、イベントを進行し、探索を進めることを推奨するようだ。

 ここで冒険をしたいものはその通りに探索を進めるし、商売をしたいものは情報を集め、商品を集め、クラフトスキルの上昇に励むし、単に生活をしたいものは住みよい場所を探すわけだ。


 次の二週間は交流をするための期間だ。

 ミラーフィールドが統合され、全プレイヤーがいる一つの領域になる。

 ここでプレイヤーは本格的にクランを作ったり、友人を作ったりして次なるフェーズに備えることを推奨している。

 この段階でも一部高難易度イベントが開放されるらしいが、サービス前にその内容は明かされていない。


 そうした準備期間が過ぎたあとが最終フェーズとなる。

 高難易度、超高難易度のダンジョンやボス、レアイベントやレアエネミーなどが一斉に開放され、アルカディアの全てのコンテンツが楽しめるそうだ。


 アラタは、アルパの街を散策しながら考える。


 今は最初のフェーズであり、アラタが今すべきなのは、イベントの進行と探索である。

 であるのだが、どういった風に進めるべきなのかは難しいところだ。

 メインとなるクエストを愚直に進めるのか、それともサブとなるクエストや雑魚狩りなどをこなしてある程度ビルドしながら進めたほうが結局早く進めるのか。


 アラタはそれなりに腕には自信がある。なので詰まるまで探索を進め、詰まったらレベルを上げるなり装備を整えたりすればいいという気もするのだが、その詰まった時、というのが問題だ。


 何が問題かというと、このゲームはデスペナルティが異様に重いのである。

 一回目の死亡で三日のログイン制限、二回目は五日、三回目は十日、四回目はまた三日のログイン制限に戻るといった具合だ。

 そんな馬鹿なデスペナルティがあるものか、と思うかもしれないが、今の時代はそれも珍しくない。

 死亡したら広告が流れ、ログイン制限期間に同社の別領域ゲームに誘導するなどはよくある手法だ。


 にしても三日以上の制限というのはどう考えても異常だ。

 緊張感を持って遊んで欲しいという設定なのかもしれないが、度が過ぎるという気はする。

 もっと何か理由があるのかもしれないが、エデン人の考えを理解するのは土台無理な話なのかもしれなかった。


 アラタはさしたるイベントもなくアルパの街のメインストリートを進む。

 道行く人は、プレイヤーとNPCが半々といったところで、プレイヤーにしてもアラタが思うほど焦って行動しようとしているわけではなさそうだった。

 攻略ガチ勢はもう街になどいないのかもしれない。


 アラタはサービス開始から一時間遅れてインした。

 これには戦略的な狙いがある、なんてことはなく、冗談みたいな話だが本当に寝坊したからだ。

 その上、事前にどんなクラスを選ぶかも決めていなかったので、キャラクリエイトには結構な時間をかけた。


 なので、今街にいるのはのんびり勢がほとんどなのかもしれなかった。


 メインストリートを進み、中央の広場に出たところで、大声で叫んでいる男がいた。

 男に視線を合わせるとラルフという名前が表示され、プレイヤーだということがわかる。

 ラルフは広場の中央で、NPCには聞こえないシャウト設定でこう叫んでいた。


「クランに興味がある人はいないか!! 我々ユグドラはクラン員を募集している!! 興味がある人がいたら声をかけて欲しい!! 入団せずとも拠点に来てくれれば色々と教えられることもあると思う!! 我こそはというものは私に声をかけてくれ!!」


 サービス開始からいきなりご苦労なことだと思う。

 ラルフという男は、そこからまた同じ文句を繰り返し叫んでいた。

 

 しかし、教えられることがある、というのは気になる話ではあった。

 こんな最初期からクランを結成しようとするならば、まさか仲良しグループを作ろうというわけではあるまい。

 たぶん、攻略ガチ勢のクランなのだろう。

 そうなれば、そのメンツは既にいくらか攻略を進め、効率の良いレベルの上げ方や金の稼ぎ方の一端は理解しているかもしれない。

 話だけ聞く、というのも悪くない気はした。

 

 アラタは別に、自分で全てを開拓しようというフロンティア精神に溢れた若者というわけではない。

 普通にフォーラムは覗くし、ネタバレも大して気にしない。


 ラルフは飽きずに同じ文句を叫んでいる。


「興味がある人がいたら声をかけて欲しい!! 入団せずとも拠点に来てくれれば色々と教えられることもあると思う!! 我こそはというものは私に声をかけてくれ!!」


 というわけで、アラタは興味がある人になり、声をかけてみることにした。


「すいません、我こそはっていうほどじゃないんですけど、話を聞かせてもらうってのはアリですか?」


 ラルフはアラタを見て一瞬キョトンとしたが、すぐに笑顔に戻り、


「おお、大歓迎だとも! 後ほど我々の拠点に来てくれ! 話してみて、もし気に入ってくれれば入団も考えて欲しい」


 システムがラルフから位置情報の受信を告げ、了承すると網膜投影されたマップ上に赤い点が表示された。

 位置はアルパの街の南にある高台。高度表示から、高台の下にある洞窟かなにかなのだろう。


「そうだな、今から二時間ほどしてから来てくれれば、メンバーや興味ある人が集まっていると思う。来てくれるだけでも、情報交換や他のプレイヤーとの交流と役立つことがあると思うよ」

「あざます、行かせてもらいます」


 入団する気など毛ほどもないが、聞きたいことはいくつもあった。

 探索に関する話やビルドに対する話もそうだが、それ以上に他のプレイヤーに聞いてみたいこともあった。


 それは、あの不快なオープニングは何だったのか、だ。

 自由な冒険を楽しむ遊戯領域にはおおよそ相応しくないだろうオープニング。

 これに対しての意見や感想にアラタは大いに興味があった。

 プレイヤー同士でゲームの欠点について文句を言いたいだけ、とも言えるがそれもゲームの醍醐味の一つである。


 時刻はまだ十三時。

 天候は快晴で、陽の光が優しく降り注いでいる。

 

 二時間後、とラルフは言っていた。

 あと二時間どうするか。このまま街を探索し、店で装備品などを確認してもいいかもしれないが、アラタには別の考えがあった。

 

 アラタはそのままの足取りで街を出て、南東へと進む。

 アルパの街の南東には、大きめの森林がある。


 街の外の森林にはきっと目的のものがある。


 アラタは森林にたどり着き、すぐにそれを見つけた。

 

 エネミーだ。


 アラタは木陰から様子を伺う。


 視点をあわせると敵の名前が表示される。

 コボルト。ファンタジーにありがちな、小型の獣人のようなモンスターだ。

 木製と思しき棍棒と盾で武装している。

 敵だとレベルとHPが確認できるらしくレベルが2でありHPは16/16とある。

 アラタのHPが20に対して敵のHPは16。これは高いのか、低いのか。


 まあそれもってみればわかる。

 アラタの目的は、この遊戯領域ゲームでの身体の動かし方を学ぶことだ。

 敵はどれくらいの難易度に設定されているのか。

 敏捷18というのはどれくらいの速度で動けるのか。

 同撃崩というスキルはどの程度の範囲をカウンターとみなしてくれるのか。


 戦闘については、知りたいことが山程あった。

 だからる。


 コボルトはアラタに気付かずに森林を徘徊している。

 何かを探しているのか、それとも単に徘徊するよう設定されてるだけなのか。

 それも知りたいところだ。


 アラタは戦闘態勢に入り、忍者刀がその手に握られる。

 結局街で武具店などは見ずに初期装備だが、いきなりこれが通じないということはまさかあるまい。


 アラタは踏み出し、コボルトの視界にわざと入った。

 コボルトが牙を剥き出しにして鳴き声をあげ、戦闘態勢に入る。

 

 アラタの口元に、微かな笑みが浮かぶ。

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