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29/202

29.熱烈なるファンガール


「ずっと……だったんです……」

「なんて?」


 パララメイヤの声は、目に見える決意とは釣り合わず消え入りそうなものであった。

 それからパララメイヤは、ヤケクソな声を出した。


「だから、ずっとファンだったんです!!」


 今度は聞こえた。

 が、その言葉は脳内では理解できていなかった。

 だからアラタは再度聞いた。


「なんて?」

「もうっ! イジワルで言ってるんですか!?」

「いやそんなつもりは。だってファンって……」

「フォロワーなんです!! ずっと前から!! デイサバイバーの! アラタ・トカシキの!!」


 アラタは混乱の極みにあった。

 フレンドからのもしや敵対者かと思ったあとに、ファンだと言われるなんてまるでジェットコースターだ。

 ファン、フォロワーという言葉が耳に入って脳内で処理されても、アラタはそれを飲み込めずにいた。


「ファンってその、あのファンで、フォロワーってその、あのフォロワーですか?」

「いじわる!!!!」


 パララメイヤがそっぽを向き、一人で歩きだして小部屋から出ようとする。


「待ってくださいすいません、すいませんってば」


 パララメイヤが立ち止まり、アラタに向き直る。

 そこには、怒っているような表情はなかった。


 パララメイヤは戻ってきて、宝箱があった台座の段に腰掛けた。

 促されているような気がしたので、アラタもその隣に座る。


「ずっと前から追想リプレイしてたんですよ、アラタさんの体験を」


 パララメイヤは、昔のことを思い出しながら語る時特有の、どこか遠い目をしていた。


「わたし、遊戯領域には興味があったけど、体を動かすのはそんなに得意じゃなくて、だからちょっと楽しみたいなって時はよく追想リプレイで時間を潰していました。有名なEバイヤーの体験を追ったり、たまにはマイナーな人のを追ったり、割とヘヴィな追想者リプレイヤーだったんですよ」


 そう言うパララメイヤはちょっと恥ずかしそうにしている。

 アラタはそんなパララメイヤの言葉に、静かに耳を傾けていた。


「有名なのばっかり見て、ちょっと飽きちゃったなって思った時、新人のEバイヤーが体験を出しているのを見かけました。その人は、よくわからないゲームで、戦っている場面ばかりをブローカーに上げていました」


 わかる。アラタのことだ。


「初めはつまらない体験だなって思ってました。だって、物語性が全くないですし、体験している領域も個人用の遊戯領域ばかりだったので。けれど、追っているうちにその考えは変わりました。追想を続けていると、その人がすごいプレイヤーだってすぐにわかりました。視点が普通じゃないですし、まるで未来を予知しているかのような動きを当たり前にするんですもの。こんなのは、どんな有名プレイヤーの追想でも体験したことはありませんでした」


 パララメイヤはアラタに向かってはにかむように笑い、


「それが、わたしがアラタ・トカシキを初めて知った時のことです。それからは、アラタさんの上げている体験は全部追いましたよ。ゲームがそれほど上手くないわたしには、アラタさんの動きが憧れそのものでした。追想者達からの評価で見ればアラタさんは名もなきEバイヤーかもしれませんが、わたしの中では最高のプレイヤーの一人でした」


 そうまで褒められると、アラタはなんだか居心地が悪くなってくる。


「褒めても何も出ませんよ」

「率直な感想ですよ。そして、INFINITY WARの体験です。サターン6、血と鉄を呼吸するあの地獄の領域で、アラタさんは一日を生き延びました。一部の界隈でアラタさんがデイサバイバーとして話題になった時は、本当に嬉しい気持ちでしたよ。誇らしくすら思いました」


 アラタは黙ってしまう。

 こうまでストレートに褒められ続けると、皮肉のひとつも出てはこなかった。


「このゲームを始めたのは、たまたまだったんです。そろそろ追想だけでなく、自分でも本格的に遊んでみたいなって思って。そうしたらミラー42の雑談トピックで、デイサバイバーの名前が上がっていました。プレイしてたらいつか会えるんじゃないかな、って思ってましたけど、本当に会えちゃっいました。それからは、アラタさんの知っての通りです」

「なんで隠していたんですか?」


 おかげでアラタは盛大な勘違いをした。

 無論、一番悪いのは人間不信を爆発させたアラタの方ではあるのだが。


「それは、その、恥ずかしいじゃないですか……」


 パララメイヤは顔を伏せる。


 納得は、できた。

 アラタは段差から腰を上げた。

 改めてパララメイヤに向かう。


「話はわかりました。僕の体験を追想してくれた件もありがとうございます。そして、勘違いをした件は本当にすみませんでした。言い訳になりますけど、最近特に人間が信用ならなくて」

「だからいいですって、わたしの方も隠し事はしてましたし、とんでもないミスもしましたし」

「いいえ、結局一番悪いのは僕ですよ。だから、何かの形でお詫びはさせてください」

「詫びですか?」

「そうです。そうじゃなきゃ僕の気が収まりません」


 パララメイヤはうーんと唸る。


「わか……りました、ちょっと考えさせてください」


 パララメイヤは座ったまま黙考しているようであった。

 アラタとしても、これくらいはしないと気がすませないし、自分の中で区切りがつけられない。

 詫びの候補としては、マニーか、装備か、あるいは無償でのクエストの手伝いあたりが妥当だろう。

 しかし、パララメイヤはアラタの思いもよらない提案を出した。


 アラタの目を見つめ、顔を少し赤らめ、言いづらそうにしながら、


「そ、それじゃあ、一緒に食事をしてくれますか?」

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