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23/202

23.隠されたクエスト


 アラタは夢を見ている。

 それが夢だとわかる夢だ。


 アラタは牢獄にいる。

 そして、鉄格子を隔てて、そこにはパララメイヤの姿がある。

 おっとりとした、いつも通りの笑みを浮かべて、牢屋の中に囚われているアラタを見ている。


 夢の中特有の不思議な記憶で、どうしてこうなったのかはわからないが、アラタが囚われていることにパララメイヤが関わっていることだけはわかる。

 

 その背後には、幾人もの人影があった。

 どれも見覚えのある顔だ。

 遠い昔にマルチの遊技領域で関わってきた面々。

 敵もいたし、味方もいた。その全てが、牢獄にいるアラタを責めるような目で見ている。


 目の前にいたはずのパララメイヤは、いつのまにか男の姿に変わっていた。

 濃い髭を蓄えた中年の男で、まるで自分こそがこの宇宙の中心だと信じているような、自信に満ちた顔をしている。

 アラタの、かつての師だ。


 男は言う。


「自分に都合のいいだけの女が、本当にいると思ってるのか?」


 

 そこでアラタは目を覚ました。


 アルカディアの固いベッドの上で、大きく伸びを一つ。

 相変わらずこの環境には慣れない。


 それにしても胸糞悪い夢を見た。

 

 アラタは見たものを意識的に思考から弾いて気分を切り替えた。

 ベッドから起き上がり、宿の食堂へと移動する。

 席につくとすぐに味のあまりしない朝食が目の前に置かれた。


 あれから、二つのクエストをパララメイヤと一緒にこなした。

 レベルは9まで上がり、マニーも増えた。


 とりあえずの目標は、レベル10になることだ。

 このゲームは、レベルが十の倍数毎にステータスが微増し、スキルのレベルキャップなどが開放されていくらしい。

 ここまで来たのならば、次の街へ行くためのダンジョンに挑戦するまでに、そこまでレベルを上げてしまった方がいいだろうという判断だ。


 そうして今日もパララメイヤとクエストに行く約束をしていた。

 クエストを見つけられれば、という前提ではあるが、たぶんパララメイヤは見つけてくる。

 パララメイヤの見つけてきたクエストに乗っかり続けるというのはヒモみたいでちょっと嫌なのだが、人には向き不向きというものがある。

 

 三つのクエストを一緒にこなして、アラタはパララメイヤを見る目が変わっていた。

 パララメイヤは初心者には違いない。ゲームでならば当たり前のことに驚いたりもするし、セオリーが全くわかっていない時もある。

 そういった新鮮な反応は見ているとちょっとおもしろい。


 ただ、伸びしろは感じさせる。

 どんなものにせよちょっとしたヒントから答えに辿り着くのだ。アラタが説明している最中にその後の結論を察しているような様子も散見される。


 クエストを探すのが上手いのもそういった素養からなのかもしれれない。

 見た目や態度からはそうは思えないが、かなり頭が良いのではないかと思う。

 理念が知を求めるもの(スカラー)なのも、そういったところからなのだろうか。

 それらはアラタの初見の印象とは大きく違ったものだ。申し訳ないが、アラタはパララメイヤをぽわぽわとしてあまり物事を深く考えないタイプだと思っていた。


 しかし、そうだとしたら気になる点がいくつかあった。

 そんな考えが、さきほどの胸糞悪い夢を見せたのかもしれない。


PARALLAMENYA-RES:アラタさん、おはようございます!! クエスト、たぶん見つけられましたよ!!:FFH


 早速だ。

 アラタは淡白な朝食を終えて、席を立った。



***


 待ち合わせ場所は冒険者ギルドにしていた。

 パララメイヤと落ち合うと、すぐにパララメイヤはどうだ、とばかりに手を出した。


 そこには古ぼけた石ころが乗っていた。


 確か、あの犬を送り届けるクエストでクリア後に犬からもらったものだ。

 犬の感謝としてガラクタをよこされたのかと思っていた。


「その石ころがどうしたんですか?」

「見てください、ここを」


 パララメイヤが石を指さした。

 よく見ると、そこには薄っすらと幾何学的な文様が彫られている。


「これ、月の乙女の文様なんです」


 パララメイヤはここまで言えばどういうことかわかりますよね、といった顔をしているが、残念ながらアラタには何一つわからなかった。

 そもそも、この領域(リージョン)の設定に対する理解力が違うのだ。


 アラタはシステム面には強い関心を持つが、正直な話世界設定に対してはほとんど興味がない。

 逆にパララメイヤは世界設定のようなものがかなり好きらしい。

 おまけに理念の知を求めるもの(スカラー)は、各拠点の学術施設に立ち入りできる特典がある。

 そういったところで情報を調べているのだろう。


「というと?」

「昨日行った神殿は月の乙女を祀った神殿なんです」


 昨日の午後は山中の廃神殿付近で狩りをするクエストをこなしたばかりだ。

 小さな神殿で、大したイベントに使われるようには見えなかった。


「その石ころで、何かが起こると?」

「おそらくは。フィーンドフォーンの魔術院にある古文書に、あの神殿に地下があるような記述を見つけました。見た限りではわかりませんでしたが、これが鍵になる可能性は十分にあると思うのですが、アラタさんはどう思いますか?」


 連続クエストということか。

 一見無関係でお遊びクエストにしか見えない犬の手伝いが、後々の隠しクエストに繋がっている。


 どうだろう。

 もしそうならば何か他にヒントがありそうな気もするが、アラタがそれを見逃しているというのはかなりある。それにヒントの量は製作側がどの程度クエストを隠したいか次第というところもある。


「試してみる価値はあるかもしれませんね。別に外しても損は少ないですし」


 考えている時間の方がもったいないと判断して、出発することにした。


 廃神殿はフィーンドフォーンから歩いて二十分もかからない距離にある。

 東に見える頂上に雪をかぶった山を目印に歩けば迷うこともない。


 道中に敵とも遭遇せず、廃神殿にはすぐに着いた。

 田舎の礼拝堂のような雰囲気で、放置されてからかなりの時間が経った匂いがした。


 神殿に入るとパララメイヤは迷わずに進み、崩れて上半身がない女神像の裏側に回った。

 

「ありました! アラタさん、来てください!」


 アラタもパララメイヤを追い、女神像の裏に回る。

 その台座には、ちょうど犬からもらった石がハマるような窪みがあった。


「やってみていいですよね?」

「どうぞ」


 アラタが促すと、パララメイヤは窪みに石ころをはめた。

 がちゃり、となにかが開くような音。

 よく見ると、台座の隅に隙間ができている。

 

 台座の裏側は地下への扉になっていて、隙間に指を入れると開くことができた。


「やっぱりありましたね!」


 パララメイヤは自身の予想が当たったことに喜んでいた。


「行ってみますよね?」

「もちろん」


 パララメイヤが地下へと足を踏み入れようとすると、アラタの網膜にシステムメッセージが表示された。


 リーダーがダンジョンに突入しようとしているがよろしいですか?


 と。


 パララメイヤは既に了承しているようで、アラタに向かって頷いていた。


 アラタは瞬きし、システムメッセージへと了承を返した。

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