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20/202

20.クエストへの誘い


 午後にはいきなり念信が来た。

 お互いがフレンドであり、ベースエリアにいる場合のみ、距離が離れていても念信ができる。


PARALLAMENYA-RES:アラタさんすいません、ちょっといいですか?:FFH

ARATA-RES:なにかありましたか?:FFH

PARALLAMENYA-RES:あの、さっきアラタさんが言ってたようなクエストが見つかったので、一緒にやってくれないかな、と。:FFH


 マジですか、という思いが隠せない。

 アラタとて街を散策していたが、良さそうなクエストを探すことはできなかった。


ARATA-RES:どんなクエストなんですか?:FFH

PARALLAMENYA-RES:害獣退治だそうです。依頼主は農家と商館の連名で、害獣の角を持ち帰ってくれれば追加の報酬がいただけるようです。:FFH


 普通に良さそうなクエストに思える。

 ギルド外にある周期クエストなのだろうか。何にせよ乗っからない理由は見つからなかった。


ARATA-RES:わかりました。一緒に行きましょう。どこで落ち合いますか?:FFH

PARALLAMENYA-RES:南門でいいですか? そこからが目的の場所に近いようです:FFH


 南門に向かうと、そこには既にパララメイヤが待ち構えていた。

 杖まで出してやる気満々に見える。


「わあ!! 本当にアラタさんが手伝ってくれるんですね!! ありがとうございます!!」


 どこか引っかかる言い方な気がした。何か違和感があるような。


「それはまあ、約束ですから。それで? クエストの詳しい内容を教えてもらえますか?」


 アラタは投げられたパーティ勧誘に雑に了承を返す。


「南門から少し行った山中に、大型のマーダーバニーが発生したそうです。農地を荒らす上に人まで襲う害獣で、これを退治して欲しいと。あと、出来たらという話ですが、その角を取ってきて欲しいそうなんです。なんでも装飾品の良い素材になると。もし持ち帰ることが出来れば、商館側が追加報酬を出してくれるって言ってました」


 なるほど。

 そのマーダーバニーとやらを討伐できれば基礎報酬が手に入る。マーダーバニーとの戦闘中に、角を切り落とすことが出来ればボーナスの報酬が手に入るというところか。


「確かに良さそうなクエストに思えますね」

「ですよね!? よかったぁ……」


 とパララメイヤは大げさな安堵の息を漏らす。


「では早速行くとしましょうか」


 目的地の道中は、ガンラ山道側に戻ることになる。

 ガンラ山道攻略後からフィーンドフォーンに向かう時も思ったが、この道は敵のポップが少ないようだ。


 ガンラ山道の攻略で疲弊したパーティへの配慮だろうか。

 そういう配慮が出来るならば、属性攻撃を持たないソロへも配慮をして欲しいところだ。

 ガンラ山道の仕様を、アラタはそれなりに根に持っていた。


 道中は、二人で適当な雑談をしながら進んだ。


「そういえば、パララメイヤさんはガンラ山道はどう攻略したんですか?」

「メイヤ、でいいですよ。パララメイヤって名前は長いでしょう?」


 初対面の相手をいきなり呼び捨て、というのも気が引けたが、アラタは言われる通りにすることにした。

 その方がコミュニケーションが円滑になる、ような気がする。この手のやりとりは不得手だ。


「では、メイヤはどう攻略したんですか?」

「どう、って言われても。普通に野良のパーティに入れてもらって攻略しました。まだフレンドもほとんどいませんし、エルドラっていうギルドにも誘われたんですけど、結局有耶無耶になっちゃいましたし。幸い魔法クラス(キャスター)は需要が高いようで、逆に声をかけて入れてもらいました」


 それはそうか。

 普通のプレイヤーならばシャンバラに戻って情報を得ることは容易であり、当たり前に属性攻撃が使えるクラスをパーティに加えるだろう。

 キャスターならば引く手数多なはずだ。


「わざわざそんなことを聞くって、アラタさんはどう攻略したんですか?」

「ソロで行きましたよ、フレンドがいないんで」


 パララメイヤは目を見開き、大げさな驚きを示した。


「ソロって、まさか一人でってことですか!?」


 それ以外のソロなんてあるんですか、と聞きたいのをアラタはこらえる。


「そうですよ。属性攻撃しか通らないなんて、最初のボスにしてはふざけてましたね」


 パララメイヤは、はえーと口を開き間の抜けた表情を浮かべている。


「さすがアラタさん…… すごすぎます……」


 また微かな違和感。

 そこで、


「敵です」


 アラタはパララメイヤに知らせる。

 パララメイヤの右手側にある草むらの奥に、ベイビーツリーマンがいた。

 小型の植物系の敵で、大した敵ではない。


「あわわ、どうしますか!?」


 さてどうするか。

 無視してもいいが、気付いて襲われたらそれはそれで馬鹿らしい。

 ならば先制攻撃を仕掛けるべきだが、とそこでアラタは思いつく。


「そうだ、魔法を見せてくれますか?」

「魔法って、わたしのですか?」

「他に誰かいるんですか、っとすいません。僕はこの領域の魔法ってやつを見たことがないんで、一度見ておきたいんです」


 パララメイヤの逡巡はわずかで、すぐにベイビーツリーマンに向かって杖を構えた。

 

 魔法を見てみたかったし、パララメイヤの腕も見ておきたかった。

 初心者なのだろうが、腐ってもあのガンラ山道は抜けているのだ。

 パーティに恵まれた可能性もあるが、何もできないということはあるまい。


 パララメイヤの情報を開き、呪文の織り手(スペルウィーバー)のクラス説明をポイントする。


 呪文の織り手/遠隔


 四属性のエレメントを利用し、多彩な魔法で戦うクラス。

 攻防に優れるが、大きなアクションを行う際は呪文の詠唱が必要。

 瞬間的な火力はトップクラスだが、小回りに難があり、上級者向けのクラス。

 使いこなせれば、パーティの火力として欠かせないものになるだろう。


 初心者向けにはあまり見えない。

 こういう系統の遊戯領域で初心者がやるべきなのは、弓や銃などを使った遠隔だとアラタは考えている。

 近接はオススメできない。慣れないうちの近接は、怖がるものが多いからだ。

 

 はるか昔の話になるが、アラタも最初の最初は怖かった。

 いきなり化け物と肉弾戦で殺し合いをするなんて、下手をすればチビる。


 それに比べると、遠隔はその恐怖心が薄い。

 弓や銃ならば、武器を使うだけでいいので扱いもそれほど難しくはない。

 キャスターの場合、攻撃に複雑な手順を踏むことが多いので、上手く使うのは難しいのだ。

 特に詠唱はその最たるもので、戦いの最中に長々とした呪文を唱えるのは、かなり向き不向きがある。

 アラタはそれが苦手で近接ばかりやってきたようなものだ。


 パララメイヤはどうなのか。

 このゲームの魔法使いとはどういうものなのか。

 見せてもらおうと思った。


 パララメイヤは気合十分な表情でアラタに合図した。


「行きます!」

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