20.クエストへの誘い
午後にはいきなり念信が来た。
お互いがフレンドであり、ベースエリアにいる場合のみ、距離が離れていても念信ができる。
PARALLAMENYA-RES:アラタさんすいません、ちょっといいですか?:FFH
ARATA-RES:なにかありましたか?:FFH
PARALLAMENYA-RES:あの、さっきアラタさんが言ってたようなクエストが見つかったので、一緒にやってくれないかな、と。:FFH
マジですか、という思いが隠せない。
アラタとて街を散策していたが、良さそうなクエストを探すことはできなかった。
ARATA-RES:どんなクエストなんですか?:FFH
PARALLAMENYA-RES:害獣退治だそうです。依頼主は農家と商館の連名で、害獣の角を持ち帰ってくれれば追加の報酬がいただけるようです。:FFH
普通に良さそうなクエストに思える。
ギルド外にある周期クエストなのだろうか。何にせよ乗っからない理由は見つからなかった。
ARATA-RES:わかりました。一緒に行きましょう。どこで落ち合いますか?:FFH
PARALLAMENYA-RES:南門でいいですか? そこからが目的の場所に近いようです:FFH
南門に向かうと、そこには既にパララメイヤが待ち構えていた。
杖まで出してやる気満々に見える。
「わあ!! 本当にアラタさんが手伝ってくれるんですね!! ありがとうございます!!」
どこか引っかかる言い方な気がした。何か違和感があるような。
「それはまあ、約束ですから。それで? クエストの詳しい内容を教えてもらえますか?」
アラタは投げられたパーティ勧誘に雑に了承を返す。
「南門から少し行った山中に、大型のマーダーバニーが発生したそうです。農地を荒らす上に人まで襲う害獣で、これを退治して欲しいと。あと、出来たらという話ですが、その角を取ってきて欲しいそうなんです。なんでも装飾品の良い素材になると。もし持ち帰ることが出来れば、商館側が追加報酬を出してくれるって言ってました」
なるほど。
そのマーダーバニーとやらを討伐できれば基礎報酬が手に入る。マーダーバニーとの戦闘中に、角を切り落とすことが出来ればボーナスの報酬が手に入るというところか。
「確かに良さそうなクエストに思えますね」
「ですよね!? よかったぁ……」
とパララメイヤは大げさな安堵の息を漏らす。
「では早速行くとしましょうか」
目的地の道中は、ガンラ山道側に戻ることになる。
ガンラ山道攻略後からフィーンドフォーンに向かう時も思ったが、この道は敵のポップが少ないようだ。
ガンラ山道の攻略で疲弊したパーティへの配慮だろうか。
そういう配慮が出来るならば、属性攻撃を持たないソロへも配慮をして欲しいところだ。
ガンラ山道の仕様を、アラタはそれなりに根に持っていた。
道中は、二人で適当な雑談をしながら進んだ。
「そういえば、パララメイヤさんはガンラ山道はどう攻略したんですか?」
「メイヤ、でいいですよ。パララメイヤって名前は長いでしょう?」
初対面の相手をいきなり呼び捨て、というのも気が引けたが、アラタは言われる通りにすることにした。
その方がコミュニケーションが円滑になる、ような気がする。この手のやりとりは不得手だ。
「では、メイヤはどう攻略したんですか?」
「どう、って言われても。普通に野良のパーティに入れてもらって攻略しました。まだフレンドもほとんどいませんし、エルドラっていうギルドにも誘われたんですけど、結局有耶無耶になっちゃいましたし。幸い魔法クラスは需要が高いようで、逆に声をかけて入れてもらいました」
それはそうか。
普通のプレイヤーならばシャンバラに戻って情報を得ることは容易であり、当たり前に属性攻撃が使えるクラスをパーティに加えるだろう。
キャスターならば引く手数多なはずだ。
「わざわざそんなことを聞くって、アラタさんはどう攻略したんですか?」
「ソロで行きましたよ、フレンドがいないんで」
パララメイヤは目を見開き、大げさな驚きを示した。
「ソロって、まさか一人でってことですか!?」
それ以外のソロなんてあるんですか、と聞きたいのをアラタはこらえる。
「そうですよ。属性攻撃しか通らないなんて、最初のボスにしてはふざけてましたね」
パララメイヤは、はえーと口を開き間の抜けた表情を浮かべている。
「さすがアラタさん…… すごすぎます……」
また微かな違和感。
そこで、
「敵です」
アラタはパララメイヤに知らせる。
パララメイヤの右手側にある草むらの奥に、ベイビーツリーマンがいた。
小型の植物系の敵で、大した敵ではない。
「あわわ、どうしますか!?」
さてどうするか。
無視してもいいが、気付いて襲われたらそれはそれで馬鹿らしい。
ならば先制攻撃を仕掛けるべきだが、とそこでアラタは思いつく。
「そうだ、魔法を見せてくれますか?」
「魔法って、わたしのですか?」
「他に誰かいるんですか、っとすいません。僕はこの領域の魔法ってやつを見たことがないんで、一度見ておきたいんです」
パララメイヤの逡巡はわずかで、すぐにベイビーツリーマンに向かって杖を構えた。
魔法を見てみたかったし、パララメイヤの腕も見ておきたかった。
初心者なのだろうが、腐ってもあのガンラ山道は抜けているのだ。
パーティに恵まれた可能性もあるが、何もできないということはあるまい。
パララメイヤの情報を開き、呪文の織り手のクラス説明をポイントする。
呪文の織り手/遠隔
四属性のエレメントを利用し、多彩な魔法で戦うクラス。
攻防に優れるが、大きなアクションを行う際は呪文の詠唱が必要。
瞬間的な火力はトップクラスだが、小回りに難があり、上級者向けのクラス。
使いこなせれば、パーティの火力として欠かせないものになるだろう。
初心者向けにはあまり見えない。
こういう系統の遊戯領域で初心者がやるべきなのは、弓や銃などを使った遠隔だとアラタは考えている。
近接はオススメできない。慣れないうちの近接は、怖がるものが多いからだ。
はるか昔の話になるが、アラタも最初の最初は怖かった。
いきなり化け物と肉弾戦で殺し合いをするなんて、下手をすればチビる。
それに比べると、遠隔はその恐怖心が薄い。
弓や銃ならば、武器を使うだけでいいので扱いもそれほど難しくはない。
キャスターの場合、攻撃に複雑な手順を踏むことが多いので、上手く使うのは難しいのだ。
特に詠唱はその最たるもので、戦いの最中に長々とした呪文を唱えるのは、かなり向き不向きがある。
アラタはそれが苦手で近接ばかりやってきたようなものだ。
パララメイヤはどうなのか。
このゲームの魔法使いとはどういうものなのか。
見せてもらおうと思った。
パララメイヤは気合十分な表情でアラタに合図した。
「行きます!」




