表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

187/202

187.素直にならない居残りガール


 アラタたちの行軍は、軽く走るといった速度で進んだ。

 メイリィとロンが前、アラタとパララメイヤとユキナが中央、ヤンとからくりが後ろといった並びだ。


 ハウスエリアからポータルにたどり着くまでに二度、黒い獣に襲われた。


 前衛の二人が基本的に処理し、後衛が援護をする形だった。

 アラタは何もしていない。

 スキルを使わず無傷で倒すのはそう難しくないと思うのだが、それをやろうとすると普通に怒られた。

 冒す必要のないリスクは冒すなとのお達しだ。


 ポータルからアヴァロニアに飛んでからが本番だった。

 それこそ、敵はひっきりなしに現れた。

 

 基本的には遭遇戦だ。

 道行く先にいた獣がアラタたちに気付いて襲いかかってくる。

 それを処理しながら歩みを進めていく。

 獣たちの性質に仲間を呼んで殺到してくる、ということがないのは救いだった。


 無人となったアヴァロニアは酷く不気味だ。

 店も民家も荒れ果て、割れていないガラスが見当たらない。

 窓から見える家具の物陰には輪郭のぼんやりとした黒い毛皮が見え隠れしている。

 NPCどころかプレイヤーの姿も皆無で、どこか別の領域にでも迷い込んでしまったかのような錯覚をうける。


 アラタたちはできるだけ急いでアヴァロニアの街を進んだ。

 

 パララメイヤのナビゲートで道を行く。

 会話らしい会話もなく、皆が緊張している。

 

 もうすぐ街の出口というところで、六度目の獣と遭遇した。

 少し先に二匹、獣がアラタたちに気付いて臨戦態勢に入る。


 ロンとメイリィが駆けた。

 ロンが先行し、その後ろにメイリィが大鎌を携えて走る。


 接敵の直前にロンが左に、メイリィが右にと分かれ、止まることなくそれぞれが一撃を見舞った。

 ロン側の獣は体勢を崩し、メイリィ側の獣は大鎌によるダメージに倒れもがいていた。


 体勢を崩した獣にパララメイヤのマジックミサイルとからくりのビームが飛び、倒れた獣にはヤンがトドメを刺した。


 アラタはなにもさせてもらえないが、歯がゆいということはなかった。

 誰かに守ってもらう、というシチュエーションは初めてだが不思議なほど頼もしく感じた。

 自分にそんな仲間がいるというのも、アラタは不思議に感じた。

 危機的な状況であるのに、思ったよりも悪くないな、という気分になってしまっていた。


 アヴァロニアの門を出て、街の外へと出る。

 アヴァロニアは巨岩の上の街であり、街の外はそう広くはない。ここまで来れば虹の岬までもう僅かというところだった。

 道中は拍子抜けするほど順調だった。少なくともここまでは。


 街の外の草地に入ったところで、メイリィが突然立ち止まった。

 それに合わせて他の全員も立ち止まる。


「メイリィさん、どうしたんですか?」


 パララメイヤが言う。

 それに対しメイリィは大きく伸びをしてから、


「やーめた!」


 いきなりそう言い放った。


「あ?」


 声を出したのはメイリィの近くにいたロンで、他の面々は一体何事かといった目でメイリィを見ている。

 アラタ以外は。


「やめたって言ったの。気分じゃなくなっちゃった。アタシはここで降りるわ」

「メイリィ、状況をわかってるんですか?」


 ヤンが責めるような口調で言う。

 今までにアラタが見たことない表情だった。本気で怒っている。

 そこにアラタは割り込んだ。


「いいんじゃないですか、そういうのも」

「揉めてる時間がもったいないと?」

「違いますよ。気分じゃないなら仕方ないじゃないですか。さあ気にせず行きましょう」

「アラタさん! 気分がどうの言ってる場合じゃ……」


 言葉を待たずにアラタは走りだした。

 アラタを守らないといけない性質上、アラタが先行してしまえば全員が着いて来ないわけにはいかない。

 

 メイリィがひとりポツンと背後に取り残されていた。


ARATA-RES:メイリィ。


 アラタは残ったメイリィに念信を飛ばした。


ARATA-RES:ありがとうございます。


 一瞬の間をおいて返信が来る。


MEILI-RES:意味わかんない。


 アラタが動き出してしまった以上、ほかはどうしようもない。

 ロンがアラタを追い抜き、陣形が再編された。

 五人と一体が草原を駆ける。

 まだ離れてはいるが、虹の岬は見えていた。


PARALLAMENYA-RES:あそこです!


 パララメイヤが指す先には、人ひとりがようやく歩けるような不自然な坂となった部分があった。

 ここからでははっきりと確認できないが、その傾斜は巨岩の外周いっぱいにまで伸び、その先には何もないように見える。

 走りながら、ユキナからの念信が来た。


YUKINA-RES:しかしさっきのはなんだったん?

ARATA-RES:さっきの?

YUKINA-RES:メイリィや。時々わからんとは思ってたけど今度のは本当にわからん。

ARATA-RES:ああ、あれですか。敵がいたんですよ。

YUKINA-RES:敵?

ARATA-RES:アヴァロニアの途中からつけられている気配がありました。たぶんプレイヤー狩りとやらでしょう。その迎撃のためにメイリィは残ったんだと思いますよ。

YANG-RES:だとしたらあとで謝らなければなりませんね。

ARATA-RES:あとがあったらね。

YANG-RES:そういうのは冗談でもやめてください。

ARATA-RES:すいません。まあ気にしなくていいと思いますよ。メイリィも気にしないでしょうし、気にされたくないからあんな言い方をしたんでしょうしね。


 視界の先に、突然黒い獣の群れが出現した。

 本当にいきなりだった。

 今まで何もいなかった平穏な草地の上に、百体近い獣の群れが現れたのだ。


YUKINA-RES:なに!!??

YANG-RES:これも試練なのか、それともたまたまか。何にせよ笑えないですね。


 アラタは迷わず神威を切った。


ARATA-RES:ありがとうございます。ここまでで結構です。


 獣は密集しているわけではなくバラバラだ。

 アラタは高速で獣の群れを躱しながら走り、最後に縮地を切って抜けた。

 

 アラタは坂を登り始める。

 結構な傾斜で、高度がぐんぐんと上がる。

 眼下の景色は圧倒的だ。

 雄大な自然、遠い山々、遥か遠くには海まで見える。


 走るうちに坂の先端が見え始め、そこには見紛いようのない黒い扉があった。

 背後から獣が追ってくる気配はない。

 アラタは仲間の様子を確認しするために振り返るか迷ったが、結局振り返りはしなかった。

 あの面子なら離脱できるはずだ。

 心配して振り返ってる暇があったら一歩でも進めと言われる気がした。


 アラタは走り、走り、瞬く間に坂の頂上まで登り詰めた。

 眼前に黒い扉がある。


 アラタは止まることなく勢いのままに黒い扉を押し開き、そのまま暗黒の中へと飛び込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ