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185/202

185.カウントダウン


 イオリの身体が光の粒子となってアラタの右目に吸収されていく。

 無限の暗黒空間に漂う光の粒子はどこか幻想的だった。


 イオリが消え去ると、そこは完全にアラタしかいない暗黒の空間になった。


 アラタはそのままいくらか待ったが、なにかイベントが起こる気配はない。

 クラウンが出てくる様子もなかった。


 なにか変化は、とアラタが周囲を見回すと、背後にはアラタを馬鹿にするようにぽつんと白い扉があった。


 これで第二の試練とやらをクリアしたのだろう。たぶん。

 どこか釈然としないまま、アラタは白い扉を開けた。

 白い扉の中は来る時とは正反対で、純白の光によってその先が見えなかった。


 アラタは迷わず進む。

 視界が一瞬白に染まり目をつぶった。

 足元の感触が変化する。

 それに合わせて目を開くと、そこは神殿らしき場所だった。


 海底神殿の黒い扉があったのと完全に同じ位置だ。

 パララメイヤも、ユキナも、ロンもまだそこにいた。


「アラタさんっ!! 無事だったんですね!!」


 パララメイヤが駆け寄って来る。


「ええ、レジェンドとやらされましたがなんとかね」

「レジェンド?」

「イオリ・トドロキですよ」


 そう言っても、パララメイヤはピンと来ていないようだった。

 最近遊技領域に来始めたパララメイヤには、十年以上前のプレイヤーはわからないのかもしれない。

 ロンの反応も似たようなもので、ユキナだけはわかっているのか驚きを浮かべていた。


「わかりませんけど、色々終わったら追想を見せてください」

「無事終われたらね」


 次に近づいて来たのはロンだった。

 なぜか片手を上げて近づいてくる。


「なんです? その手」

「なんですって、ハイタッチだろうがよ」

「ハイタッチ?」

「勝ったんだろ?」

「なんとか」

「じゃあほら」


 ロンが手を向けてくるので、アラタはそれに合わせてタッチした。

 パンと小気味よい音が響く。どうにも妙な気分だ。


「おつかれ。とにかくこれで脱出に近づけたわけだ」

「そのはずですよ」


 ユキナだけが近づいて来なかった。

 ユキナはアラタを見つめ、どこか放心しているように見えた。


「ユキナはなにかないんですか?」


 アラタは冗談めかして言ってみる。

 ユキナは我に返るように小さく首を振り、それからようやく反応した。


「ウチはアラタの勝ちを信じとったからね」

「お嬢?」


 ロンが振り向いてユキナの言葉に反応した。


「な? 言ったやろ? 心配することないって」


 ユキナがロンに言う。

 それに対してパララメイヤまでもがユキナの方を向いた。


「ユキナさん?」

「ウチには全部わかっとったんよ」


 二人の反応がどうもおかしい。


「ユキナになにかあったんですか?」

「アラタさんが行ってからずっとウロウロウロウロ落ち着かなかったんですよ。心配しなくても大丈夫ですよって言っても落ち着かなくって」


 アラタがユキナを見ると、


「嘘やからね、それ」


 としれっと言い放った。

 いったいなにが始まっているのか、面倒ごとは勘弁してほしいと思ったところで、ロンが割り込んで来た。


「ところで、このダンジョンはどうするんだ? アラタが試練を終えた以上目的は達成したが、せっかくここまで来たんだろ?」


 ナイス話題転換だ、アラタはそう思った。


 実際のところ、このダンジョンのボスに挑むかは微妙なところであった。

 一応はエンドコンテンツらしきダンジョンの最奥である。そういったダンジョンに挑んだ前例がない以上、ボスの強さがわからない。

 想像よりもずっと危険な可能性はある。


 それと同じく、報酬もわかっていない。

 今の状況を考えると、遊技領域の報酬だとそのまま考えない方がいいのかもしれない。

 なにせ現実世界の存亡に影響があるのだから。


 リスクとリターン、双方が不明な分判断しようがないというのが現実だ。

 しかし、ゲーマーとしては気になるところではある。


「そうですね……」


 せっかくだから挑んでみましょうか、アラタの言葉はそう続くはずだった。


YANG-RES:どうやら戻ってきたようですね。


 ヤンからの念信だった。

 アラタはすぐに念信を返す。


ARATA-RES:どうかしましたか?:FDD

YANG-RES:アラタさんが戻ってきてるということは、試練は終えたんですよね? 出来ればすぐに戻ってきてください。:FAV

ARATA-RES:また悪いニュースですか:FDD

YANG-RES:そこら中に黒い獣が湧いているんです。:FAV

ARATA-RES:どういうことですか?:FDD

YANG-RES:言葉通りですよ。場所に関わらず黒い獣が徘徊してるんです。それにNPCが姿を消してしまったようだ。まるでNPC全員が黒い獣に変化してしまったかのようにね。十五分ほど前からいきなり発生した現象でちゃんとは調査できていませんが、プレイヤー間の情報交換でだいたいの全貌はそんなところだと思います。三十分前は平和なファンタジー領域だったのに、今や世界の終焉かホラー領域ってところですよ。:FAV


 言葉はいつも通りだったが、ヤンの念信からは普段にはない逼迫感が伝わってきた。

 十五分ほど前から、アラタはその言葉が引っかかっていた。

 十五分前といえばちょうどアラタがイオリを倒した時間と重なる。

 ということはつまり、アラタの勝利が外で起きているなにかのトリガーになった可能性が高い。


 おそらく、グダグダとしないための措置なのではないかと思う。

 星を追うもの同士の争いが元々どういうものとして設計されたのかわからないが、最終決戦が行われないような事態を阻止するためのイベントなのではないかと思う。

 例えば星を追うもの同士がいつまでも争わなかったりする可能性はあり得る。

 双方が最終決戦に向けてビルドをし続けたって不思議ではないのだ。

 なにせかかっているものがかかっているものだ。それこそ絶対に勝ちを確信するまで準備をしたって不自然とは思わない。

 

 そういった事態を防ぐためにカウントダウンのタイマーが発動したのではないかと思う。

 早く戦わないとアルカディアも滅びるぞ、といったところだろう。


 アラタはパララメイヤ、ロン、ユキナの三人を順に見て、


「即戻る、でいいですよね?」


 全員が迷わず頷いた。


 アラタはヤンに念信を飛ばす。


ARATA-RES:わかりました。すぐに戻ります。:FDD

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