175.それぞれの動き
閉鎖されたアルカディアは、四つの派閥に分かれていた。
一番多いのは、生存を目指すグループだった。
このグループは危険なクエストなどはせず、下位のクエストをこなすことに力を入れていた。
できなくなったのは領域の移動だけで、遊技領域内の機能は完全にそのままだったのだ。
ゲーム内通貨さえあれば食料や寝泊まりなどには困らない。
よって危険のないクエストでゲーム内通貨を手に入れて生活しようというわけだ。
このグループに属する者たちには二つの考え方があった。
ひとつは、時間が経過すれば外部からの干渉で出られるであろうと考える者。
もうひとつは、最悪一生この領域で過ごすことになってもどうにかできるように備えようとするものだ。
次に多いグループは、意外にも普通に遊技領域で遊んでいようという者たちだった。
どうせ助けが来るのだから変に動いても仕方ない。それならば普通に遊んで、3rdフェーズを楽しみ早く進めてしまおうというものだ。
このグループには年若いものが多いのも特徴だった。
楽天的極まりないが、内部の雰囲気は良好で皆が楽しくアルカディアで遊んでいた。
生存を目指すグループでもそうだが、助けが来るだろうと考えている者は、どこか現実を受け入れきれていない部分があった。
その証拠に、なぜ助けが来ないのか、外部はどうなっているかを深く考える者はいなかったのだから。
三つ目のグループは、おかしくなってしまった者たちだった。
たいていは恐怖に慄き引きこもる者が多かった。
このグループは、逆に想像力が豊かすぎる面もあった。
シャンバラ全体で無事なのは、エデン製の遊技領域であるこのアルカディアだけではないのか。
今の状態でデスしたら、普段とは違う事態になってしまうのではないか。
そういった不安と恐怖から、全てを恐れて引きこもっていた。
これらの者は大抵が最初の街の安宿にこもっていた。
それとは別の方向におかしくなってしまった者もいた。
少数ではあるが、プレイヤーキルばかりを狙うものが出始めたのだ。
理由は、わからない。
おかしくなってしまった奴なりのおかしな理由があるのだろう。
とにかく、現状ではこれらのプレイヤーが最大の脅威ではあった。
何しろ、目に見える危険なのだから。
そして第四のグループこそが、アラタ達のニルヴァーナだった。
アラタ達は、アルカディアから自力で脱出することを目指した。
メンバーの内訳はアラタ達に加えてユグドラから離脱した者たち、ユキナの商人仲間、メイリィのファン、それらから繋がった者たちが少々といったところだ。
これらのメンバーに、アラタは話した。
エデン人の計画で、我々プレイヤーを見世物として追想を作ろうとしていることを。
そして、開放のためのゴールが用意されているであろうことも。
この話は意外なほどあっさりと受け入れられた。
ヤンのような有名プレイヤーが保証していたのもあっただろうし、知り合い同士のつながりが多かったせいもあるだろう。
それにアラタの星を追うものという理念がとどめだ。
何が起きているかわからない者たちにとって、わかりやすい答えが目の前に用意されたのだ。
それを信じない者はいなかった。
領域から転移ができなくなって一日で、ギルド全体が転移の開放のために動き始めた。
願いの種子、星の試練、シャンバラの崩壊を望む者、そういった話は一切伏せていた。
これだけ壮大な話になると逆に信憑性がなくなると思ったのだ。
ひとつの遊技領域からシャンバラ全体が滅ぶ、なんて話を聞いたらアラタだって信じないと思う。
転移できないという通常では起こり得ないトラブルを体験しても尚、だ。
それに無駄に恐怖を煽る必要もない。
詳しい話を知っているのは、アラタを中心とした一部のメンバーだけであった。
そこから何をしているのかと言えば、情報収集とレベリングであった。
悲しいことに、遊技領域に身を置く以上レベリングは絶対にしておくべきことであった。
では情報収集は何の情報を集めているのかと言えば、星の試練についてだ。
アラタが個人として目的にするのはヴァン・アッシュの打倒だが、この事態を終わらせるための最終目的は星の試練のクリア、そして願いの種子への到達だと予想される。
ここで問題が起こる。
具体的に何をすればいいのかがわからないのだ。
アラタは今まで流されるように試練をクリアしてきた形になる。
だが、今回は今のところノーヒントだ。
老人も接触してこなければ、ネメシスも接触してこない。
ヴァン・アッシュの消息も不明。
だから、何か試練のとっかかりになるような情報が欲しかった。
試練を目指せば、どちらにせよヴァンとぶつかることになるだろうからだ。
かつてパララメイヤに星の試練について調べてもらった時には、ろくな情報が見つからなかった。
しかし、今はどうか。
前よりも行ける範囲は増えたし、探すメンバーも増えた。
見つからないことはないはずだとアラタは思っていた。
星の試練はクリアできるように作られているはずだからだ。
今までの経験からも、それは確実な自信がある。
どんなに馬鹿げた難易度で作ろうとも絶対クリアが不可能ということはない。
与えられているはずのヒントを探す。
情報収集に動くグループには、まずはそれを頼んだ。
そういった具体的な動きを始めてから、わずか一時間のことであった。
パララメイヤから念信が来たのだ。
場所はフィーンドフォーンから。
PARALLAMENYA-RES:アラタさん、今大丈夫ですか?:FFH
ARATA-RES:どうしましたか?:FAV
PARALLAMENYA-RES:見つけたんです!! 星の試練の情報を!!:FFH




