171.幕間
リタはシャンバラの保安要員の一人だ。
保安委員会は極一部の人間しかなれない非常に栄誉ある仕事であり、リタはその栄誉に授かった人間であった。
職務内容はシャンバラ全体の監視。
リタの仕事は主に、シャンバラ間の移動で異常がないかチェックすることだ。
とはいえ、難しいことは何もない。
非常に栄誉のある仕事だが、やることは単純だ。
巨大なモニター郡の前に座って、のんびりしているだけである。
それはそうだ。シャンバラにある領域の数は人間がどうこうできるようなものではない。
ほぼ全てをシステムが念入りにチェックしている。
エラーなど起こることは滅多になく、そうなるとリタの仕事は単に座っているだけとなる。
とはいえ、稀に起こるエラーをチェックして対応するのも重要な仕事には違いない。
そうとわかっていても暇なものは暇で、リタは椅子の背もたれによりかかり、大きな伸びをした。
ピーッ、ピーッ、という小さな警告音。
「またなの?」
リタはシステムにコマンドして問題箇所をピックアップする。
エラーの内容は領域間の転移ミス。
R499882672“フリーフォール”からR9546315612“ラス・ヴェガス”への転移失敗。
この仕事で一番目にするエラーはこれだ。
リタはエラーを確認し、利用者に定型のメッセージを送って再転移を要求した。
結果は成功。いつものやつだ。
転移を行う時、移動先に人や物があった時に起こるやつだ。
ポータル周辺は基本物がない状態だが、人は行き来する。
転移しようとしている座標にたまたま人がいた時にこうしたことが稀に起こる。
もちろん、一度だけの失敗でそうなるわけではない。
エラーが起きたら、システムは即違った位置に転移を行おうとする。
そして、それがダメだったらさらに違った場所に転移させようとする。
そうした試みが十連続で失敗してしまった場合、リタのところまでエラーが届くわけだ。
とてつもない不運の連続でで転移させようとした場所にことごとく何かがある。
そうなってしまった場合にこうなるわけだ。
システムは運が悪いなどという要素は理解しないので「何か致命的な不具合が起きているのでは?」と人間様にお伺いを立てるわけだ。
このところ、転移失敗の報告が多い気がする。
まあ、何事にも偏りというものはあるものだ。
リタは椅子に深く腰掛け、再びぼんやりとモニターを眺め始めた。
仕事が終わったら何をするか、今夜の晩ごはんは何にするか、そんなことを考えている。
この一点においては、システムの危惧は正しかった。
「何か致命的な不具合が起きているのでは?」
この時点で異変に気付いているのは、シャンバラの管理システムだけだった。
システム以外は、事が起こるまで誰も気づくことはなかったのだけれど。




