17.これからの方針
アラタはフィーンドフォーンの女神像に祈りを捧げた。
別に信仰があるわけではない。オープニングで会っただけの奴に信仰心など芽生えていたらそれは病気だ。
この行為はファストトラベル地点の登録に必要なのである。
こうやって登録しておけば、各拠点にあるポータルからマニーを支払って一瞬で移動できるのだ。
広場の女神像の周りには、アラタ以外にも多数のプレイヤーがいた。
ゲームでこういった場所はプレイヤーのたまり場になることが多い。
アルカディアでも各拠点の女神像の周囲はそういった場所になるのだろうな、と思う。
フィーンドフォーンは山中にある街で、周囲は自然に満ち溢れている。
高低差の多いかなり特徴的な街で、最高地点から街を見下ろすと信じられないような絶景を見ることができる。
住んでいるNPC種族はエルフが中心で、住居も石材でできたものではなく、木材や樹そのものを加工して作ったものが多い。
アラタがここでやるべきことは、十分な準備を整えることだ。
ガンラ山道の苦戦から、いくらアラタでもさすがにしばらくはビルドをしようという気になっていた。
レベル、装備、消耗品、必要なものはいくらでもある。
これらを得られるのは、クエストだ。
アルカディアのビルドの主体になるのは、クエストをこなしていくのが最も効率が良いという結論にアラタは達した。
経験値は、外にいる敵を狩ってもほとんど経験値が得られないようだった。
効率だけで言えばダンジョンの敵が最も良いようだが、クリアしたダンジョンに再入場はできない。
他のプレイヤーの攻略に協力する形であれば入場できそうな気はするが、周りのプレイヤーを見ている限りそれをやっていそうな気配はなかった。
推測だが、ホスト以外のプレイヤーには経験値が減るような何かがあるのだろう。
装備に関してはNPCの店売りは期待できなそうだった。
良い装備を手に入れる方法は二つあり、一つはプレイヤー由来の製作品を買うこと。
店売りの装備が弱いのは、プレイヤーが作った装備の価値を相対的に上げるためだろう。
しかし、これを買うのはあまり現実的ではない。
サービス開始から即製作系のスキル上げに勤しむ層は極めて少ない。
そのためか、バザーに出ている商品の数が僅かで、しかも冗談みたいに高額だ。
おまけにそんな値段でも売れてしまっているのがタチが悪い。
たぶん第二フェーズになってミラーが統合されるまで、サービス開始当初にしか許されないボッタクリ価格が続くのではないかと思う。
もう一つの方法は、クエスト報酬だ。
クエストの報酬に装備アイテムが指定されているクエストが存在するのだ。
これらの装備は店売りよりも遥かに強く、プレイヤーの製作品にも劣らない。
それどころか、現時点のプレイヤーのレベルからすれば、製作品を上回るものもそれなりに存在するようだ。
レベル上げにしろ、装備を整えるにしろクエストが最高率。
以上の理由から、クエストを受けるためにフィーンドフォーンの冒険者ギルドへとやってきたのだが、アラタは厳しい現実に直面した。
受注できるクエストが、存在しないのだ。
ギルドのクエストボードには、なんのクエストも貼られてはいなかった。
ギルド由来のクエストは蝗が通った畑の如く食い荒らされ、そこにはもう何も残されてはいない。
受付に聞くと、ギルドのクエストは日に一回発行されるそうだ。
そのシステムであれば、そりゃあそうなるだろうとアラタは思う。
アラタがクエストが最高率であると結論付けたならば、他のプレイヤーも全員がそう結論付けているだろう。
なにせ他のプレイヤーはログアウトできるのだから、フォーラムなりで情報収集をするのは簡単だ。
とりあえずガンラ山道を突破し、次のダンジョンをクリアするために一旦ビルドしようと考えるプレイヤーはかなり多いだろう。
その結果がこれだ。
全員が朝イチに冒険者ギルドに突入し、地獄のクエスト争奪戦が繰り広げられたわけだ。
早くも詰みである。
アラタも地獄の争奪戦に参加するという手もなくないが、それは悪手なはずだ。
なぜなら、他のプレイヤーはパーティでクエストを受注しようとするからだ。
四人で争奪戦に参加すれば、単純計算で四倍はクエストを受注できる可能性が上がる。
そんな不利な争いに参加する気はちょっと起きなかった。
残された手は、NPCから直接頼まれるタイプのサブクエストだ。
アルカディアのサブクエがどういったものなのかわからないが、これならば受けられるだろう。
個人につき一回ずつ受注できるタイプなのか、それともランダムで生成されるものなのか知らないが、どちらにせよギルドでの争奪戦よりは遥かに可能性がある。
アラタは用なしとなった冒険者ギルドから出た。
大きなため息を一つ。
NPCからサブクエストを受注するには、当然NPCに話しかけていかなければならない。
気が重い。
NPCとはいえ、その再現度は非常に高い。
普通に話す分には、人間となにも変わらない。
太古の昔のゲームのように、街の名前を紹介し続けるだけの人間相手ならいくらでも声をかけられる。
が、それなりのコミュニケーション能力を求められる現代のゲームでは、NPCに話しかけるにも気力がいる。
なにせアラタは十四年をほぼ引きこもり、ソロゲーだけに費やした身だ。
自慢ではないがコミュニケーション能力の低さには自信がある。
とはいえ、やるしかないのだが。
まずはクエストが発生しそうなところから声をかけて行くのが定石だ。
フィーンドフォーンだと市場と酒場あたりがありそうなところか。
無論、もっと違ったところにレアなクエストが潜んでいたりはするだろうが、ひとまずはそういうところは目指さない。
アラタがギルドの外に出て、市場へ向かう曲がり角を曲がった直後だった。
「きゃあああああああああああああ!!!!」
女性の悲鳴。
次いで念信。
PARALLAMENYA-RES:どいてくださいいいいいいいいいいいいいいい!!!!




