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162.弁髪大納言


「素朴な疑問なんですが、気配なんてわかるものなのですか?」


 ヤンが言った。


「え? わかりますよね?」


 ヤンの意外な発言に、アラタは戸惑いながらも聞いた。


「わかるわよ」

「わからんわ」


 それをメイリィは肯定、ユキナは否定した。


「とにかく、囲まれてるのは確かだと思いますよ」


 なぜかと言われると困るが、なんとなくわかるのだ。

 それはメイリィも同じなのだろう。


「人数までわかりますか?」

「それはちょっと。かなり多いのは間違いないと思いますが」


 ヤンはアラタの言葉を聞いて考える素振りを見せる。


「つまり、強制的に籠城させて女王杯に参加させないという手に出たんでしょうね。ギルドハウスなら設定から侵入は防げますが、出ていくとなると骨だ」


 そういう手もあるのか。しかしずいぶんと動きが早かった。たぶん、アラタが勝ち抜き戦に出ている段階で指示をしていたのだろう。

 そう考えると攻撃されずにギルドハウスに戻れたのはギリギリだったのかもしれない。

 あるいはわざと泳がされてギルドハウスに封じられた可能性もあるか。


 あまりいい状況とは言えない。

 こちらの勝利条件はユグドラ側の女王杯参加者を誰か一人でもキルすること。

 敗北条件は女王杯参加者の誰かがキルされてしまうこと。それに加えて女王杯開催場所に参加者が到達できないこと。


 圧倒的に不利だ。

 それに、ロンが戻っていないというのも危ない。

 ロンがやられてしまえばそれだけで敗北に繋がってしまう。


「ユキナ、ロンはどうしてますか?」

「採掘をやめてもらって、いったんアヴァロニアに移動してもらってるよ。こうなると下手に戻るより外で動ける人員の方が大事かと思て」

「危なくないですか、それは。ロンも女王杯の参加メンバーです」

「ちがうよ?」

「ん? ちがくはないでしょう?」

「ニルヴァーナの女王杯参加メンバーは、アラタ・トカシキ。ヤン・イェンシー。メイリィ・メイリィ・ウォープルーフ。そして弁髪大納言になっとる」

「べん……それはロンでしょう?」

「女王杯の参加は別にニックネームでもいいんよ。だからロンの名前は特定されてへん。それなら外で動いてもらった方がええやろ?」


 もっともな話ではあるし、正しい判断であるとも思う。しかしなんだろうその名前は。

 おそらくはユキナのいたずらなのだろう。大いに突っ込みたいところだが、今がそういう場合でもないのは確かだ。

 そして、おふざけにせよロンが特定されていないのは良い要素ではある。


ARATA-RES:パララメイヤはどうしてますか?


 数秒の間をおいて返信があった。


PARALLAMENYA-RES:今はフィーンドフォーンにいます。ヤンさんから聞きました。大変なことになってるみたいですね。


 パララメイヤも無事らしい。

 パララメイヤは女王杯には参加しないので、比較的安全ではあるだろう。

 

「マスター、どうします?」

「そのマスターっていうのはやめてください」

「ではアラタさんで」

「ヤンさんはどう思いますか?」

「ふむ、やり合うと決めたなら向こうの参加者をデスペナに追い込むのが普通でしょうね」


 やはりそうなるか。


「ただ、向こう側もある程度対策はしているんじゃないかと思います」

「対策?」

「はい。補欠要員リザーバーもなしに参加者がデスペナ中だと参加できなくなるというのはちょっとおかしいですよね。まあイベント最初期によくある調整不足だとは思うんですが。なんにせよ問題のある設定だ。だからユグドラ側も対策はしてるのではないかと思います。具体的に言えば、参加者は女王杯当日までログインしないとかね」


 それは確かに鉄壁の対策だ。やられたらどうしようもない。


「ただ、全員がそうするかというと微妙です。少なくともユグドラのマスターであるリステンリッドはインしているのではないかと思います。指示役として」


YUKINA-RES:というわけや。ロン、調べてくれる?


「アラタ、ロンにユグドラの拠点の座標を送ったげて」


 アラタは言われた通りにした。


RONALD-RES:人使いの荒いこって。ところで、俺がやっちまってもいいんですか?

YUKINA-RES:やっちまってって?

RONALD-RES:そのリステンリッドってやつをですよ。

YUKINA-RES:ええけど、無理はせんといてな。

RONALD-RES:わきまえてますよ、そこらへんは。


 ロンからの報告があるまで、一時間半ほど時間がかかった。

 メイリィとヤンは一度シャンバラに戻って昼食を、アラタとユキナは報告を待つ意味も兼ねてアルカディア内で待った。


RONALD-RES:居ましたよ、リステンリッドってやつは。ただ、アラタが言ってた拠点には結構な人がいますね。

YUKINA-RES:護衛っぽい?

RONALD-RES:おそらく。だから無理しないでいったん退きましたよ。

YUKINA-RES:他の参加者はいた?

RONALD-RES:いなかったと思いますよ。ヤンの言ってたことは当たってそうです。


 通知に気付いてヤンとメイリィが戻ってきた。


「大方、俺の予想通りではありますね」

「とはいえ、リステンリッドがいるというのはまだマシですね。勝ちの目は一応あるわけだ」

「茨の道ではあります。アラタさんに何か策はありますか?」

「僕が囲みを抜けて、相手の本丸に突っ込んで大将首をあげます」


 それを聞いたヤンは呆れた風の顔をしたが、


「まあ、そういった類の作戦しかないかもしれませんね」

「アタシも行っちゃダメなの?」

「メイリィだとハウス周りの有象無象を振り切れないでしょう、敏捷性の問題で。ここは我慢してください」

「つまんないの。けど我慢したげる。貸しひとつだからね」


 アラタは大きく伸びをして、


「じゃあ早速行きますか」

「もう行くん?」

「既に準備をする時間は十分に与えてしまったかもしれませんが、やるなら早い方が良い。それに向こうも反撃してくる確信があって準備をしているわけじゃないでしょうしね」


 アラタはパララメイヤに念信を飛ばした。


ARATA-RES:パララメイヤ、ひとつ質問なんですが。 

PARALLAMENYA-RES:なんですか?

ARATA-RES:ハウスエリアで大魔法は使えますか? 

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