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157.目立つ


 アラタは一旦雑踏に交じることにした。

 ユキナに抱きつかれたままでは落ち着いて念信もできない。


 ヤンからの念信を受けて、アラタはすぐにフレンドリストを確認した。

 メイリィはインしたままだった。ということはひとまず無事なわけだわ。


MEILI-RES:三人返り討ちにしたわ。


 メイリィ本人からの念信だった。


ARATA-RES:なんだ、無事なんですか。

MEILI-RES:なんだって何よ、無事じゃないほうが良かった?

ARATA-RES:いえ、緊急タグに驚きましてね。てっきりやられたのかと思いましたよ。

MEILI-RES:アタシがそう簡単にやられるわけないでしょ。

ARATA-RES:それで、返り討ちにあった哀れなどなたかは誰なんですか?

YANG-RES:ユグドラですよ。


 今更かという気持ちと、本当に来たか、という気持ちが混在した。

 ヤンの読みでは女王杯本戦の直前に仕掛けて来るのではとしていたが、本当にその通りになったわけだ。


YUKINA-RES:でも返り討ちにできたなら良かったんちゃう?


 とユキナが一度発信してから、


YUKINA-RES:いや、これからなんか。 

YANG-RES:そうなると思いますよ。だからギルドメンバーは一度ハウスに集合しましょう。それまではできるだけ目立たないように。特に本戦に出場するメンバーは。


 本戦に出場するメンバーとはつまり、アラタ、メイリィ、ロン、ヤンの四人となる。

 このうちの誰かがやられてしまえば女王杯の開催とペナルティ期間が被ってしまい出場不能になるわけだ。


ARATA-RES:できるだけ目立たないようにですか。なるほど。

YANG-RES:なんです?

ARATA-RES:いえね、僕は今ガイゼルの勝ち抜き戦に参加していたんですよ。

YANG-RES:ああ、今は前哨祭でそんなこともしてるんでしたね。

ARATA-RES:それでなんとか七連勝を達成したわけです。

YUKINA-RES:なんとか? 楽勝やったやん。

YANG-RES:ほう、それはさすがですねって……


 ヤンからアラタが言わんとしていることを理解した気配があった。


ARATA-RES:そう、既にめちゃくちゃ目立ってしまったんですよね。


 最悪のタイミングだった。

 目立つなというならばあと一時間早く言ってほしかった。


 アルカディアでは、フレンドでなければそのプレイヤーがどこにいるかは調べられない。

 特定のプレイヤーを探したければ、目視するしかないわけだ。

 それなのに、アラタははっきりと自分の居場所をさらしてしまった。


 なんせ実況が「アラタ・トカシキ!!」と何度も叫んでいたわけだ。

 アラタは雑踏の中で頭を抱えた。


YANG-RES:とにかくハウスに戻ってください。街中のポータルは見張られていそうですから、出来れば他のポータルを利用した方がいいかもしれません。


「もしかしなくてもウチのせい?」

「おかげでこれから楽しくなりそうですよ」

「ごめん……」


 軽口で返したつもりなのに、ユキナは本当に責任を感じているように見えた。

 少しうつむいて、ともすれば泣きそうにも見える。


「冗談ですよ。 こうなるとは思えませんでしたし、いずれユグドラとはぶつかることになったはずです」

「でも……」

「それに、向こうから来てもらって返り討ちにしたほうが話が早いですからね」


 アラタはできるだけ不敵に見えるように笑ったつもりだった。

 ユキナの表情が和らいだのを見るに、いくらかは成功したのだろう。

 

「とにかく急ぎましょうか」


 アラタはユキナを連れて広場から離れた。

 本当にユグドラがアラタを補足して狙っているのならば、急ぐもなにもないだろう。

 勝ち抜き戦をしていた時間は一時間近くあった。

 それだけあれば十二分な準備ができるはずだ。


 今もアラタは遠距離からの攻撃に神経を尖らせている。

 街中で大規模な魔法攻撃を仕掛けてくる可能性は低い。

 あるとすれば弓のような物理的な遠距離攻撃だろう。

 

 アラタは裏道に入った。

 人通りが幾分減って視認性が増す。

 ここから街の外のポータルを目指すとなると、リルテイシア湿原のそばにあるポータルが一番近いだろう。


 アラタは通りの人間の挙動に不審がないか目を光らせながら先行する。

 人が多くて気配を読むもクソもなかった。なにかあったら後手になって反応するしかない。

 そもそも本当に襲ってくるのか、襲うとしたらどう仕掛けて来るのか、わからないことだらけだ。


 裏道からスラム通りに出たちょうどその時だった。

 大きな鐘の音が、二つ響いた。午後の二時を知らせる鐘だ。

 

「そこのぼっちゃん、ちょっといいかな?」

 

 道端に座った老婆に話かけられた。

 NPCで、やせ細った体にフードを被っている。


「ああ、そのおばあはな……」


 そこを狙われた。

 通りから高速で走ってくる影があった。

 アラタへと何かを投擲。金属の針のようなものに見えたがはっきりと確認はできない。

 アラタはそれを躱し、迎撃しようとしたところで、影はアラタの横をすり抜けていった。


「うっそ……」


 影はユキナの腹部に手を当てて、そのまま抱きかかえて走り去ろうとしていた。

 アラタは即座に追いかけようとしたが、屋根上から落下して来る何者かにそれを遮られた。


 斬った。

 落下してくる獲物ほど容易い相手はいない。

 敵じゃなかったら申し訳ない話になるが、まあ十中八九敵だろう。


 胴体が半分に分かれて落下し、どさりと鈍い音が響く。

 そこから一拍遅れて、事情がわかってないであろうプレイヤー達の悲鳴が響く。


 ユキナをさらったものを追いかけようするが、さらに二つの影がアラタの行く手を阻むように現れた。

 影の片方は、真っ二つになった仲間を見て口を開く。


「やってくれたなぁ。さすがはミラー42のPK魔だ」

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