155.勝ち抜き戦
「ガンスリンガー戦をやってるみたいですね」
舞台横の看板にそう書いてある。
「がんすりんがぁ?」
「勝ち抜き戦ですよ、確か」
看板に焦点を合わせると情報が読み取れるようであった。
説明はシンプルで、以下の通りである。
最大7勝まで続く勝ち抜き方式の戦いです。
勝者はそのまま舞台に残り、HP・スキルのリキャストなどは一戦ごとに回復します。
挑戦者はエントリーした者の中からランダムで決定されます。
連勝数に応じて商品をお渡しします。
レベルは一時的に20に調整されるので、初心者の方も奮ってご参加ください。
そこから下には勝利数毎の報酬が記載されていた。
なるほど。
トーナメント形式などではなく勝ち抜き戦にすることで、時間を定めず入れ替わりでやり続けることができるわけだ。
女王杯の前哨祭中は常に開催されていて、ちょっとした目玉になっている。
多くのプレイヤーが楽しめるように参加費はなし、レベルも強制的に20になるので、高レベルではないプレイヤーも同じ条件で戦えるようだ。
隣にいるユキナを見ると、ユキナも説明文を読んでいるようであった。
「あっ……」
アラタは気づいてしまった。
ユキナの目がヤバい。
それなりの付き合いで、アラタもユキナの表情が読み取れるようになっていた。
これは完全に金目のものを見つけた時の目だ。
ユキナはアラタに見られていることに気付いたのか、視線を看板から外した。
そうして甘えた声でこういうのだ。
「ウチ、アラタのかっこいいところ見たいなぁ」
言うと思った。
アラタは小さなため息をつく。
「そんなこと言って、その目は賞品が欲しいだけでしょ」
「うん!」
そっかぁ。
そんなに素直に言われるとは思わなかった。
「ね? ね? 挑戦してみん? どうなるにせよ面白そうやろ?」
まあ、面白そうと言えば面白そうではある。
「けどこの人数ですよ、挑戦できるまで待ったら日が暮れるのでは」
そこで大きな歓声が上がった。
どうやら勝負が決着したらしい。
「グレッグ・ハンセン!! 脅威の六連勝です!! 七連勝まで王手をかけたぁ!!」
どこからかテンションの高い実況の声が響いていた。
「さあ、次なる挑戦者は誰だぁ!! エントリーをどうぞ!!」
エントリーは看板に焦点を合わせて申請ができるらしい。
「アラタ! エントリーエントリー! ウチに賞品……もといカッコいいとこ見せてや!!」
ユキナの目が金になっていた時点でこうなる気はしていた。
断ってもユキナは梃子でも動かないだろう。
アラタは観念して答える。
「一回だけですよ。抽選から漏れたら他を見て周りましょう」
「漏れたらね」
ちょっとおもしろそうではあるが、アラタはせっかくだからもっと街中を見たかった。
なのでこの返答は、実質的な拒否であった。
なぜなら、挑戦者が山程いるだろうからだ。
ガイゼルの広場には、目で見えるだけでも200人以上のプレイヤーがいる。
カジュアルに挑める戦いであれば挑戦者の数は相当なものになるだろう。
エントリーをしたところでそう簡単に挑戦できるはずはないのだ。
アラタは網膜に表示されてるエントリーをポイント。
1分後に、網膜にはこう表示されていた。
『あなたが挑戦者に決定しました』
「げ……」
思わず声が出た。
「どしたん? もしかして当たった?」
「そのもしかしてですよ……」
どうかんがえたっておかしい。
そんな偶然があるものなのか。
挑戦者が少なかったということはなさそうだった。
周囲からも、抽選から漏れたという声がいくつも聞こえていたからだ。
どうにも納得がいかない。
「気張ってや!!」
「はいはい、当たったからにはほどほどにがんばりますよ」
周囲にも、アラタが挑戦者だということが知らされているのだろう。
アラタから舞台までの人混みが二つに割れ、道ができた。
モーセにでもなった気分だ。
アラタは好機の視線にさらされながら舞台への道を進む。
そこで、ある仮説が思いついた。
たぶんこれも、偶然ではないのかもしれない。
星を追うものは偶発的なイベントの発生率を上げる。
おそらくその効果が発動したのではないかと思う。
数十分の一の抽選に受かるよりも、そっちの方がずっとありそうだ。
また星を追うものが嫌いになりそうだ。
舞台の近くまで来て、アラタは跳躍した。
一気に舞台へと飛び乗る。
舞台に乗った瞬間に、網膜にステータスが表示された。
レベルが20に調整され、20の時点のスキル状態に変更された旨が書いてある。
「挑戦者入場です!! アラタ・トカシキ!! これは奇しくも忍者対決だあああ!!!!」
クラスバラすんかい、アラタは心の中で突っ込みたくなった。
挑戦者のアドバンテージは、直前で戦いを見せている連勝者と違って正体がわからないところだと思うのだが、そういった配慮は特にないらしい。
アラタは舞台の中央まで歩いた。
グレッグと呼ばれていた連勝者は、そんなアラタに何か言葉をかけていた。
が、周囲の歓声がでかすぎて何も聞こえない。
ARATA-RES:すいません、何を言ってるかわかんないです。
GREG-RES:同じクラスでこのニンジャマスターに挑むとはな!!!!
なんだかすごい自信のプレイヤーだな、とアラタは思う。
とはいえ正体不明の相手に六連勝もしているプレイヤーには違いない。
相当な凄腕なのだろう。
同じ忍者というのは興味深い要素だった。
スキルの割り振りをしている身として、同じクラスでもそうとは思えないような違いは多いにあり得る。
同型対決とは考えない方がいいのかもしれない。
ARATA-RES:ニンジャマスターって、そんなクラスがあるんですか?
GREG-RES:忍者を極めたものという意味だ! そんなこともわからないのか!
アラタはわざと笑って見せた。
ARATA-RES:じゃあ自称ニンジャマスターということですね。
GREG-RES:拙者を愚弄するつもりか!!
ARATA-RES:そんなつもりはないですよ、どうかお手柔らかにお願いします。
身振りを見るにそこまで強いプレイヤーという気もしないのだが、擬態という線もなくはない。
ARATA-RES:ああ、言い忘れましたが、僕が勝ってもニンジャマスターは名乗らないので安心してください。
ならば挑発はしておくに限る。
感情のぶれが戦闘においてプラスに働くことは滅多にない。
やり得ならやる、それがアラタの信条だ。
その直後に、周囲がドッと湧いた。
まるでアラタたちの念信が聞こえていたように。
それでアラタは察した。
これはあれだ、念信が周囲にも伝わるやつだ。
そういう仕様の場があるのは知っていたが、実際に体験するのは初めてだった。
周囲に伝わるのがわかっていれば何も言わなかったのに、これでは完全に悪役になってしまう。
その上負けたら大恥だ。別にやり得ではなかった。
「それでは準備はよろしいでしょうか!!? グレッグが七連勝を達成するのか、それとも同じ忍者がそれを阻止するのか!!」
そこで実況はたっぷりと三秒は間を取った。
「試合!! 開始です!!!!」




