154.祭りといえば
それからアラタがどうしたかと言えば、普通にプレイしていた。
他にどうしようもないのだから仕方ない。
ヴァンがどうなったのかは結局わからない。
ヴァン側からは連絡もないし、あれから会いに来るわけでもない。
老人かネメシスのどちらかが接触してくれば何かしらの話を聞けるのかもしれないが、双方ともアラタに顔を見せる様子はなかった。
とはいえ、それほど心配してはないなかった。
ヴァン・アッシュのことだ。無事でいるに決まっていた。
そうしてそのうち、予想だにしないところでいきなり顔を出すのだ。
予感というよりも、必ずそうなるという確信がアラタにはあった。
だからアラタは普通に2ndフェーズでやるべきことをやっていた。
レベルを上げ、装備を整え、行ける場所を増やす。
本当に普通の遊びだ。
何もかもが順調に進んでいた。
2ndフェーズの目玉である、ギルド同士が争う女王杯に関しては、予選を突破していた。
女王杯の予選はダンジョン攻略で、ギルドから代表メンバーを四人選んでの攻略という方式だった。
アラタ、ロン、ヤン、パララメイヤの四人で予選ダンジョンへと挑み、呆気なく突破してしまった。
本戦まではあと三日。
そんなアラタが今何をしているかと言えば、ガイゼルにいた。
なぜかと言えば、ユキナに呼ばれたからである。
ユキナは商売に勤しみ、未だにレベル40のキャップには達していなかった。
つまり、レベリングのお手伝いというわけだ。
アラタとしても優先してやることはなかった。
未だにユグドラからの警戒として二人以上で行動することになっているので、ちょうどいいといったところだった。
今のガイゼルはお祭り騒ぎだ。
スタート地点から三つ目の拠点は、それぞれ祭りが開催されているのだ。
なんの祭りかと言えば、女王杯の前哨祭である。
女王杯に参加できないプレイヤーも楽しめるように、各地で催しや特別なクエストが開催されているのだ。
そんなわけで、ガイゼルのメインストリートはとんでもない人だった。
NPCがほぼおらず、プレイヤーしか目に入らない。
プレイヤーが多いとNPCが自動的に減るような仕組みがあるのかもしれないが、こんな光景は初めてだった。
アラタはメインストリートを抜け、スラムじみた区域へと入る。
かつてユキナの工房だった場所で待ち合わせしているのだ。
スラム通りの様子も前とは違っていた。
屋台が多いし、人通りもずいぶんと多い。
そんな中をアラタは進んだ。
しかし、どうしてわざわざガイゼルを選んだのかアラタには疑問だった。
単にレベリングならアヴァロニア周辺でいいはずなのだ。
もしかしたら特別なクエストをやりたいのかもしれない。
アラタがユキナの工房だった建物の近くまで来ると、アラタに手を振っている人物が見えた。
ユキナだ。兎耳がピンと立ってやたらと目立つ。
ただ、それよりも目を引くのはその服装だった。
着物だ。それもシャンバラで着ていたのとそっくりな。
ユキナは製作で防具も作れる。染色やらなにやらでカスタマイズしてそっくりなものを作ったのかもしれないが、なぜわざわざそんな服を着ているのか。
「お待たせしました」
「二分遅刻やで!」
「人が多かったんですよ。なんでわざわざガイゼルにしたんですか?」
「そりゃあ、お祭りって言ったらデートやろ?」
「は?」
自覚はしていなかったが、アラタの口はあんぐりと空いていたと思う。
「は? じゃないよ。さ、遊びにいこ?」
「いやだって、レベリングをするのでは……」
「ウチはそんなこと一言も言ってないよ?」
アラタはユキナからの念信を思い出してみる。
確かに付き合ってとは言われたが、レベリングをするとは一言も言っていなかった気がする。
「でもユキナのレベルは――――」
「いいやんいいやん、ウチここしばらくずっと缶詰で気晴らししたいんよ。それともアラタはなんか他にやりたいことでもあるん?」
ない。ないからこそ、いきなりデートと言われて困っている。
ユキナの姿に目をやる。とんでもない美人だ。
そして、着物を着られるとどうしたってシャンバラでの出来事が思い出される。
「それは別にないですけど」
「何もないのにウチとデートしてくれないん?」
そう言ってユキナはわざとらしく悲しそうな顔をする。
「わかりました、わかりましたよ。付き合います」
「やった!!」
ユキナはパッと顔を輝かせる。
こういったやりとりもどこまで計算ずくなのかわからない。
たぶんアラタは、直でデートしようなどと言われたら素直には受けないと思う。
それが嫌でなくとも。
ユキナはそれを計算に入れて、わざとこういったやり方をしているのかもしれない。
「仕方なく」付き合う形ならばアラタは必ず受けてくれると考えて。
「じゃあまずご飯から食べよ! それからそれから――――」
前哨際には本当に色々なものがあった。
祭りの常連となっている食べ物以外にも、たこ焼きやら焼きそばやら、世界観に真っ向から中指を立てるような代物が当たり前に存在した。
ユキナはキョウにあるような食べ物を好んで食べた。
アラタはユキナにご馳走になった。
食べ物を女性に奢られるというのはなんだかカッコ悪い気もして、一応は言ってみたのだ。
「僕が出しましょうか?」
「え、そんなんウチが出すよ。ウチ、今いくら持ってると思う?」
ユキナは最初からずっと商人としてプレイしている。
そうなるとかなりの額を持っているのだろう。
アラタの全財産が84万といったところだ。これはクエスト報酬と、適当な素材をバザーに出して得た金額である。
本格的に商売していればこれよりもずっと持っていることだろう。
「3~4000万といったところですか?」
ユキナはアラタの答えに対し、チッチッチっと舌を鳴らして指を振っていた。
「3億」
「今なんて?」
「ウチの全財産は3億4372万です」
以上のようなやり取りで、アラタは遠慮なく奢られることにした。
一通り食べ歩きが終わったところだった。
ガイゼルの広場に、人だかりができていた。
「なんやろね? あれ?」
近づいて見ると、広場に即席の舞台が作られていて、そこで二人のプレイヤーが戦っていた。
舞台の横にある立て札にはこうある。
『強者求む!! ガンスリンガー大会開催中!!!!』




