148.頼もしき味方
「どうしますか?」
「え? アタシにふるの? アラタの好きにすればいいじゃん。せっかく会えたんでしょ?」
「どうすんだ? いきなりな話だし無理にとは言わんが」
「いえ、行きますよ。我々ももう一つくらいクエストをするか考えてたところですし」
アラタがそう答えると、ヴァンからパーティの勧誘が飛んできた。
メイリィとのパーティを一旦解散し、二人がヴァンからの勧誘を受ける。
「じゃあ行くか。こっからそう遠くないところにターゲットがいる」
ヴァンが焚き火の火を消して立ち上がった。
そうしてヴァンが先導するように歩き出す。
アラタとメイリィもそれに続いた。
移動中にマジックポーションだけは切っておく。雷神の使用回数に関してはどうしようもないが、MPを戻せば八重桜や手裏剣術は使用できる。
レアなクエストとは言っていたが、全快でないと手に負えないような相手はそうそう出てこないだろう。
歩きながらも、アラタは頭がふわふわしていた。
未だに現実の出来事とは思えない。
ヴァンを見つけて、答えを聞いて、それで自分はどうしたかったのだろう。
MEILI-RES:ねぇアラタ、色々考えてるみたいだけどさ、遊ぼうって言ってるんだし楽しんじゃえばいいと思うよ?
メイリィは単純でいいな、と思う反面、それは正しい答えであるようにも思えた。
「そうですね、そうしますか」
完全に、とは言わないが、メイリィの一言で吹っ切れた気がした。
「なんだ? 内緒話か?」
ヴァンが歩きながら振り向いて聞いた」
「ええ、二人で後ろから襲う算段をしていました」
「いつでも来ていいぞ。リベンジ的なアレは大歓迎だ」
冗談を冗談で返されたのか、それとも本気なのか。
どちらかと言えば本気な気がした。ヴァン・アッシュはそういう男だ。
かつてアラタはこの男にどうしても勝ちたかった。
今は、どうだろう。
力を試したい気持ちはある。落ち着いたら戦ってみたいとも思う。
だが時間がそうしたいのか、どうしても勝ちたいという気持ちは薄れている気もする。
「そろそろ着くぞ」
そこは森の中の不自然に開けた空間だった。
もしかしたら元々はボスがいた場所なのかもしれない。
その中央に巨大な岩のようなものが鎮座していた。
「アレがクエストの討伐対象?」
「たぶんな」
ヴァンが一歩踏み出すと違和感があった。
場がミラーに切り替わる感覚。
ボス戦が始まるにあたってミラーが生成されたのだろう。
アラタとメイリィが続いて開けた空間に入った。
二人とも、武器は既に抜刀している。
踏み込んだと同時に、いきなり大岩が爆散した。
飛んできた岩塊のひとつを、ヴァンが大剣で弾いていた。
「思ったより大物だな」
大岩の中から姿を現したのは、巨大な植物状の敵だった。
中央部は格子状の膜で覆われており、その中心には芽のようなものが生えている。
その巨体は動くのか、下部には足のような触手が蠢いていた。
それとは別に、外周には無数の触手があった。触手の先端は花の蕾のようになっているものから、トゲが生えているものまで様々で、複数のギミックがありそうな予感をさせた。
巨大な植物が、吠えた。
音になっていない音がが空気を揺るがす。
森深の大主
HP8400/8400
MEILI-RES:わー、レベル44だって。
メイリィの気の抜けた念信が飛んでくる。
アラタからは確認できないが、メイリィには何かしらの理由でレベルが見えているのだろう。
VAN-RES:ほう、ずいぶん高いな。少しは楽しめそうだ。
アラタが想像していたよりも、ずっとヤバそうな相手だった。
いきなりド級の絶叫マシンに乗せられたような気分だ。
普通の遊戯領域ならワクワクできたかもしれないが、今のアラタは死んだらアクセス権を失う身だ。
VAN-RES:どうした? ヒヨってるのか?
気配から伝わったのかも知れない。
ARATA-RES:せっかく会えた師匠がやられたらたまんないな、と思ってるだけです。
VAN-RES:相変わらず口は達者だな。腕の方も見せてみろ。
ヴァンが何の前触れもなしに飛び出した。
大剣を担ぎ、森深の大主へと一直線に突撃する。
敵はヴァンへと吸い寄せられるように触手を殺到させた。
VAN-RES:俺がタンク役をやる!! お前らは適当に削れ!!
信じがたい身のこなしだった。
速度をまるで緩めず、最小限の動きで触手を弾きながら敵の懐へと切り込んだ。
メイリィは既に敵の右側へと動いていた。
アラタは遅れを取り戻すために、縮地を切って左側へと向かった。
動きながらも、アラタはヴァンの動きを見ていた。
十年前より成長しているからこそ、ヴァンの動きがよく見えた。
無駄がなく、それでいて余裕を残している。
ギリギリの回避に見えても、不測の事態に備えた猶予をしっかりと残しているのだ。
それを高速で繰り返している。
見惚れるような動きだった。アラタがこうありたいと思うような動きだった。
アラタは敵の左へとまわり、流星刀で触手を撃ち落としながら動いた。
触手の全体量からすると、アラタの側にある触手は数が少なかった。
ヴァンが引き付けてくれているおかげだろう。
当のヴァンはと言えば、笑いながら触手を避けて本体へとザックザック大剣を叩き込んでいた。
VAN-RES:ガハハハハハ!! DPSでもトップ取っちまうぞーーーー!!
森深の大主
HP7413/8400
アラタは、昔の感覚を思い出していた。
エバーファンタジーでいきなり無茶苦茶なクエストに連れて行かれた頃の記憶。
自殺志願者しか行かないような場所に連れていかれ、毎度死闘を繰り広げていた。
そんな死地にあって背中に感じる頼もしさ。
ヴァン・アッシュに背中を預けて、そこから危険が及んだことは一度もなかった。
過去の記憶から、急に不安がかき消えた。
アラタは軽やかな動きで触手をいなして本体に切り込んでいく。
敵の攻撃がヴァンに集中していて、アラタの側への攻撃が緩い。
感じる圧倒的な安心感。
再びヴァン・アッシュと共闘しているという感覚。
アラタは戦いながらも、いつの間にかウキウキし始めていた。
突然、森深の大主の巨体が痙攣のように震えた。
先端に蕾がある触手がアラタの視界に入る。
そして、その蕾は不吉な赤に染まっていた。
一旦下がる、アラタはそう考えた。
何が来るかわからない、そして今は余裕がある、安全を取るに越したことはない。
アラタが僅かな動きを見せた瞬間にヴァンから念信が飛んできた。
VAN-RES:そこは下がるな。




