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146/202

146.予想外のリユニオン


 とてもではないが良い状況とは言えない。

 アラタは走りながら密接戦闘を決断する。

 リソースがないのが何よりも痛かった。

 今日一日で四つもサブクエストを消化している。

 そのため雷神の使用回数は残っておらず、MPもほぼないに等しかった。

 メイリィが突撃しなければアイテムでMP回復するという手段もあったが、もう後の祭りだ。


 これでは八重桜の威力も期待できないどころか、練気を乗せての攻撃もそう多くはできない。

 ならばなぜ密接戦闘を選ぶのかと言えば、敵とメイリィの距離を開かせるためだ。

 強引に攻めれば相手は退く。そこでメイリィが体勢を立て直して二人でタコ殴りにできればベストだ。


 流星刀はあえて出さない。それはメイリィの安全を確保してからだ。

 幹に隠れた相手の姿が確認できない以上、開幕は小回りのきく徒手で行く。


 メイリィはまだやられていない。

 アラタがダッシュで割り込みに入る。

 

 敵を無理に見ようとはしない。

 大木を横切り、敵がいる推定位置を目標に歩幅を合わせる。

 十分な加速から、全体重に練気まで乗せた肘だ。


 回避は難しくないが、受けをさせない一撃である。

 避ければその分だけメイリィとの距離が開く。その時間があれば立て直せる。

 そういった狙いだった。


 敵影が視界に入る。

 アラタはまともに相手も見ずに肘を打ち込んだ。

 ズムリと踏み込んだ足が地面にめり込む感触。


 敵はアラタの肘打ちを避けようとはしなかった。

 

 アラタの肘打ちは、敵の左手で受け止められていた。

 受けを許さないはずの一撃を、さも当然のように受けたのだ。

 信じられないことに、直撃している感触がなかった。

 

 あり得ない。

 局所的にはトラックが激突するくらいの衝撃があるはずだ。

 それなのに、ごく普通に受け止められてしまった。

 あまりにあっさりと受けられて、目の前で起きていることが理解できない。

 スキルなのか技術なのかわからないが、戦闘中にそれ以上考えている余裕はない。


 アラタは防御に使われた左手を巻き込むように動いた。

 右回転に巻き込んでそのまま投げに移行する構えだ。


 敵の左手を引き、そのまま巻き込みに入ろうとした瞬間だった。

 敵はアラタの動きに逆らわずに動き、突然加速するようにその身体を回転させた。

 いつの間にかアラタの腕を取りながら。


 視界が高速回転する。

 背中に衝撃。

 なんとか受け身だけは取った。地面が土と落ち葉で柔らかかったことに助けられた。


 だがそれで終わりだ。

 武器での攻撃、踏みつけ、何が来るにせよ防御が間に合わない。

 考えられる救いはメイリィの助けだが、メイリィの動きを確認する余裕がない。


 死んだらアクセス権を失う。

 老人の言葉が頭を過った。

 覚悟を決めるだけの時間はなかった。


 一秒が経ち、二秒が経ち、果たして攻撃は来なかった。

 

 武器での攻撃も、足技も、スキルでの攻撃も来なかった。


 覚悟を決めきれなかったアラタに向けられたのは、言葉だった。


「八極拳からの柔道技か? 悪くはないが雑だな」


 アラタは声の元に目を向ける。

 

 それは、白髪交じりの中年だった。

 眼帯で左目を隠し、顎にはだらしない無精髭。


 1stフェーズの最後で見た顔だった。

 エバーファンタジーで見ていた顔だった。


 アラタは飛び起きた。


「師匠!!??」


 ヴァン・アッシュはニヤリと笑った。

 その顔には子供じみたサプライズが決まった満足感に満ちていた。


「ようアラタ、久しぶりだな」


 メイリィが警戒を緩めず、アラタの横に立った。


「このオジサマ、知り合いなの?」


 あまりの混乱に、メイリィの問に答えるまで時間がかかった。


「なんというか、これが僕の探していたプレイヤーですよ」


 いきなりの事態に考えが追いつかない。

 夢か、それともまたエデン人の仕掛けたろくでもない何かか。

 それにしては現実感がありすぎるが、十年以上も会えなかったヴァンがいきなり現れる非現実性を振り払えるほどではなかった。


「本物……ですよね」

「偽物にでも会ったのか?」

「いえ、でもどうして急に……」


 喜びよりも戸惑いのほうが遥かに強かった。

 アルカディアに舞い戻った理由が、突然達成されてしまったのだから。


 ヴァンはアラタの狼狽ぶりを少し楽しんでいるような節があった。

 それがわかってなお、アラタは狼狽せざるを得ない。

 なぜいきなりヴァンが自分の元に姿を現したのか。

 単なる偶然では絶対にない。ヴァン側から接触してきたのだから。

 その理由はなにか。アラタは突如閃いた。


「もしかして、ユグドラから依頼されたんですか?」

「あん? なんだそりゃ?」

「違うんですか? てっきりユグドラから刺客として雇われたのかと」

「そんな使いっぱみたいなことやるはずねーだろ」


 エバーファンタジーではちょくちょくやっていたのによく言うと思う。


「じゃあどうして……」

「普通に会いに来たんだよ」

「会いに来たって、僕に?」

「当たり前だろ。そっちのかわいいお嬢ちゃんのことは知らんしな」


 ヴァンが一瞬メイリィに視線を向けてから、再びアラタに視線を戻した。


「じゃあなんで!?」

「いやだって、1stフェーズの前夜祭で会っただろ? メンテ開始直前に」


 あれはやはりヴァンだったのだ。


「したら探して会いに来るだろ、普通に」


 古い知人を別領域で見つけたから会いに来る。

 言われて見れば当たり前過ぎるほど当たり前な理由である。


「いや、でも、それは、えーと、そうなんですか?」

「そうなんだよ」


 落ち着いたヴァンと、混乱するアラタが対照的だった。


「ちょっとアラタ、テンパりすぎでしょ」


 隣りにいたメイリィが笑い出した。

 

 感動の再会をするとは思わなかったが、こんなにわけのわからない感じになるとも思っていなかった。


「まあ聞きたいことも色々あるだろうな」


 ヴァンの右手に大剣が現れた。

 アラタは瞬間的に身構える。

 ヴァンはそのまま後ろを向いて大剣を振るった。


 大剣の軌道上にあった落ち葉が吹き飛んだ。

 ヴァンは土がむき出しになった部分に何かを投げた。

 すると焚き火が現れた。野営用のアイテムだったのだろう。


 意識してみると、日がもう沈みかけていた。

 森の中はかなり暗く、焚き火の炎が闇を押しのけていた。


 ヴァンが焚き火の向こう側に座った。


 ヴァンはアラタとメイリィに座るように促しながら言う。


「まあ、積もる話は飯でも食いながら話そうや」


誤字報告ありがとうございます。助かります。

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