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13/202

13.ボスバトル

 ガンラ山道を一言で表すならば、歩きやすい山道、となる。

 緩やかな登りに、溢れる木々。山道を登っているというよりも傾斜のある森の中を散策しているような気分に近い。


 道なき道なのに、どこか歩きやすい作りになっているのはいかにも最初のダンジョンという気がした。

 これで何もなければピクニックにでも来たような気分でいられるのだが、何もないはずはなかった。

 なにせ討伐隊が必要なほど強力な魔物がいる、という設定なのだから。


 アラタは油断なく足を進める。

 なるべく早足で、音を立てることなく。


 山道は静寂に包まれているわけではなく、ところどころから生き物の声が聞こえていた。

 よくある鳥の鳴き声、たまに聞こえてくる草の揺れる音、そして、明らかに敵と思われる自然動物ではない鳴き声。


 アラタは出来るだけ敵らしき気配を避けて進んだ。

 一人である以上、無駄に戦って消耗するのは得策ではない。


 しばらく進むと、目の前の草むら付近に、哨戒しているコボルトの姿が見えた。

 単独に見え、こちらにはまだ気付いていない。

 そこでは、アラタは迷わずいった。


 早足から全力疾走で一気に突っ込む。

 草の揺れる音が響き、コボルトがアラタに気付くが、構える間もなくその首には刃が突き立っていた。

 クリティカル判定だが即死ではない。追撃で膝を入れながら忍者刀を引き抜き、コボルトの姿がかき消える。


 うまい具合にやれた。

 経験値の増加を確認すると、レベル3までの経験値に1割ほど近づいていた。

 ダンジョンの外にいたコボルトよりも遥かに良い経験値だ。

 外にいたコボルトの場合、レベル2に上がった途端ほとんど経験値がもらえなくなっていたからだ。


 経験値にもレベル差補正のようなものがあるのか。あるいはダンジョンの中が特別なのか、なんにせよこれは結構美味しく感じる。

 これだと道中の敵と積極的に戦ってもいい気もするが、事故ると面倒だというジレンマもある。

 手持ちは回復薬一つで回復のできるスキルは何もなし。そしてボス戦は絶対に存在する。


 まあ今みたいな確実にやれそうな時だけやることにするのが落とし所かもしれない。

 それからアラタは、同じような奇襲を三回成功させた。

 シャドウオブアサシンで鍛えた暗殺スキルは伊達ではない。


 敵の種類はまだ少ないようであった。

 プラントエッグ、ミニマムスライム、他にも小物がいくらかいたが、このダンジョンでの支配者はコボルトであるように見えた。最初のダンジョンといえばこんなものなのかもしれない。


 結構な距離を歩いたところで、少し変わった場所に出た。

 一見、行き止まりに見える。

 行き止まりには広い正方形状に木が存在せず草が薄い空間があり、その周囲には明確に通らせない意思を感じさせる木々が露骨に配置されていた。


 イベントだろう、おそらく。

 アラタがその空間に踏み込むと、正方形状フィールドの中央で魔法陣のようなものが輝き、そこから突如コボルトが出現した。 


 でかい。

 そんな巨体が何もない空間からいきなり現れた。


 アラタの行動は早かった。

 いつものコボルトよりも二回りは大きく見えるがそんなものは関係ない。

 最速の軌道でコボルトに突っ込み、


 予感。


 アラタは無理やり軌道を捻じ曲げるように横に飛び、手まで使って制動をかけ、大コボルトに向き合った。

 アラタが通るはずであった軌道上には、二本の弓矢が刺さっていた。


 大コボルトの背後には、二匹のコボルトがいた。

 こいつらも、いつものコボルトと少し違う。

 今まで見たコボルトは、短剣、手斧、メイスといった近接武器を持っていたが、このコボルト達は弓を持っていた。


 明らかなイベント戦だ。

 一対三。初めての対多数。

 アラタの口元に笑みが浮かぶ。

 少し、ワクワクする。


 正直な話、無抵抗のコボルト相手に戦っていても、面白みがなかった。

 難敵を倒した時こそ、ゲームは面白いと感じるものだ。


 意味を理解しないのを承知で、アラタは言う。


「どうか、倒しがいのある敵であってください」


 大コボルトが吠えた。

 それに合わせ、一体のコボルトが弓を引いた。

 弓にしてはヌルい速度で矢が迫り、アラタはそれを軽々と躱した。


 矢を放ったコボルトは、ノロノロとした動きで次の矢をつがえようとし、アラタは再度、大コボルトへと全力で接近を始めた。


 アラタが矢よりも鋭い速度で迫る。軌道はもう一体の弓コボルトと大コボルトが直線上に並ぶように動く。大コボルトを盾にして撃たせないためだ。

 大コボルトが巨大な棍棒を振り上げ、それに合わせてアラタは更に速度を上げる。

 間合いに入った瞬間に足を先行させて体を沈め、スライディングのように滑って大コボルトの股下を潜る。


 潜りざまに大コボルトの股間を斬りつけるのも忘れない。

 背後に咆哮を感じながら、アラタは本命に一直線に進む。


 大コボルトの背後にいたコボルトは驚き、見当違いの方向に矢を放ち、そこからはもう何もさせなかった。

 弓コボルトの胸を忍者刀が貫く。

 消えゆくコボルトの瞳を見て、背後にいるもう一体の弓コボルトの動きを確認する。

 放たれた矢を確認し、アラタは身を翻して次なる獲物に迫った。


 弓コボルトは次なる矢をつがえようとしているが、どう見たって間に合いはしない。

 アラタの忍者刀が首へと滑り込み、その頭部が胴体と別れを告げる。


 ラスト。

 大コボルトが迫っていた。

 巨大な棍棒が振り下ろされ、まだ消えていなかった弓コボルトの胴体が無慈悲に潰れる。


 アラタはもうそこにはいない。

 大コボルトの横を抜けながら、横っ腹に刃を滑らせた。


 大コボルトが振り向きながら森の木々が震えるような咆哮を響かせる。


 アラタは今更ながら、大コボルトをポイントしてそのステータスを確認した。


 グレートコボルト

 HP64/100


 動きを見る限り、名前ほどグレートではなさそうだった。


「では、タイマンといきましょうか」


 あとはもうめちゃくちゃだ。


 動きがトロすぎる。

 巨大棍棒での攻撃は、迫力こそあるが緩慢と言わざるを得ない。

 これなら、棍棒を捨てて爪をめちゃくちゃに振り回されたほうがまだ厄介だ。


 しかし、このコボルトはそうはしない。

 最後まで、それを義務付けられているかのように律儀に巨大棍棒で応戦しようとした。

 本当に義務付けられているのだろうが。


 アラタは、木人で練習するかのように攻撃を決めていった。

 どれもがクリティカル、最後の一撃に至っては、同撃崩までしっかりと乗せることができた。


 グレートコボルトのHPが0になり、その巨体が倒れる。


 アラタの網膜上に、システムからレベルアップが告知され、HPの増加とスキルポイントが1手に入ったことが知らされる。


 これでレベルは3になった。というか経験値が多い。レベルは3になり、次のレベル4までもあと数体敵を倒せば、というところまで来ている。

 さすがボスというところか。これだけ経験値が美味しいとダンジョンの周回がどういった仕様になっているか知りたいところだ。


 しかしあっけなさ過ぎた。

 複数人前提のボスにしてはひどく弱いように感じた。

 まあ最初のボスならばこんなものなのかもしれない。


 アラタは今手に入れたスキルポイントを同撃崩に振り、現在の上限の3まで上げる。

 同撃崩大好き。

 なんだかんだ格闘もするので次は練気だな、と思ったところで、違和感に気付いた。


 グレートコボルトの死体が消えていない。

 今までの敵は、HPが0になるとその体が消え、アラタに吸い込まれるような演出が入っていた。


 それなのに、このグレートコボルトの死体は消えずに経験値とマニーだけが入った。

 ボス限定の特殊演出なのかもしれないが、アラタのゲーマーとしての勘がそうではないと告げていた。


 音が、近づいていた。


 アラタの右手側の森林から、木がなぎ倒されるような音が響き、その音はどんどん大きさを増していた。

 無視できない音に、アラタは一旦距離を取り、正方形の空間の入り口まで下がった。

 いつでも逃げられる体制だ。


 いきなり、森林の一部が炸裂した。


 正方形の空間に穴が開く。

 そこからは、巨大な液状の何かが飛び込んできた。


 その姿は透明な蛇のようにも見えるし、竜巻のようにも見えるだろう。

 その巨大な何かは、正方形の空間に入ると荒ぶるのをやめ、形を成した。


 成したと言っても液体だ。


 大きさはちょっとした小屋ほどもある、巨大なスライムのような生き物。

 二つの核はちょうど目のようにも見え、全体としてはグロテスクな巨大プリンに見える。


 ゼラチナスウォーグ

 HP124/124


 アラタの瞳にその名が写る。

 こいつがこのダンジョンのボスに違いない。


 ゼラチナスウォーグは、見た目に合わない動きで滑るように動き、グレートコボルトへと覆いかぶさった。


 捕食しているのだ。グレートコボルトを。

 哀れな獲物は消化される様をアラタに披露して、その姿を消した。


 ゼラチナスウォーグのふたつの核が、アラタを見据えているように感じた。

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