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122/202

122.シャンバラでの姿は


 NEスクウェアには巨大な時計塔がある。

 100メートル近い高さで、時計の文字盤は地上から50メートルほどの位置にある。

 四面全てに文字盤があって、街中のどこからでも時間が確認できる。

 アラタは詳しく知らないが、これはかつて地球のどこかにあったものを模したものらしい。

 

 この時代では時計など普通必要ない。

 なぜならグローバルステータスから時計を呼び出せば時刻などいつでも確認できるからだ。

 ではなぜこんな巨大な時計塔があるのかというと、そこらへんは風情だ。

 この時計塔はNEスクウェアを代表するランドマークの一つになっていて、待ち合わせ場所としてよく利用される。


 アラタもここを待ち合わせ場所にした。

 NEスクウェアなんてほとんど初めて来たが、アラタとて定番の待ち合わせ場所だというくらいは知っている。

 時刻は11時58分。待ち合わせ時間にギリギリ間に合った。


 時計塔のお膝元はそれなりに賑わっている。

 遊技領域では見ないような様々な格好をした様々な人間が、待ち合わせや観光で時計塔を訪れているようだった。

 

 ここで問題が発覚した。

 パララメイヤがわからないのだ。

 待ち合わせ場所に到着したら、相手のところに行って「ごめん待った?」とでも言うのが普通だろう。

 ところがアラタはパララメイヤの容姿を知らないのだ。

 男なのか、オークなのか、それ以外の何かなのか。


 パララメイヤのことだから来てないということはないはずだ。

 しかし、こうも人が多いとそれっぽい人だけでもかなりいるし、適当に声をかけたらまず人違いになりそうだ。


 アラタは仕方なくパララメイヤ相手に念信を飛ばす。

 

ARATA-RES:メイヤ、着いてますか?


 ちょっとの間をおいて返事が来た。


PARALLAMENYA-RES:着いてます、時間ぴったりですね!

ARATA-RES:僕は時計塔の東側にいるんですけど、どこにいます?

PARALLAMENYA-RES:西側です。今向かうので待っててくださいね。


 言ってから待ち合わせ場所を時計塔のどちら側かまで指定しておけばよかったと気付いた。

 つくづく段取りが悪い。


 アラタはパララメイヤが気づきやすいように時計塔から少し離れて待った。

 アラタの姿はアルカディアでの姿と全く同じだ。違うのは格好くらいで、これでパララメイヤが気付かないということはないだろう。

 

 緊張感を飲み込んでアラタは周囲を伺う。

 するとアラタの方へ一直線に向かってくる者がひとり。


 身長はちょっと低めだ。

 目測だが150cmあるかないか。

 目を引くのは特徴的な髪の毛だ。

 腰までの長さでボリュームがあって、しかも羊の毛を思わせるようなふわふわとした癖がついている。


 パララメイヤだろう。おそらく。

 帽子を深く被っていて、なぜかサングラスまでしていた。

 顔が隠れていて見えないが、女の子なはずだ。

 それもかなり若そうに見える。


 距離が近くなって公開プロフィールが読めるようになる。

 アラタの網膜にパララメイヤ・スースルーの文字が表示された。

 やはりパララメイヤで間違いない。

 未成年なので社会信用度が表示されていない。性別は女性で、年齢は14歳。


 そこでパララメイヤがアラタの元にたどり着いた。


「おまたせしました!」


 元気のいい声。アルカディアでのパララメイヤの声と全く同じものだった。

 どうやら声はいじっていないらしい。

 見た目に関しては帽子とサングラスで断定しきれないが、アルカディアでの姿とかなり似ているように思える。

 メイリィとは逆で、パララメイヤの場合はアルカディアでの姿をそのまま幼くしたように見えた。

 

「いえ、僕の方があとから来ましたから」


 それからアラタは思い出したように、


「今日は誘いを受けてくれてありがとうございます」


 それを聞いてパララメイヤは笑った。


「なにかおかしなことを言いました?」

「すいません、違います。その、なんていうか、かしこまってるアラタさんが面白くて」

「だって、一応は初対面ですし」

「アルカディアで何度も顔を合わせてるじゃないですか。そんなの気にしないでくださいよ」


 そういえばパララメイヤは遊技領域の初心者で、アルカディアが初めてのマルチゲーだと言っていた。

 アラタのようなものからすると、遊技領域で会うのと生活領域であうのはまるで違うのだが、パララメイヤからすればあまり変わらないのかもしれない。


「気にしないようにがんばります」

「はい、がんばってください。それで、どこに行きますか?」

「実はノープランです」

「お昼は食べました?」

「まだです」

「じゃあ適当に落ち着ける場所に入りましょうよ」


 パララメイヤが歩き出し、アラタもそれに続く。


「昨日はメイリィさんとどうでした?」

「やりあいましたよ、ツウシンカラテで」


 パララメイヤ振り向く。露骨に興味を示したようだ。


「それで!? どうなったんです!?」

「歩きましょうよ、とりあえず」

「あ、すいません。それでどうなったんです?」

「勝ちましたよ、まあまあの熱戦でした」

「それって追想リプレイもらえます?」

「別にいいですけど、メイリィの許可もないと」

「じゃあメイリィさんからももらいます! 両視点から見たいんで!」


 パララメイヤはだいぶテンションが高いように見えた。

 あるいはアラタのようにいくらか緊張していて、その裏返しなのかもしれない。


「ここにしますか」


 パララメイヤの足がある店の前で止まった。

 看板には「ポラリス」と書いてある。

 情報を呼び出してみるとオーソドックスなカフェらしい。


 パララメイヤから店に入った。

 もうウェイトを入れてくれていたようで、アラタたちは店に入るとすぐ席に案内された。

 

 個室席だった。

 アンティークっぽい机に椅子、どことなく木の香りがする部屋だ。

 パララメイヤが手前の席に座り、アラタは奥の席を勧められる。

 14歳の女の子に主導権を握られるのに情けなさを感じつつも、アラタは席についた。

 パララメイヤとはもう慣れ知った仲なはずだ。パララメイヤはこういった店に慣れているようだし、変に慣れないことをして恥をかくより、任せきったほうがいい。

 アラタは自分の情けなさにそう理由をつけた。


「知ってる店ですか?」

「ええ、何度か来たことあります」


 そう言いながら、パララメイヤが帽子とサングラスを外した。


 その姿を見て、アラタは衝撃に硬直した。

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