117.デート
メイリィ・メイリィ・ウォープルーフが死亡してから182秒が経過していた。
アラタ・トカシキももはや逃げ惑うことしかできない。
それも時間の問題で、終わりの時は刻一刻と近づいていた。
サターン6の密林地帯に逃げんこんだはいいが、これはもう自殺行為に等しい。
戦況は最悪。
アラタは第6師団と第7師団に捕捉され、苦し紛れに密林地帯に逃げたのだ。
なんの話かと言えば、Infinity warの話である。
発端はデートの約束からだ。
メイリィが本当にアラタの個人領域まで来たのだ。
約束は約束、アラタは1日デートに付き合うことにした。
メイリィにどこに行きたいかときいて返ってきたのは意外な言葉だった。
「おうちデートでも、いいんじゃない?」
そういうわけで2人で遊技領域をプレイしているわけだ。
SILENTをプレイし、怒号絶唱をプレイし、今はInfinity warをプレイしているわけである。
ゲーム開始から2時間25分。サターン6の二人でのマルチプレイとしてはかなりいいスコアだ。
ただメイリィは既にやられて、アラタもいつやられるかわからない、そういった状況まで追い込まれていた。
二人でのプレイは初めてやったし、できることならばもっとスコアを伸ばしたい。
アラタはそう思うのだが、せっかく人が来て1人でプレイし続けるのもどうかという気はする。
アラタは身を低く沈めて密林を駆ける。
葉の音が目立つがそれはもう仕方ない。
事態は既に詰みであり、あとはどれだけ生き残れるかだからだ。
MEILI-RES:ねぇー、もう早く死んじゃってよー。
メイリィからの念信。
意識が一瞬そっちに持っていかれる。
「あ」
Infinity warには、実に様々な武器がある。
サターン6に登場する敵性異星人は単分子カッターから反物質弾までありとあらゆる兵器を使用してくる。
が、アラタが受けたのは原住民からの弓矢だった。
当たり前なほど当たり前な話ではあるが、頭部にクリーンヒットしたのであれば、石矢じりの弓矢だろうが反物質弾だろうが大きな違いはない。
アラタの頭部を横から貫くように矢が貫通していた。
視界が真っ暗に染まり、真っ暗な視界にGAME OVERという赤い文字が浮かんでいる。
強制的にアラタの個人領域に戻された。
狭い六畳間で、今はほとんど物を消しているので生活感もまるでない。
ただ、そこにはアラタ以外の人物もいた。
メイリィ・メイリィ・ウォープルーフだ。
実際のメイリィは、アルカディアのメイリィとはかなり違っていた。
女なのは違わないが、少女では決してない。
見た目だけで言えば遊技領域なんて全くやらなそうだ。
年齢はアラタより少し上に見えて、どこはとは言わないが色々な部分が大きい。
アルカディアのアバターと共通なのは薄っすらと赤い髪くらいなものだ。
戻ってきたアラタを、胡座をかいたメイリィが迎えてケタケタと笑う。
その顔はいかにもメイリィだ。見た目にそぐわない子供っぽい笑い方。
もしかしたら、アルカディアのアバターはメイリィの子どもの頃をベースにしたものなのかもしれない。
「生存時間2時間41分ですってよ? 一日生存者さん」
「メイリィがめちゃくちゃしなかったらもっと続けられましたよ」
「でも、ただ生きるよりあっちの方が楽しかったでしょ?」
それは否定できない。
アラタとメイリィは、なんと第4師団を壊滅させたのだ。
これはかなりの偉業と言っていい。
その代わりに集中攻撃を受ける羽目になり結局は負けてしまったのだが、2時間41分の生存にしてはスコアは相当なものになっていた。
「まあ、楽しかったですよ、確かに」
「でしょでしょ」
メイリィは満足そうに笑っている。
しかし、なんだろうこの状況は。
アラタは改めて思う。
アラタの個人領域に全く似つかわしくない女性が来訪している。
そんな女性とアラタはゲームをプレイして遊んでいる。
しかもそれなりに楽しく。
アラタは自分の領域であるのに急に居心地が悪いような気がしてきた。
そんなアラタにお構いなしにメイリィはライブラリを漁り、そこからコマンド。
メイリィのコマンドで空中に画像が投影される。
メイリィがそれを手で開いて拡大した。
「次はこれで遊びましょうよ」
空中に投影されているウィンドウには、大きな湖とその中心に佇む金色のお堂が表示されていた。
そして、その上には仰々しい文字でツウシンカラテ7と書いてある。
「あー、それは1人プレイか対戦しかできないんですよ」
ツウシンカラテ7は基本的に武術指南領域だ。
その内容は『遊戯』領域と言っていいのか疑問に思うほどの激しさと難易度で、その鬼畜っぷりと無機質さから最新のレビューの点数は☆1.4をマークしている。
武術指南部分はソロでしかプレイできず、複数人で領域に入った場合は強制的に対戦となる仕様だ。
今までのゲームは協力プレイをするモードがあったが、ツウシンカラテ7にはそれがない。
「だからよ」
メイリィがそこでニヤリと笑った。
メイリィの雰囲気が変わったような気がする。
「リベンジ、させて?」
それでようやく得心がいった。
最初からデートなど、おかしいと思っていたのだ。
それなのにメイリィがデートに執心していた理由がわかった。
アルカディアはビルドの都合上でアラタに常に有利がつく。
平等な状態で再戦するには、別ゲーでやるしかない。
だからなのだろう。
「こんな回りくどいことせずとも、リベンジなら受けましたよ?」
「どういうこと?」
「どういうことって、それが目的なんでしょう?」
「え、普通にアラタと遊んでみたかっただけだけど」
素の顔でそんなことを言われると、どうしたって照れくさくなってしまう。
メイリィはアラタのそんな様子を見抜いたのか、意地悪な笑みを浮かべる。
「かわいー」
「動揺させようって作戦ですか?」
「そんなに真面目じゃないって。で? 受けてくれるの? リベンジ」
アラタは売られた喧嘩は買う主義だ。
「受けますよもちろん」
一つの深呼吸で気持ちを一気に切り替えた。
「ただ、本当にこのゲームでいいんですか?」
「なんで?」
「僕はツウシンカラテ十段です。言っておきますが、オソロシク強いですよ」
メイリィはアルカディアの時と変わらぬ笑顔を浮かべて言う。
「素敵」




