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11.偶然は三度続かない


 攻略に必要なメンバーを揃える方法は、こういったゲームではだいたい三パターンに分かれる。

 

 一つは固定パーティ。

 信頼できる仲間、友人を集めてパーティを確立してしまう方法だ。

 この方法の長所は、時間を重ねればお互いの能力や性格を知ることができ、効率よく、しかも精神的に気負いなく遊べるというところだ。

 短所は良くも悪くも人付き合いが重要な要素になる。


 性格に問題があるメンバーがいればパーティ全体の機能が危ぶまれるし、実力の劣るメンバーがいる場合の対処も難しい。

 例えば、ものすごく性格は良いけど壊滅的に下手、なんて人がいた場合はとても難しいことになる。


 攻略を優先したいプレイヤーにとっては迷惑だし、和気あいあいとマルチプレイを楽しみたいプレイヤーにとってはそう悪い人でもないだろう。

 こういった目標へのモチベーションの差も問題になりやすいところだ。


 同じような実力、志をもったメンバーが揃えば最も良い方法ではあるが、それなりに無視できない短所も存在する。


 二つ目はゲーム内のコミュニティでメンバーを集める方法。

 クラン、ギルド、ゲームによって呼び名は違うだろうが、そのコミュニティ内でメンバーを揃えるやり方だ。

 こちらは緩い固定のようなものだし、上手いプレイヤーが複数のパーティを手伝ったりと何かと融通がきく。


 やはり人間同士の関わりが問題になり得るが、それを言ったらマルチプレイヤーのゲームだろうが他の領域でだろうが人間同士の問題は起こるものだ。

 それが嫌ならば延々と固有遊戯領域ソロゲーにでも引き籠もっていればいいのだ。

 どこかの誰かのように。


 そして最後は野良でパーティを組む方法だ。

 特定のコンテンツを攻略するために、一期一会の即興でパーティーを組むやり方である。

 この利点はとにかく手っ取り早いこと。


 アルカディアのダンジョンは最大四人までのパーティで参加できるコンテンツになっており、人数が多いほど敵のHPも増加する。が、その増え幅は四人でも三倍未満という、人が増えれば増えるほど楽になるオーソドックスなものだ。


 パーティにおいてのクラス編成は自由だが、基本的には近接遠隔のアタッカーが三人、ヒーラーが一人という編成が無難だ。

 例えばアラタであれば、近接枠が空いていて、残りの三人が埋まっているパーティに参加を申請すれば、即フルパーティでコンテンツに参加できるわけだ。


 この方法の悪い点は、だいたいそれ以外の全てである。

 まずプレイヤーの実力がまちまちであること。

 どんな奴と組んでも俺がいればクリアできるといった上手いプレイヤーもいるにはいるが、そんなのは物質人よりも珍しい。

 全体で見れば、平均よりも劣った実力を持ったプレイヤーの方が多いだろう。

 

 どんなプレイヤーと組むかわからないのも問題がある。

 初対面の相手と良好なコミュニケーションを取る能力が求められる。それに、野良パーティに参加するということは、友人や同じコミュニティの仲間と組めない何かがある場合が多い。

 そういう奴はだいたいどこかおかしかったりする。


 他にも、友人同士三人が既に組んでいて、残りの一人を補充する目的で募集をかけるといったパターンもある。

 この場合は質が平均より低いというのは少ないが、一人だけアウェイでなんとも言えない気分で攻略することになる。


 そういった短所を踏まえても、アラタは野良パーティでガンラ山道に挑むことにした。

 クリア率さえ上がればそれでいい。

 コミュニティやらフレンドやらはそのうちどうにかなるだろうという考えだ。


 サービス開始から一日が経ち、腕のあるプレイヤーは既にガンラ山道をクリアしているだろう。

 腕のいい仲間を求めるならば、早いうちに先に進んでから探すのが効率的だ。


 アラタは酒場へと足を踏み入れる。

 冒険者ギルドに併設された酒場で、ここでパーティの募集が行われているはずだった。


 昼間であるせいもあって、バーカウンターには誰もいない。

 テーブル席にはまばらに人がいて、NPCとプレイヤーの比率が七対三といったところだ。

 わざわざ名前を見なくとも、NPCは食事をしているのに対し、プレイヤーは酒しか飲んでいないのですぐに判別できる。


 アラタはテーブルの間を縫い、バーカウンターへと近づいた。

 カウンターには、濃い口紅をした、妙齢の女性が立っている。これが店主だろう。


「すみません、パーティーの募集を探しているのですが」

「いらっしゃい、どんなパーティを探しているんだい?」

「ガンラ山道を抜けるためのパーティを」

「ちょっと待ってね」


 と店主が言って、紙のリストを渡される。

 網膜上ではなく、紙がディスプレイ代わりに募集パーティのリストを表示している。

 アラタはシステムに命じて、既に他三人が揃っている、近接枠の募集に絞り込む。


 紙の上には、三つのパーティが表示された。


 アラタは適当に一番上のパーティを指し、


「このイーライさんのパーティでお願いできますか?」

「わかったわ、ちょっと待ってね」


 店主が耳に貝殻のようなものをあてる。

 この領域の世界観を理解しきっていないが、たぶん通信器具のようなものの演出なのだろう。


 店主がアラタに向き直り、残念そうな顔をした。


「ごめんなさいね、たった今このパーティは埋まってしまったみたいなの」

「ではこのティーグラさんのパーティで」


 また店主が同じように貝殻を耳にあてた。

 今度は少し長い。


「ごめんなさい、このパーティーは募集を取り下げたみたい」


 運が悪い。

 まああと一つパーティが残っている。


「じゃあこの最後の一つで」


 店主は貝殻に耳をあて、


「本当にごめんなさい、このパーティも組む友人が見つかったから募集を取り下げるって」

「いやいやいや」


 いくらなんでもそれはおかしい。

 サービス開始直後で最初のダンジョンの募集が人気なのはわかるが、それでも全部がこの一瞬で消えるなど納得がいかない。


 酒場の中を見回す。

 プレイヤーの数はそう多くない。

 その中に、三人でテーブルについている面子を見つけた。


 そのうちの一人は、イーライという名前であった。


 一つ目のパーティの募集主なはずだ。

 偶然ではあるまい。パーティの募集をかければ自由行動をしつつ連絡を受けられるのであろうが、この酒場で待つのはごくごく自然だ。

 

 店主は、イーライのパーティは埋まったと言っていた。

 しかし、テーブルで飲んでいるイーライは、どう見てもこれからガンラ山道の攻略に出かけるようには見えない。


 アラタは嫌な予感がした。


 一つのパーティが気まぐれで募集を取り下げたならわかる。

 一つのパーティが埋まってしまったならわかる。


 しかし、三つほぼ同時というのはあり得ない。

 それにアラタの近くにパーティに参加しようとしていた人間がいなかったのもおかしい。

 パーティが埋まったのなら応募した人間がいるはずで、そうであるならアラタの隣にそいつがいただろう。

 他の場所でも募集に参加できるのかもしれないが、最初の街でそういった場所はそこまで多くないはずだ。


 疑問の答えを知る方法は簡単だ。


 聞けばいい。

 

 目の前に、パーティ募集をしていたイーライがいるのだから。


 アラタはイーライのいるテーブルへと足を進めた。

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