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102.荒野の決闘


 ポータルを抜けた先は、果てのない空間だった。

 無限に広がる荒野。ひと目見た感覚ではそのように見えた。


 が、ただの荒野でないことは明白だった。

 よく見ると、地面のところどころに黒い穴のようなものがある。

 アラタは穴らきしところに近づいて触れてみると、それは穴ではなかった。

 

 地面があるのだ。

 見た目上は穴が空いているように見えるが、ちゃんとした地面がある。

 よく見ると、空にもところどころ同じような穴が空いていた。

 そこかしこで外観のデータが抜けているような特殊な空間。


 しかし、見た限りの異常はそれだけだった。

 あとはひたすらに荒野という他ない。

 まさかここからの脱出が試練だったりするのだろうか。

 

 それだとかなり面倒だ。

 なにせ出口らしきものはどこにも見当たらない。

 それどころかアラタが入ってきたはずの入口すらなくなっていた。


 さまよい続けてゴールにたどり着くのを目的とした試練だった場合、かなりまずい気はする。

 食料関係はインベントリにほとんどない。

 それに時間がかかりすぎるとタイムリミットが来てしまう。

 老人の反応から間に合わないほど時間がかかるものとは思えないが、それでも可能性としては否定しきれない。


 とにかく動かなくては、アラタがそう考えた時に、それは現れた。

 

 距離にして30メートルほどだろうか。

 アラタが見ていた先の空間が揺らいでいるように見えた。

 

 音。

 音がしていた。

 今まで無音であったのに、今は何かが弾けるような音が耳に届いている。


 揺らいでいた空間に、何かが現れようとしていた。

 これはアルカディア内で何者かが転移してくるのと同じ反応だ。

 

 アラタは臨戦態勢に移った。

 忍者刀を抜刀し、左手で逆手に構える。

 右手で雷神の印を結んでおくかは考えたが、やめておくことにした。

 敵であった場合に最速で不意をつける可能性はあるが、敵でなかった場合のリスクが大きすぎる。

 

 一瞬、まばゆい光が奔った。

 そして、その閃光と共にそれは現れていた。


 揺らいでいた空間に、巨大な生き物らしき影が現れていた。


 見た目は大型の虎にように見えた。

 白い身体に青みがかった縞模様がある。

 尻尾は黒いオーラのようなものに包まれていて、瞳は右が紫、左が青のオッドアイになっていた。

 口から覗く牙は剣呑で、一際大きい二本の牙は通常の虎とは比較にならないほどの大きさだった。


 遖肴エ・逋ス陌

 HP???/???


 名前が文字化けしていて見えない。

 だが、アラタはそれが一目で試練の対象であることがわかった。

 感じる威圧感から前座ということもないはずだ。


「助かりますね」


 戦え、というなら難しいことはない。

 脱出ゲームでもやらされたらどうしようかと思っていたところだ。


 虎が、吠えた。

 巨大な咆哮を浴びながら、アラタは突っ込んだ。


 虎は動かない。

 アラタは瞬く間に距離をつめ、あと一秒とかからず虎へとたどり着くという時に、それに気づいた。

 地面に電気のような何かがはしっているように見えたのだ。


 アラタはヒヤリと背筋に冷たいものが這うような感覚を味わった。

 もしこれがルール無用の殺し合いだった場合、アラタは必殺の罠にハマっている可能性すらある。


 まだ痛みは感じていない。となればこの電気のようなものは何かの予兆か。

 よく見ると、地面の穴が空いているような部分には電気がはしっていないように見えた。


 アラタは無理をして軌道を変え、ダメ元で穴部分へと駆け込んだ。

 アラタが移動を終える。確かな地面の感触。

 その瞬間に、視界を全て埋め尽くすような、光の柱が立ち上った。


 アラタの髪の毛が、比喩ではなく逆立っていた。

 電撃での攻撃。雷神の比ではない。くらえば確実にHPを全てもっていかれていたのが見るだけでわかる。

 この攻撃の前には防御力など意味をなさないだろう。


 それでも、アラタは笑みを見せていた。

 回避可能な攻撃であったからだ。

 試練だのなんだのと言えど、所詮はゲームの作られた敵でしかないのだ。


 理不尽はあろうと、必ず勝てるようには作られている。

 この攻撃だって、きちんと安置が用意されていた。

 

 人間同士の戦いではそうはいかない。

 人間同士の殺し合いは、どうしようもない理不尽を押し付けた方が勝つ。

 それは途方もない威力の攻撃であったり、奇跡的な技巧の技であったり、良識を疑うような卑怯であったりする。

 いずれであろうと、勝者の力で勝利を作り出すものだ。


 この戦いは違う。

 最初から勝てるように創られているのだから。

 用意されたものにたどり着けるかだけの戦いだ。

 もし負けることがあるとすれば、それは敵が優れていたわけではない。

 負けた側が力足りなかっただけの話だ。


 勝てるように創られているなら勝つ。

 アラタはそうしてここまで来た。


 光の柱が消失した瞬間、飛びかかってくる虎の姿が見えた。

 アラタはそれに合わせて縮地を切った。

 虎の真下をくぐり抜けながら、その腹部に刃をはしらせた。


 虎が着地と同時に反転してさらにアラタへと飛びかかる。

 恐ろしい大きさの爪がアラタを引き裂こうとするが、アラタはそれに合わせて横へと軸をずらし、刃で切りつけながらその横を抜けた。


 感触が、おかしかった。

 硬いのだ。あまりにも。

 それはデータ上の比喩ではなく、金属の塊に対して切りつけたような感触だった。


 遖肴エ・逋ス陌

 HP???/???


 HPは変わらず表示されていない。

 効いたのか、効いていないのか。

 

 アラタは似たような交差を何度も繰り返した。

 敵の攻撃は基本直線で、それに加えて爪の可動分だけ横軸への射程があるだけだ。

 人間の手業を相手にするより遥かに御しやすく、早いだけで対応が難しいものではなかった。


 問題は攻撃が通っているか全くわからないところだった。

 戦闘ログ上には、何も表示されていない。

 つまりログ上では、アラタは誰とも戦っていないことになる。

 判断しようがないのだ。


 攻撃に対して虎が怯んでいる様子もない。

 ただひたすら、大型の肉食獣が獲物に襲いかかり続けるように動いているだけだ。

 そうして何度かの交差を繰り返していると、虎が突如動きを変えた。


 背後に大きく跳んで咆哮。

 同時に電気のような軌跡が地面へとはしる。


 再度アラタは穴のようになっている場所に移動した。


 そこで、ようやくアラタは気付いた。


 地面にある、穴のような箇所が戦闘開始時よりも増えていることに。

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