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10.情報収集


 アラタはアルパの街に戻っていた。

 

 まず目的を整理する。

 アラタの目的は、ひとまずふざけた戒めとやらを解くことだ。

 ログアウトできないこの状態を解除するには、力を見せる必要がある、とあの老人は言っていた。

 

 何もわからないが、わからないなりに力の証明とやらが何なのか、アラタなりに考えてみる。


 仮説いち。

 特定のボスを倒す。かなりありそうな線だとは思う。

 問題は、そのボスがなにか、である。

 メインの探索の最中に出てくるボスなのか。それともサイドクエストに出てくるボスなのか。


 複雑な条件のクエストだとしたら相当に面倒だが、悲しいことに一番可能性が高そうだとアラタは踏んでいる。星を追うものの恩恵である、特定のイベントの発生率を上げるという条件からしても、ここが大本命なのは間違いない。


 仮説に。

 一定のレベルに到達する。

 力といえば、レベルであり、レベルといえば力だ。

 あの老人は試練がどうのと言っていた。例えば試練はレベルに制限があるタイプのクエストで、そのクエストを受注できるようなレベルに達することが戒めを解く条件である。

 さすがにそれだとヌルすぎるとは思う。なさそうではあるが、絶対にないとも言い切れない。


 仮説さん。

 特定のエリアに到達する。

 このゲームの第一フェーズでやるべきことは、行ける場所を広げていくことである。

 どのスタート地点からも最終目的地は大陸の中央にある大都市アダディームとなる。

 ここに到達することが解除条件というのはどうだろう。

 第一フェーズのラストなのだから、相応の実力がなければ到達するのは不可能なはずだ。

 しかし、力と直接関係なさそうなところは気になる点だ。


 たぶん、このどれかに正解がある。

 ゲーマーとしてのアラタの勘がそう言っている。

 

 これらの条件を踏まえると、結局のところ普通にプレイしていくしかないということになる。

 探索を進めなければボスには到達できないし、いつまでもチマチマとコボルト狩りをしていてもレベルは上がるまい。

 行ける場所を増やしていって目的から遠ざかるということは絶対にあり得ない。


 そういうわけで、アラタは街の雑貨屋に来ていた。

 最初の街なせいか、それなりに大きい街なのに武具屋は存在しなかった。

 アルパの街にあるのはそれを兼ねた雑貨屋だけだ。


 アラタの現在の装備はこうである。


 武器:忍者刀

 胴 :冒険者の服

 足 :旅人の靴

 首 :なし

 指 :なし


 このゲームには頭装備や脚装備といった概念はなく、胴防具が全身鎧に近い扱いのようだ。

 足、首、指の三ヶ所はアクセサリー枠だ。


 まあいかにもな初期装備であり、見るからに弱い。

 攻撃や防御への補正値もないよりはマシ、といった程度だ。


 現在のアラタの所持金は1000マニーと少し。

 最初から持っていた所持金と、コボルト狩りで手に入れた僅かなマニーを足したものだ。

 これでできれば武器あたりを更新したいと考えたのだが、雑貨屋のおばちゃんはいきなりそれを裏切った。


「これがうちの商品だよ」


 おばちゃんが紙のリストをカウンターに出した。

 そこにはこの店で扱っている商品が載っていた。

 紙の癖に、指でスワイプすると商品のリストがスクロールできる。

 世界観を大事にしすぎても不便になるばかりなので、このくらいの塩梅がアラタの好みだ。


 リストによれば、この店で扱っている忍者用の武器は、アラタが使っているのと同じ忍者刀のみだった。

 足も同じで、胴だけ鎖帷子くさりかたびらという一応の上位互換が存在したが、1000マニーで冒険者の服より僅かに強い程度のものを買うかは迷うところだ。


 どちらかといえば、アラタは武器から更新する派である。

 攻撃力が高い方が、その後の稼ぎの効率も上がる場合が多いからだ。

 相手の攻撃など極端な話全部避けてしまえばいい。そう考えるとここで装備を更新する意味はなさそうだった。


 アラタはリストを眺め、ポーションだけ購入することにした。

 今のアラタであればこれ一本でHPがほぼ全快する。保険はあるにこしたことはない。


 それに、もう一つ狙いがあった。


「おばさん、この近くで一番近い街といったらどこですか?」

「街? そりゃあ当然フィーンドフォーンだよ」


 次の目的地の情報を聞くためだ。

 誰でも知っていそうな質問を聞くには、商品を購入したあとの商人が一番詳しく教えてくれるものだ。


「それって、どっちの方角に行けばいいんですか?」

「この街からずっと北上して、ガンラ山道を越えればそこがフィーンドフォーンだよ。ただ、今はやめときな」

「なぜです?」

「山道にね、厄介な魔物が住み着いてるんだ。もし行こうってんなら、絶対に一人で行くんじゃないよ。そうじゃなけりゃあ討伐隊を待ちな。しばらくすれば討伐隊が片付けてくれるだろうからね」


 しっかり必要な情報が聞けた。

 アラタは満足感を覚えて礼を言う。


「ありがとうございます。そうさせてもらいますよ」


 店を出てシステムにコマンドしてジャーナルを確認する。

 そこには、


 New ガンラ山道の攻略


 という表示が現れていた。


 ダンジョンの攻略だ。

 このゲームの探索フェーズの基本は、ダンジョンの攻略と新たな街、という工程を繰り返す。

 これが次の街へのクエストで間違いないだろう。


 おばちゃんはしばらくすれば討伐隊が来ると言っていたが、それは絶対に来ないと確信できる。

 たぶん、攻略が完了したあとに討伐隊が来た扱いになるのだろう。土台待つつもりなどないが。


 それに得られた情報はもう一つ、絶対に一人で行くなとおばちゃんが言っていた。

 ゲームの「絶対にするな」はなかなか難しい。

 やれを意味する場合と、本当にやるなを意味する場合の二通りがあるからだ。


 この場合はおそらく後者ではないかと思う。

 お友達を四人集めていっしょにダンジョンに挑みましょう、というわけだ。

 ソロでの攻略が難しいことを示唆しているのだろう。


 それなら一人でやってやらぁ! とは特にならない。

 アラタは別にそういうやり甲斐は求めてないし、とりあえず早いところログアウトして伸びたカップ麺が食べたい。

 他のプレイヤーと組んで戦う、という行為は本当に久々だが、効率よく進められるならばそれもいいだろう。


 そういうわけで、アラタは街の酒場までやってきた。


 ゲームで仲間を探すといえば、酒場に決まっていた。

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