結婚式の後旦那様は仕事だと言って、披露宴は一人で挨拶をしました。六日後帰ってきた最初の言葉は「出て行ってくれるか?」でした。
改定前のお話のリンクタグ修正しました。
「すまないが、出て行ってくれるか」
疑問形ではなく命令形で、先の言葉を結婚して六日目の夫に言われてしまいました。
この部屋から出ていけってこと?
付いてこいって言ったから離婚のことよね?
その新婚六日目の夫・・・と言っても、結婚式だけを済ませると、仕事の都合で・・・と言って行方をくらまし、披露宴は私一人で、挨拶回りをして、初夜も行われるはずもないので、夫の居ない家に勝手に上がり込むのも気が引けたので、実家に帰ろうとしているところを、夫の家の執事とメイド長に両脇を抱えられて、連れ帰られた夫の家にいた。
お客さん気分が抜けないまま、私はしてもいいこともわからないので、三食昼寝付きの退屈この上ない日々を送っていた。
友人に会おうと出かけようとすると、執事のカールとメイド長のミンティが仁王立ちになり、私を外に出すまいとするので、出かけることは諦めて「人を呼ぶのはかまわないのかしら?」と聞くと、頷かれたので、仕方なく友人達にこちらの家へ来てもらうことになった。
友人達の中で結婚第一号の私に興味津々で、友人達はやってきたけれど、結婚式以来旦那様にお会いしていないと言うと「まだ処女なのか?!」と聞かれ笑われた。
私だって処女でいたくていたるわけではないけれど、旦那様が帰ってこないのだから、どうしようもない。
最初の日や次の日までは、カールやミンティに旦那様のお帰りの予定を聞いてみたりしていたのだけれど、二人の返答は判で押したように「ご予定は伺っておりませんので解りません」だった。
そして、本当に戸惑っているようで、二人もどうすればいいのか、誰かに指示してほしいくらいだということが理解できた。
「私がしてもいいことを教えてくださる?」
「外出以外なら何でもしていただいて構いません」
「何故外出しては駄目なのかしら?旦那様はお好きになさっているのだから、私も好きにしたいわ。一日中何もすることもなく、お茶を飲んで、溜息を吐くだけの人生を送るには、私はまだ二〜三十年、いえ四〜五十年早いと思うのよ」
「勿論理解しております。旦那様がお帰りになるまで、どうかご辛抱の程をお願い致します」
真っ白な頭のカールに言われると、それ以上逆らえなくて、溜息とともに二人の言うことを聞くしか無かった。
図書室に案内してもらって、読める本を探したけれど、難しい本しかなくて、私が読めそうなのは、絵本くらいしか無かった。
「図書館に行きたいのだけれど・・・」
そう言ってみたけれど、やはり認められることはなく、なら、商人に恋物語の本を大量に持ってきてもらって。とお願いすると、商人は本当に大量の恋物語の本を持ってきてくれた。
読んだことのない本を次々に選び、これだけ購入したいと言った時は四十冊近くの本を積み上げていた。
カールとミンティは喜んで本を買ってくれ、その総額を聞いて、私の方がやっぱりいいです・・・と遠慮してしまうほどだった。
商人は私が選んだ本をすべて置いて、金貨をたっぷりと持ち帰ることになり、私に最高の笑顔を見せて帰っていった。
本のおかげで私の退屈な時間は潰せるようになった。
時間を忘れて読書に没頭していると、ミンティに肩を揺さぶられ「旦那様がお帰りになられました」と聞かされて、私は旦那様をお迎えに出た。
旦那様に付いて来いと言われたので、私とカール、ミンティが後に続いて行くと、応接室のような部屋に入って、扉が閉まったと思ったら、冒頭のセリフだった。
「この部屋からの退室を求められています?それとも離婚をお求めと言うことでしょうか?」
「その通り。離婚だよ」
「では、旦那様のご都合の離婚となります。私に支払われる慰謝料はいかほどになりますか?」
旦那様は、十六歳の私が慰謝料の話をするとは思っていなかったようで、目を瞬かせたが、コホンと態とらしい咳払いをしてから「それ相応のことはすると約束しよう」とそっぽを向いて答えた。
「申し訳ありませんが、それ相応では解りません。我が家が今回の結婚に掛けた費用と、わたくしを披露宴に一人で放置したこと、その後、今日まで放置したこと、その間、監禁されていたこと、私の経歴に傷がついたことなど合わせて、私は金貨千枚を要求いたします。それが支払われた段階で、離婚届にサインいたしましょう」
「金貨千枚だと!?」
「はい。離婚理由も旦那様お一人の都合ですし、私は泣く泣く、それに従うのですから、それくらいは当然でしょう」
旦那様がカールに何事かを言うと、カールは老体に鞭打って、走って出ていった。
「それで、どういたしましょう?金貨千枚、支払われるまで実家に帰りたいと思っています。監禁状態は解除して頂けるのでしょうか?」
「監禁などした覚えはないっ!!」
「ミンティ!!」
「はい、・・・旦那様がお帰りになるまで、何がどうなっているのかも解らなかったので、監禁状態でした」
「ご理解いただけましたか?結婚式すら嫌で途中で逃げ出すくらいなら、婚約時に解消してくださればよかったのです。旦那様側にどんな理由があったのか私には解りませんが、旦那様は人として、最低だと思います。金貨千枚払っていただけますか?実家へ帰ってもいいですか?」
「金貨千枚は・・・」
「金貨千枚より上げていただく相談なら乗らせていただきますが、下げる相談には一切乗れません。金貨千枚いただかないことには、離婚届にサインいたしませんので」
苦虫を噛み潰した顔の旦那様は、取り敢えず金貨千枚の話から離れたいようで「実家に帰るのは認める」と話をごまかした。
「では、この後の話し合いは父としてくださいませ」
私は実家へ、離婚することになる。と使いを出して、空の荷馬車を十台早急に用意して欲しいとミンティにお願いした。
「そんなに慌ててご準備をなさらなくても・・・」
「二度とここに入れるかどうかも解りません。わたくしの物はすべて持ち帰ります。それとも、わたくし、ここに居座ったほうがいいでしょうか?」
ミンティはどう答えればいいのか、判断がつかないようで、オロオロとしている。
「ミンティ、どうしていいかわからない時は、主人に言われたことを淡々とこなしなさい。今あなたが手配するのは空の荷馬車十台です」
「かしこまりました」
ミンティが出ていき、カールが「奥様、旦那様の言葉をそのまま受け取らないでくださいませ。どうか、短気は抑えて、旦那様と話し合ってくださいませ」
「短気など起こしておりませんよ。至って冷静です。話し合うことがありますか?結婚式もほったらかしにされ、『すまない』という謝罪から始まる会話なら理解できますが、『出ていけ』という完結した言葉をかけられて、何を話し合えばいいのでしょうか?わたくしを馬鹿にするのも程があります。とにかく今直ぐメイド達を集めてください。荷物を纏めなくてはなりません」
「奥様・・・」
「不愉快です。カルティアと呼んでください」
カールは老体に鞭打って旦那様のものとへ走る。
「旦那様、奥様にあのような・・・」
「どれだけ温厚な人間でも、結婚式のことだけでも、許せる気にはならんだろう?」
「ですが、まずは謝罪から始めるのが筋だと思いますが・・・」
「バルバラット侯爵もなんと言われるか・・・披露宴のときにも、それはもう凄い怒りようで・・・奥様がバルバラット侯爵を抑えてくださったから、何事もなく終わることができましたが、そうでなければ・・・」
旦那様は、椅子にドサリと大きな音を立てて腰を落とし、頭を抱えて苦悩されていた。
「旦那様、何があったか教えてくださらないと、私も正しい行動が取れません」
「そうだな」
「まず、船が三艘行方が解らなくなった。海賊が出現したとの情報がある。それに続いて荷馬車が、あらゆる場所で襲われている。逃げのびた者の話では、かなり大きな集団に襲われたそうだ」
「それは・・・」
「今、初夜だとか、結婚がどうとか話している暇はないんだ。ここも安全かどうか解らない。カルティアは実家に戻す方が安全であろう?」
「そうで、ございますね。でしたら、その事を素直に話すべきだったと思います」
「そうかもしれん・・・だが、もうその段階は過ぎただろう」
「今のこの状況で、奥様が実家まで無事に着けるとお考えなのですか?」
「まさか、カルティアまで狙われるというのか?!」
「なぜ、狙われないと考えられるのでしょうか?」
「あれを呼べ!!」
「全てをお話になるのが一番だと進言させていただきます」
カールに旦那様がお呼びですと言われて、旦那様の執務室だと思える場所に案内され、ソファーに腰を落ち着け、お茶を飲んだ。
「さっきは申し訳なかった」
私は片眉だけで不愉快を表し、返答はしない。
「実は、結婚式の日、船が三艘行方不明になっている。多分、海賊だと思われる。そして、我が家の荷馬車が彼方此方で襲われていて、人、荷、全て奪われている」
「それは・・・」
「証拠はないが、ダンティス団の旗を見た者がいるんだ」
わたくしはソファーの背もたれに、背を預け、人差し指で唇を軽く叩いた。
「それでしたら、わたくしの責任かもしれませんね」
「はぁ?」
旦那様の間抜けな顔を見て、溜飲が少しだけ下がった。
「便箋と封筒を」
カールに上等な、便箋を渡されると父に状況を書いて、私が出ることを認める。封筒に至急!!と親展を書いて、カールに渡す。
「直接お父様に渡してください。わたくしが、お父様の返答がどうであれ、わたくしは『動く』と伝えてください」
「解りました」
カールが執務室から出て手配をしに行くと、私は旦那様に「申し訳ありませんとわたくしが言うべきでしょう。今回のことは私の結婚に不満がある者の犯行だと思います。全て取り戻してまいりますので、ミラーレス様はごゆるりとなさっていてくださいませ。離婚書類を出していただけますか?」
「結婚して直ぐに離婚の準備などしていない」
「では、至急準備してください。サインいたします」
「はんっ!さっきまで離婚にサインはしないと言って居たのではないかっ!」
「状況が変わりましたので、離婚の準備を早急にお願いします」
「解った」
三十分ほど経って、ミンティが離婚届の用意ができましたと伝えに来る。
執務室へと行き、わたくしがサインすると、ミラーレス様もサインした。後は届け出ると離婚は成立する。
わたくしは離婚届を手に立ち上がり「短い間でしたがお世話になりました」
「何を言っているんだ?!」
「わたくしは離婚届を提出しなければなりませんし、用事もありますので、これにて失礼いたしますわ」
ミラーレス様は何が起こっているのかわからないという表情をしている。
私は少しミラーレス様に笑いかけて「ご安心ください。お望み通り、この後すぐ離婚届を出してまいります」と伝え、その場から退出した。
わたくしは当初の予定通りにわたくしの荷物を全て荷馬車に積み込んだ。勿論、この間買ってもらった新しい本も持って帰る。
わたくしはわたくし専用の馬車に乗り込んで短い生活の場を後にした。
ミンティは最後まで「考え直してください。行かないでください」と言ってくれていたけれど、全てはわたくしが原因で起こったことなので、責任はわたくしが取らなくてはならない。
実家へ帰る前に、役所へ離婚届を提出する。
あっさりと受理され、わたくしに離婚歴が一つ付いた。
役所を出て二十分程経つと馬車が停止を始める。
馬が単独で走ってくる音が聞こえ、わたくしの馬車がノックされる。
私は不機嫌丸出しの顔で、ドアを開き、馬車から降ろされ、馬へと乗せられ、わたくしの背後に男が馬にまたがり、わたくしの荷物は実家へと戻され、私一人が実家へとは帰れなかった。
「わたくしが馬に乗るのを嫌うのを知っていて、馬に乗せるダスティが嫌いですわ」
「俺に黙って結婚しようとするカルティアに腹が立って、仕方がない。俺はこの感情をどうしたらいいのかわからないね」
「まず、奪った荷と人を解放しなさい」
「了解!」
「お父様に追い回されるわよ」
「覚悟の上だ」
わたくしは溜息を一つ吐いて「愚かな男」と言うとダスティは声を上げて笑った。
ダスティと初めて会ったのは十三歳の夏休みのことだった。荷を大量に積んだ荷馬車に挟まれて、父が私専用の馬車を仕立ててくれたのが嬉しくて、専用馬車での初めての旅行を楽しんでいるときだった。
馬が嘶いて急停車して、荷物を狙った強盗だと直ぐに理解した。
私は馬車の内側から鍵をかけて、中が見えないようにして、床板をいつでもはずせるように準備していた。
私のメイドの悲鳴が聞こえ、私の馬車をノックして「開けないと、大変なことになるけどいいのかい?」と聞かれて、わたくしは全てを無視して馬車に閉じこもっていた。
そうするようにと教わっていたからだった。
メイドの悲鳴はどんどん大きくなり、私は諦めと共に内側の鍵を開け、馬車から降りた。
「何だ残念。まだお子様だよ」と笑われ「メイドを離して」というと「気が強いお嬢様だね」と下卑た笑いが彼方此方から聞こえた。
この盗賊は今、泣く子も黙ると言われているダンティス団だと直ぐにわかった。
「強盗をするのに、旗を上げてるっていうのは、自己顕示欲が強いせいなのかしら?」
下品ないろんな言葉が聞こえたけれど、私は一人の男をじっと見ていた。
「お嬢ちゃんはどうしてさっきからずっと俺を見ているんだ?」
「あなたが頭目でしょう?見れば解るわ」
「へぇ〜〜・・・」
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「バルバラット侯爵が娘、カルティアです」
「侯爵の娘か・・・」
「大物を引き当てましたね!!」
男達の喜ぶ声に、わたくしは「あら?ダンティス団は人身売買だけはしないと思っていましたが、わたくしの勘違いだったようですね。がっかりです」
「このアマっ!!」
近くに居た男に胸ぐらをつかまれ、持ち上げられる。
体が小さめのわたくしは簡単に男に持ち上げられてしまう。
わたくしはそれでも視線だけは頭目だと思う男から目を離さずに睨み続けた。
「気の強いお嬢さんだね。ちょっと気に入っちゃったよ」と頭目と思わしき男が言う。
「お嬢ちゃんの言う通り、俺がダンティス団の頭目、ダスティだ。以後よろしく」
「今後お付き合いすることはないと思いますが?!」
剣の鞘でわたくしの胸ぐらを掴んでいた男の手を離させ、わたくしの正面に立つ。
「荷物を全て奪え。人は要らない」
男達は手慣れたように馬車から人を降ろして、捕縛していき、手近にある木にくくりつけていく。
「カルティア嬢、俺に付き合ってくださいよ」
「私は忙しいから盗賊と付き合う暇はありません」
「まぁ、そう言うなよ。隠れ家に連れて行ってやるから」
私はダスティと名乗った男の馬の前に乗せられ、メイドや従者に「お嬢様!!お嬢様を連れて行かないで」等の言葉を聞きながら、目隠しをされ、私は隠れ家と言われる場所に連れて行かれた。
そこは大きめの山小屋の一つで、時間的に考えても、バール山の中腹にある山小屋の一つだろうと当たりをつけた。
「私を連れてきてどうするつもりなの?」
「ちょっとしたデートのお誘いだよ」
「デートとは両方の合意があってこそだと思っていたわ」
男達は私の馬車の荷をバラしていき、積み替えている。
ダスティは私の手を引いて、山小屋より高い場所へ歩いて案内する。
「どうだ?いい景色だろう?」
「ええ。ここがどこかわかったわ」
「凄いね」
「わたくしの別荘が見えているもの。狙いを付けていたのね」
「大当たり」
この世界にはまだ知られていない双眼鏡を手渡され、覗き込むと、わたくしの部屋の小物まで見通すことができた。
わたくしは忌々しい気持ちになりながら、ダスティは「護衛の数が少なすぎる。俺達じゃなければ、女は娼館に売られて、男は奴隷落ちになっている。カルティアはまぁ、暫く仲間内で楽しんだ後、やっぱり娼館落ちだ。自分を守りたければ、護衛は十五人つけるべきだったな」
「子供を襲うお馬鹿が居るとは思いもしなかったのよ」
「お前はもう、子供じゃ済まない歳になっていると気がつくべきだな。それと、自分の値打ちもな」
ダスティは私の腰を背後から抱き、双眼鏡で覗けといって、別の方角を指す。
わたくしの泊まっていた別荘が見える。
その三軒隣の別荘が襲われている最中だ。
「助けなければっ!!」
「そんな義理、あるのか?」
双眼鏡でも、人が斬られているのが解る。
「今は盗賊のやりたい放題だ。命が惜しければ、護衛でしっかり身を固めることだ。俺達はここから眺めて、的をお前に絞ったが、今襲っている奴らはリール団、人身売買から、人を殺して遊ぶことまでが好きな奴らだ。俺達だったことに感謝することだな」
「襲われるのに、感謝などしたりしないわ」
私は山小屋の中に閉じ込められ「そのうち助けが来るように手配してやる。二日ほどここでのんびりするといい」
「私があなた達に連れ去られたことで、もうまともな嫁ぎ先も見つからないと解って言っているのかしら?」
「当然解っているさ。カルティアの結婚相手は俺だと思っていればいい」
「お断りよ。私は盗賊になんかなったりしないわ」
「誰に嫁いでも俺のもとに来るしかないように手配してやる」
「どうして私を?!」
「今はまだ子供だが、後二年もすればいい女に育つだろう?だから予約だよ。傷物では誰も貰ってくれないだろう?」
望遠鏡に移る景色の中に動く人は誰も居なくなった。
外から鍵をかけて、開けられないようにされて、山小屋に閉じ込められた。
私が好む恋物語の新作が六冊置かれていて、時間つぶしの刺繍道具まで置かれている。ここでゆっくりしろということらしい。
窓は開かないように細工されているようで、どの窓も開けられない。
食べ物も、水もたっぷり用意されている。ただ外に出られないだけ。
私から奪った荷物から私の着替えも用意されていて、お風呂も魔石に触れるとお湯が出るようになっていた。
私は外に出ることを諦め、刺繍をして、飽きたら本を読んで、迎えが来るのを待っていた。
馬のいななきが聞こえ、窓の外に目をやると、父が騎士を引き連れてやってきた。
「お父様、来るのが遅いわ。退屈で死にそうだったわ」
私と父の気持ちの落差は想像がついたが、私はただ退屈だっただけだった。
「お父様、ご心配おかけして申し訳ありません。わたくしは何事もなく、ここに閉じ込められていただけなので、ご安心ください。それより。私達が居た別荘の周辺が強盗に襲われたのを知っておられますか?」
「何を言っているんだ?」
「ここから双眼鏡があれば見えるんですが、我が家の別荘以外、襲われて、殺されています。そちらの手配もお願いします」
「それを見ていたのか?!」
「いえ、わたくし達も襲われるところだったのをダンティス団の団長に気に入られてしまったようで、私達は助けられたようです。私を守るには護衛が足りないそうです。これからはしっかり周りを固めろと言われました」
「何もされていないのか?」
「当然です。そんなことになれば、生きては居ませんよ」
「そうか・・・良かった」
お父様に抱きしめられ、私もホッと息を吐く。
「ダンティス団に助けられていなければ、ひどい目にあっていたと思います。悔しいですけれど、わたくしはダンティス団に守られました」
「そんなことは認めんぞっ!!」
「では、別荘地へ行きましょう」
私達が過ごした別荘地は全て荒らされ、男と年のいった女は殺されていて、あらゆる物が盗まれていた。
「ね、お父様。私はダンティス団に助けられたのよ」
認めたくないお父様はおいておいて、騎士団長に別荘地に居た女性達の行方を探すように手配した。
それから、何度かこちらの気が緩んだ頃に私を攫いに来ては、騎士団に地団駄を踏ませ、父の怒りを盛大に買った。
父は私が独身なのが駄目なのだと言って、私を公爵家へと嫁に出すことを決め、結婚式当日、花婿が居ない披露宴を体験することになった。
「俺の女になる覚悟はできたか?」
「公爵家に全て返したのかしら?」
「当然だ。ダンティス団は護衛任務を得意とする傭兵団だからな」
「短期間で、よく転身できたものね。たとえ傭兵団だったとしても父が許すわけがないことは解っているでしょう?」
「勿論解っているさ」
「この後、どうするつもりなのかしら?」
「カルティアが十八歳になるまでは、今と同じことの繰り返しになるか?!」
「その後は奪う。被害者を出したくなければ、カルティアも他の男のところに行ったりするな。俺を試さないでくれ」
「わたくしは試したりしていませんわ。私は貴族です。父の言われるとおりにすることが生まれたときから決まっています。私を自宅に帰す以上は、また父の言いなりで、私の身はどこへ行くかは解りません」
「傷物として扱われると言っていたくせに、ちっとも傷物として扱われていないじゃないか!?」
「傷物ではありませんからね。私の強かさに皆感心していることでしょう」
「取り敢えず、離婚できたんだな?」
「大損害ですが」
「公爵の立場で金も払わず離婚なんてありえないだろう?」
「そうであって欲しいと思います。そうでないと大損害ですもの。わたくし、本当に傷物になってしまいましたわ」
「婚姻届を盗んであるから、離婚届の受理も取り消されるさ」
「もう、そこまで手をかけるのなら、さっさと連れていけば簡単でいいのではないですか?」
「まだ、俺に落ちてないカルティアじゃ駄目なんだよ」
「はぁ〜本当に面倒臭い人だわ」
「愛してると言ってくれ」
「・・・その時が来れば言いますわ」
ダスティは堂々と私を屋敷まで送り届け、父と、騎士団長と握手して、わたくしは実家へと帰り着いた。
後日、ミラーレス様から連絡があり、荷、人は全て戻ったこと、金貨千枚は用意できなかったが金貨五百枚用意したと言って、支払われた。
そして、婚姻届が受理されていなかったと言う理由で、離婚届は受理されず、わたくしの経歴は綺麗なままで、ミラーレスとの婚姻話は終わりを告げた。
父は私がダスティに捕まる度に、小さくなっていくように見えてしまう。
世代の交代時期が来ているのだろう。
騎士団長は、気合を入れているが、ダスティには勝てないと思っているようで、どれだけ護衛を付けても、一月に一度、わたくしは攫われている。
「お父様、わたくしは三女で居ても居なくてもいい娘ではないですか、いい加減諦めたほうがいいと思いますよ。今度私を嫁にやったら、相手の家は没落して、酷い目に遭うことは間違いないと思いますよ」
「解っておる!!だが可愛い娘を海賊上りの傭兵団なんぞにやるわけにはいかんだろう!!」
「そうは言いますが、今はもう既に伯爵位まで上り詰めていますよ。その辺の侯爵家よりよほど裕福ですよ。貧乏侯爵家へ嫁に行くくらいなら・・・」
「わしは聞きたくない!!そんな話聞きたくないからなっ!!」
ダスティと父の攻防はまだ続きそうだ。
騎士団長が諦めているのに、勝負になるのか頭を抱えたくなりますが、私が十八歳までには、後半年あります。
お兄様は今からダスティとの結婚準備を始めている。
二度目のウエディングドレスを発注中だ。
ダスティの好みが全面に押し出されているので、ウエディングドレス一着にどれほどの支払いをするつもりなのかと思ってしまう。
父にとってはそれがまた腹立たしくて仕方ないのだろう。
ダスティがどれだけ頑張っても、侯爵に昇爵することはありえない。
半年後、どうなっているのか楽しみでならない。
【改訂版!!】結婚式の後旦那様は仕事だと言って、披露宴は一人で挨拶をしました。六日後帰ってきた最初の言葉は「出て行ってくれるか?」でした。
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改訂版を書き上げました。
頭の中にある世界観を書き足したものです。
よろしかったらそちらも読んでいただけると嬉しいです。