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俺とデリヘル嬢〜はじめまして、宅配地獄です〜

作者: 夢咲恋歌

夏の暑さでヤラれるのは

思考回路と神経系全般、絶対そう。

俺は後悔した。


「マジで勘弁してくれ〜っ!!」


一時間前の俺、詫びろ。








春夏秋冬があるって、日本の魅力だと思う。


それに合わせてファッションも変わる。


どの季節も魅力的で、どの季節の服装も正直美味しい。


春の、ほんのり透けてる感じも。


夏の、薄着をしながら日焼け対策に日傘を持って歩きながら汗を滴らせ制汗剤の香りを纏っている感じも。


秋の、少し控えめな感じも。


冬の、ピッタリとした感じも。


控えめに言って、好き。


今は夏。


初夏。


それでも気温は三十度後半を叩き出す猛暑日。


「…………涼し気で良いよな…。」


ベランダから見える女たちは薄着だ。


水着と変わんねぇだろソレ、ほぼ下着だろソレ、と


言いたくなるような服装で歩いてる。


俺たち男がそんな格好で歩いてたら職質にかかる可能性が百万%はある。


確かに見るに耐えないだろう、華はない上にむさ苦しいから。


でもこれって、男女差別じゃね?


男の半裸なんて見たくもないが。


見せてくれるな!やめろ!と、叫びたくはなる。


時々家の前を水撒きしてる半裸の方々とか。


鍛え抜かれていない身体を晒すなと言いたい。


そういう俺はそこそこ良い身体をしてると思う。


モテたいが為に鍛えたから。


不純な動機こそ、活力になる。


「はぁ……彼女欲しい…。」


ただ、身体を鍛えたところで顔面偏差値は変わらないという苦汁だけは……、やべ、目から塩辛い汗が。


とにかく。


ベランダでタバコふかしてる俺には無縁の話だろうが。


今日は無性に人恋しい。


暑さも緩和させてくれるくらいの女神のような女性に癒やされたい。


「…………よし。」


そうと決まれば早速。


いつだったか、悪友に登録させられたデリヘルのサイトにアクセスし、今の気分に合うような子を物色。


「お。」


日焼けもしてない白い肌。


若々しく張りのある柔肌。


二重でくりくりとした大きな瞳。


セミロングの髪の毛先が、ゆるく巻かれてる。


「可愛い…………。」


一生縁のないような相手。


だったら……。


「…………。」


ポチリとボタンを押した。








インターフォンを鳴らして姿を見せた実物に、俺は内心歓喜した。


一人だったら小躍りくらいしてた。


過大広告なんかじゃなかった。


ありがとう、神様。


「こんにちは、三途の川から来ました、桃です。」


ニコリと微笑んで、挨拶される。


真っ赤なキャミソールに黒いショートパンツというスタイルが眩しい。


「よ、よろしく……。」


「中入れてもらって良いですか?」


「ど、どうぞ……!!」


「失礼しま〜す。」


数歩退がれば、扉がカチャリと音をたててしまり、


再びカチャリと音をたてるから、


彼女が後ろ手で鍵を締めたのがわかった。


ソレをまじまじと見てしまえばニコリと微笑んで。


「誰かが入ってきたら恥ずかしいから。」


と、宣った。


可愛い。


もう一度言うぞ?


クソ可愛い!!!!


なんなの!?マジ天使なんだけど!?


「あ……外、暑あったよね?お茶飲む?」


「いえ、大丈夫です。きっと、後でいっぱい飲むから。」


そう言いながらサンダルを脱ぐ為に前かがみになるから。


胸元が大きく開いて、中が見え…………っ。


「ちく……っ。」


ぶねぇ……!!


俺は何も言ってねぇし、見てねぇ!!!!


頭を振って雑念をぶっ飛ばす。


いや、これから見るんだろうけど……!!


なんか……、これは違う…っ!!だろ!?


「ねぇ、ねぇ。」


「!」


「どれが良いか、選んでよ。えっと……お兄さんの名前は、カズくんで良いのかな?」


「はい、カズくんで。」


ぜひとも、カズくんで。


むしろカズくん一択です。


「ふふふ、じゃあカズくん、選んで?」


「選ぶ?」


「そ。プレイ内容。」


「ほほう……。」


なるほど、なるほど。


彼女がカバンから取り出したA4サイズのラミネートされたプリントを見る。


「前もって色々と注文は聞いてるけど、気分が変わったっていうのはよくあるからね。」


「そうだね、よくあるね。」


彼女に返事をしながら、プリントを見つめる。


可愛らしくデザインされたソレをまじまじと見る。


「決まった?カズくん。」


「……えっと…桃ちゃん。」


「なぁに、カズくん。」


「ココに書かれてるプレイ内容は……桃ちゃんとできること……で、あってる?」


「うん、もちろん!」


「そっかぁ。」


「どうして?」


「いや……君からは想像できないくらいに過激な内容だったから……もう少し考えるよ。」


「良いけど……、時間には限りがあるからね?」


「うん、わかってる。でも、ちょっと待って。」


落ち着こう、まずは現状把握だ。


もしかしたら見間違えかもしれないんだから。


「…………すぅ……はぁ…………。」


もう一度ゴテゴテピンクでレタリングされたプリントを見る。


コース1.出血大サービス(泣いてイヤがってもやめてあげないよ♡)


コース2.一撃必殺(何も感じないように一発で終わらせてア・ゲ・ル♡)


コース3.おまかせ(桃ちゃんの気分で色々♡)


文字だけを見れば、ワクワクウキウキなものばかりだ。


だけど、なんだろう。


どうしてこのプリントに貼られてる画像が全て、





















包丁やハサミやノコギリなんだろう…………。






「ち、ちなみになんだけど…………。今日の桃ちゃんの気分は?」


「え〜と〜、今日の桃の気分はぁ……スプラッタかな♡」


「すぷらった。」


「うんっ。だから、重たかったんだけど……じゃじゃーん!チェーンソー持ってきたよ!服も血液が目立たない色にしたし!」


「チェンジ!!」


何!?血しぶきプレイとかスプラッタとかって何!?


俺ちゃんとデリヘル頼んだよね!?


「男を天国へ誘うんじゃなかったの!?ヌく手伝いしてくれるんじゃないの!?」


「え?カズくん、ちゃんと見た?うちの広告。」


「広告?」


携帯を取り出し、ホームページを開く。


「私達は、三途の川デリバリー。ちゃんと配達地獄(デリバリーヘル)、略してデリヘルって書いてあるでしょ?公的に認められた自殺幇助だよ。」


「嘘だろ!?」


こんなピンクな広告してるくせに!?


デリバリーヘルスじゃなくてデリバリーヘル!?


「ん〜まぁ、そういうエッチなサービスしてないわけじゃないんだけど……。」


「ほんと!?」


「うん!あ、でもそのあとはちゃんと死んでね?」


「え。」


「当然でしょ!?殺し(ソレ)が私達の仕事なんだから!お給料発生してるの!」


「ちなみにキャンセルって…………。」


「できるよ。」


「できるの!?それじゃあ────」


「ただし、キャンセル料に指一本差し出してね?小指で良いよ。」


「えっと…………?」


思わず小指を守るようにジリジリと距離をあける。


俺は今、一体何と話をしてるんだ?


「カズくん、知ってる?男女の恋愛ってね、いつだって未練がましいのって男の人なの。女の子って切り替え早いのよ?いつまでも好きだと思わないで欲しいよね。」


「う、うん…………?」


一体、なんの話を…………。


「男の恋は別名保存、女の恋は上書き保存。一番初めに言った人、天才だと思うよね。」


そう言いながら、彼女はナイフの刃先を指でなぞる。


その表情が蠱惑的で思わずゾクリと腰が震える。


やばい。


何がやばいって……なんか、やばい。


「カズくん、人には向き不向きがあって、趣味嗜好があるの。」


「そ、だね。」


「私達、法的に認められたプロにかかれば死者特典で特殊能力に目覚めるのよ。」


「……………………へ、へぇ…………。」


危ない、一瞬すごくそそられた。


「私達に殺されてくれれば、その人にあった能力が目覚めるのよ。」


「そ、そうか。」


「可愛い彼女ができるかもよ?例えば、私とか。」


顔をほんのり朱色に染めてチラリと見てくる。


後ろに手を組み、モジモジと膝を擦り合わせてる姿は大変そそられる。


身体の後ろから見え隠れしている刃さえなければ…………。


「ね、カズくん。」


キュルンと顔を近づけてくる。


「一回、愛されて(殺されて)みない?」


「おかしな副音声が聞こえた!!チェンジで!!」


ガラッと窓を開き、飛び出る。


良かった!


オンボロアパートの一階に住んでて!!


「あ、逃げちゃイヤ!」


声が追いかけてくる。


「なんで、こんなことに………!!」


「ねぇーてばぁ!!待ってよ!カズく…………、ダーリン!」


「だぁあ!やめろ!!いろんな誤解を招く!!」


茹だるような暑い夏。


邪な気持ちが悪かったのか。


それとも、悪友のススメが悪かったのか。


焼け付くようなアスファルトを裸足で駆ける俺。


笑顔で追いかけてくる彼女。


「マジで勘弁してくれ〜っ!!」


夏はまだ、始まったばかり。

読んでいただき、ありがとうございます

感(ー人ー)謝

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