三国志演義・赤壁大戦~三江の大殲滅~【孫呉の章・後編】
はじめに:この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各種
ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容で
きる方は是非演じてみていただければ幸いです。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな
い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒
ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の
キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、
注意してください。
三国志演義・赤壁大戦~三江の大殲滅~【孫呉の章・後編】
作者:霧夜シオン
所要時間:約60分
必要演者数:8人(8:0)
(7:1)
※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しました。
はじめに:この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各種
ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容で
きる方は是非演じてみていただければ幸いです。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな
い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒
ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の
キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、
注意してください。
●登場人物
周瑜・♂:字は公謹。
呉の前主、小覇王孫策と同年代の若き英傑。孫策の臨終の際に軍事を託
される。今回の戦いにあたって水軍大都督として全軍を指揮、劉備と同
盟を組んで曹操打倒にあたる。
非常な美青年で美周郎とあだ名される。
妻に当時絶世の美女、江東の二喬と謳われた小喬をもつ。
音楽にも堪能で当時の歌にも、「曲に誤りあり、周朗(周瑜)顧みる」
という歌詞があるほど。
魯粛・♂:字は子敬。
本格的に頭角を現したのは孫権の代から。周瑜に推挙され孫権に仕える
。演義では割と周瑜と諸葛亮の間でオロオロしているイメージがあるが
、正史では豪胆かつキレる頭脳を持つ。
カン沢・♂:字は徳潤。
呉の参謀官の一人。黄蓋と共謀し、曹操や自軍に潜り込んできた蔡仲
兄弟に巧みに近づき、欺く。
三国志の世界で割とターニングポイント的な役割を持った人物。
黄蓋・♂:字は公覆。
孫権の父親、孫堅の代から仕える最古参の将軍。
周瑜としめし合わせて苦肉の計を自ら引き受け、偽りの降伏を曹操に申
し入れる。
甘寧・♂:字は興覇。
もと劉表、黄祖に仕えていた武勇に優れる元・錦帆賊の頭目。カン沢
と協力し、自軍に間者としてもぐりこんできた蔡仲兄弟を欺く。
韓当・♂:字は義公。
黄蓋と同じく孫権の父親の代から呉に仕えている重鎮の一人。
孫権軍の主力として活躍する。
蒋幹・♂:字は子翼。
三国志演義では割と道化的な扱いを受けている。
わざと盗ませた偽りの軍事機密を持ち帰って曹操に蔡瑁を処刑させたり
ホウ統を連れ帰って連環の計を成功させる片棒を担いだりと目も当てら
れない。しかし、正史ではそのような記述はなく、ただ周瑜を引き抜く
よう曹操に命じられて単身赴いて面会するも、周瑜の忠誠心の高さを知
り、何も申し出ることなく去ったとある。
蔡仲・♂:三国志演義における架空の人物。蔡瑁の甥として登場、蔡和と共に孫権
軍に偽って降伏するも周瑜にはあらかじめ見抜かれていた為、都合の良
いように利用された挙句、最後は曹操軍の本陣の背後に迫ったあたりで
甘寧に斬り殺されている。
蔡和・♂:三国志演義における架空の人物。蔡仲と同じく蔡瑁の甥として登場、
共に孫権軍に偽りの降伏をするも周瑜にいいように利用され、最後は戦
の神々に供える生贄として周瑜に処刑されている。
ホウ統・♂:字は士元。
諸葛亮と並び称される賢人で、道号は鳳雛。故郷の荊州滅亡後は
呉に移り住んでいた。周瑜に協力を求められて快諾すると、自ら提案
した「連環の計」の成就の為、単身曹操に近づき信用させることに成
功する。
諸葛亮・♂:字は孔明。
臥龍と謳われる賢人。劉備の軍師として曹操に対抗するべく孫権と
同盟、孫権と曹操を戦わせるに至る。
後に中国史上屈指の名宰相として名を残す事になる。
孫権軍部将・♂♀不問:今回はわりと登場が多い。
ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:曹操は蔡瑁の甥である蔡仲、蔡和を用いて埋伏の毒の計を仕掛け、対する
周瑜はこれを逆手に取ろうと知略の限りを尽くす。
いずれ劣らぬ希代の智将達は、見えぬ火花を散らし合っていた。
そして周瑜はさらなる一手を相談すべく、とある人物を招く。
孫権軍部将:申し上げます、大都督。鳳雛先生が訪ねて参られました。
周瑜:うむ、これへ丁重に通せ。
ナレ:案内されてきたその男は、鼻はひしゃげて黒疱瘡の痕の目立つ、人品の卑し
げな風貌であったが、その眼光は静かに事象を見通す輝きを秘めていた。
すなわち、臥龍・諸葛亮孔明と並んで鳳雛と謳われるホウ統、字は士元
である。
ホウ統:お呼び出しに応じてまかり越しました。
ホウ統でござる。
周瑜:ようこそ参られた、ホウ統殿。まずはお掛けあれ。
・・・最近はこの近くの山にお住まいとか。
ホウ統:いかにも。
荊州が曹操に蹂躙された際この地に逃れ、山中の庵にて日々を過ごし
ています。
して、本日の用件は曹操軍との戦いについてですかな?
周瑜:そのとおりです。
どうか、我が呉に力をお貸しいただけまいか?
客将として粗略には致しませぬ。
ホウ統:曹操には故郷を踏みにじられました。喜んで協力いたしましょう。
周瑜:おお! 百万の味方と感謝いたします! 実は曹操軍から蔡仲、蔡和の兄弟
が偽って降伏してきたのは、すでにご存じですな?
ホウ統:うむ。しかしそれよりも先日、黄蓋殿を軍律違反の罪で処罰なさったと
聞き及んでいますが、もしやあれも苦肉の計では?
周瑜:さすがはホウ統殿、まさにご推察の通りです。
蔡仲兄弟を逆用し、こちらからも偽りの降伏者を出すことで、曹操に目に
ものを見せようというわけです。その仕込みはほぼ終わっているのですが、
いかんせん、決定的な決め手に欠けているのが現状です。
先生ならばこの場合、いかなる策を用いられますか?
ホウ統:そうですな・・・やはり火計しかありますまい。
周瑜:なるほど・・・先生もそうお考えでしたか。
しかし、一艘や二艘の敵船を焼いたところで効果は無きに等しい。
曹操軍の船を一か所に集めた状態でなければ・・・。
ホウ統:ふむ・・・それならば、連環の計を用いるがよろしいでしょう。
周瑜:連環の計! それは、どのような?
ホウ統:曹操軍の船を全て一か所に集めた状態で、鎖をもって船同士を繋ぐように
持って行くのです。さすれば火攻めを受けた時に容易に逃げられず、まと
めて焼き払う事が可能でしょう。
周瑜:ふうむ・・・しかし、曹操がその手に乗るでしょうか? 敵も知謀に長けて
いますからな・・・。
ホウ統:普段ならば難しいかもしれませぬ。・・・が、今ならば可能でしょう。
周瑜:? それは、何故ですか?
ホウ統:噂によれば、いま曹操軍内では水上に慣れない北国の兵士達が船酔いを
起こして満足に働けず、また疫病も流行り始めているとか。
そこへ私がいつわって味方し、先の策を進言すれば・・・。
周瑜:!! 先生みずからが動いてくださいますか! ならば事は成ったも同然で
す! しかし、ただ訪ねるのでは怪しまれはせぬでしょうか・・・?
孫権軍部将:お話の最中、失礼いたします。
大都督のご学友の蒋幹が再び訪ねて参りましたが、いかがなされます
か?
周瑜:なに、蒋幹がまた来たと?
ホウ統:ほお・・・・。
周瑜殿、絶好の機会が向こうからやってきましたな。この蒋幹を再び使っ
ては?
周瑜:うむ、渡りに船とはまさにこの事だ! あのような去り方をして、再び我が
軍の内部を探りに来るとは・・・笑止な!
先生、では先生の庵の近くに蒋幹を幽閉し、わざと配下に見逃させますの
で・・・。
ホウ統:うむ、後の事は私にお任せあれ。
ではこれにて・・・。
周瑜:よし、蒋幹をこれへ通せ。
孫権軍部将:ははっ。
【三拍】
大都督、蒋幹殿をお連れしました。
蒋幹:やあ周都督、先日は―――
周瑜:【↑の語尾に被せて】
何しに来たか、蒋幹ッ! 親友面をしてこの周瑜を騙そうとするつもりか!
?
蒋幹:え? 騙そうと・・・? ははは、何を馬鹿な事を・・・そんな悪辣な事を
するものか。いや、それどころではないのだ。先日のもてなしに酬いる為、
自分の探り得た一大事を教えようとこうしてまたやって来たというのに・・
・
周瑜:フン、汝の浅はかな考えなどは見えすいているわ!この周瑜に降伏を勧めに
来たのであろうが、そうはいかぬぞ!
蒋幹:何故今日はそんなに怒りっぽいのだ? 短気はいかん。また親しく一献酌み
交わそうじゃないか。その上でじっくり語りたいこともある。
周瑜:ええい厚かましい奴め、これほど言っているのにまだわからんのか!
汝ごときの才知と弁舌に、この周瑜を心変わりさせる力などあるものか!
先日はつい旧交の情に心を許して酒を酌み交わし、寝所を共にしたが、
後になって見れば不覚にも軍の機密が失われておった!
汝が持ちだして逃げたのであろうが!!
蒋幹:な、何を馬鹿な・・・冗談じゃない、軍の機密など持ち出しておらん!
なんでそんなことをしなくてはいけないのだ・・・
周瑜:【↑の語尾に被せて】
やかましいッッ!!
おかげで折角我が軍に内応していた蔡瑁、張允を曹操に処刑されてしまった
。今またこれへのこのこやって来たのは、最近我が軍に降伏した蔡仲、蔡和
に対して何か手を打つよう曹操に命じられてきたのであろう。
蒋幹:ど、どうしてそう頭から疑ってかかられるのか?
周瑜:まだ言うか! 蔡仲兄弟はすでに我が軍に固く忠誠を誓っている!
再び曹操軍へ戻るものではないわ!
蒋幹:そ、そんな
周瑜:【↑の語尾に被せて】
黙れ黙れッッ!! 本来なら一刀両断に斬り捨ててくれるところだが、昔の
よしみで命だけは助けてくれる!
我が軍が曹操を打ち破ってその首を取るのもここ数日の内だろう。その間、
この辺につないでおくのも足手まといだ!
誰かある!
孫権軍部将:はっ! お呼びでございますか!
周瑜:こやつを西の山の小屋にでも放り込んでおけッ!
曹操軍を壊滅させた後、鞭の百回でも喰らわして北へ追い放してくれる!!
孫権軍部将:ははっ! さあ立てッ! 歩けッ!!
蒋幹:しゅ、周都督、誤解だ! 周都督・・・・!
周瑜:(よし、これで後はホウ統殿にかかっているな・・・。)
ナレ:周瑜配下の部将達は蒋幹を引っ立てて山中の小屋に幽閉した。
それからしばらくの後、対岸の曹操軍の様子が騒がしくなったとの知らせが
周瑜の元へもたらされた。
韓当:申し上げます、大都督!
曹操軍が何やらまた大規模な工事を行ったようです!
周瑜:なに、工事だと?
韓当:はい、どうやら曹操は船をも要塞化したようです。大船同士を鎖や板で
もって繋ぎ合わせ、まるで一つの巨大な船を思わせるような状態にしつつあ
ります。
周瑜:ほう・・・そうか・・・!
(よし、ホウ統殿が見事やり遂げたようだな・・・! 上手くいったわ!)
韓当:周都督、お喜びのようでございますが、敵のこの動きのいずれに吉報が・・
・?
周瑜:ふふ、我が策がちゃくちゃくと実を結びつつあるという事だ。
後になってみればわかる。
韓当:は、はあ・・・さようでございますか。
周瑜:(だが、最後の一手・・・風が・・・風向きさえ何とかなれば・・・。
しかしこればかりは自然の力だ。年を越えるまで何とか時間を稼がねば
ならんが・・・それでは黄蓋やカン沢らの降伏が偽りと露見する可能性も・
・・。)
孫権軍部将:申し上げます! 敵船団が現れました!
韓当:なに、どれ程の規模か!?
孫権軍部将:はっ、どうやら小舟ばかりで二、三十艘程度の部隊です。
周瑜:たかの知れた小部隊よな。おそらく功を焦った輩だろう。
彼奴らを打ち砕き、功を上げる者はいないか!
韓当:この韓当と周泰が参ります!
周瑜:うむ、存分に手柄を競うがよい!
魯粛:都督、背後の山から戦況をご覧になられては?
周瑜:よし、魯粛、貴公も共に参れ。
・・・っぬう、今日はずいぶんと風が強いな・・・!
ナレ:韓当はただちに周泰と共に十数艘の船を出し、左右から迎撃した。
攻め寄せて来たのは曹操配下の焦触と張南を主将とする一団だったが、
韓当らに手ごろな餌食としてあっという間に二人とも討ち取られ、
部隊は壊滅した。
周瑜:はははは! この程度では肩慣らしにもならんか!
皆、戦の幸先は良いぞ!
魯粛:さすがは韓当殿! 鮮やかな手際ですな。
周泰殿も敵の二将を討ち取る見事な活躍ぶりです!
韓当:よし、皆よくやった! 勝鬨を・・・む?
あ、あれは!?
周瑜:うっ、あの水面を真っ黒に埋めてやってくるのは・・・曹操の本隊か!
?
(なんという数だ・・・昼の光の下で見ると、あらためて敵の巨大さが
わかる・・・!!)
全軍、すぐに迎撃態勢を・・・む?
韓当:ぬうう、この少数と小舟では蹴散らされる! すぐに下がって味方と合
流するのだ!
孫権軍部将:!? か、韓当様! 敵が急に引き返していきます!!
韓当:何ィ!?
・・・はははは! 先鋒の軍を叩き潰されて怖気づいたと見えるな!
(命びろいしたか・・・あのまま進んでこられたら我らが踏み潰されて
おったわ・・・勝てるのか、あの敵に・・・?)
ナレ:巨大な黒い塊に見えた曹操軍の本隊船団は、そのまま総攻撃を仕掛けてくる
かと思われた。しかし、何故か急にその動きを鈍らせると、元の北岸へ引き
返し始めたのである。
周瑜:おお見よ! 敵は先鋒を討たれて意気消沈したと見えるわ!
引き上げていくぞ!
(さすがは曹操軍、恐るべき大船団・・・この周瑜、水軍を操る事すでに
十年だが、まだこれ程の軍容を水上で見た事がない。
ともかく助かったわ・・・こちらはあくまで火計で対抗せねば、兵力では
とうてい太刀打ちできんからな・・・。)
【旗が折れるSE】
!? うわッ!!
魯粛:ああっ、し、周都督!?
ナレ:地面に刺して立ててある司令部の大旗が、折からの強風に激しく煽られてい
た。しかしついに大きな音を立ててへし折れると、傍らの周瑜に倒れたので
ある。
周瑜:うっ、うぐぐぐ・・・・!
魯粛:周都督!! お気を確かに!!
周瑜:【声を落として】
大事ない・・・それよりも魯粛、ひそかに諸葛亮を呼んできてくれ。
魯粛:わ、分かりました。
ともかく部屋へお運びするのだ! すぐに医者も呼べ!
もし都督の御身に万一のことがあったらなんとする!
【四拍】
魯粛:都督、諸葛亮殿をお連れしました。
諸葛亮:都督、大事ございませんか?
周瑜:おお、諸葛亮殿。近くへ・・・。
魯粛、貴公を除いて皆、下がってくれ。
魯粛:はっ。
・・・特に外傷らしきものはないのですが、薬湯を飲もうとすると吐き気が
突き上げ、身体を動かすと頭が混乱すると申されて・・・。
諸葛亮:都督、何がご不安なのですか? わたくしの見るところ、お体にはこれと
言って異常は見られませんが・・・。
周瑜:不安・・・不安は何もないが・・・。
諸葛亮:ならば立てるはずでございます。
周瑜:いや、枕から頭を起こそうとしても、すぐ目まいがするのだ・・・。
諸葛亮:それすなわち心の、気の病というものです。都督を悩ましているものを
取り除く為、わたくしが良い薬を差し上げます。
魯粛:そ、そのようなものがあるのですか?
諸葛亮:ありますとも。
一服用いれば、たちどころに快癒いたす事、間違いございませぬ。
魯粛:おお、ではぜひお願いいたします!
周瑜:願わくばそれがしの、いや、国の為に一服投じていただきたい。
諸葛亮;承知しました。紙と筆をお貸しくだされ。
【三拍】
どうぞ、都督。
周瑜:!!
(曹操を破らんと欲すれば、すなわち火計を用いるべし。
諸事用意万端に備われど、ただ東風を欠くるのみ。)
諸葛亮:いかがですかな? これが都督の病の根源でございましょう。
周瑜:【溜息】
さすがは諸葛亮殿。見抜いておられたか。
しかし、今は十一月ゆえ北西の風しか吹きませぬ。
もし火を放ってもこちらには向かい風、我が軍にも被害が及ぶ可能性がある
。
事すでに急を要すれども、天候は意のままにならぬ。
一体いかがすればよいかと、日々悩んでいた次第です。
諸葛亮:それならば私に良い方法があります。
昔、若年の頃に異人に逢い、八門遁甲の書物を伝授されました。
それには風や雨を操る秘法が書いてあったのです。
もし都督がお望みであらばその書を用い、我らにとって追い風となる東南
の風を起こすよう祈ってみますが・・・?
周瑜:なに、そんなことが可能なのですか!?
魯粛:都督、ここは諸葛亮殿に秘法を試みていただいては・・・?
周瑜:うむ。
諸葛亮殿、ぜひやってみていただきたい!
諸葛亮:わかりました。
来たる十一月二十日に天を祭れば、三日三晩の間に東南の風が起こりま
しょう。
祭壇を南屛山の上に築いてくだされ。
周瑜:承知した。魯粛、すぐに兵を動員し、昼夜を問わずとりかかってくれ。
魯粛:ははっ。では諸葛亮殿、祭壇が出来ましたらお知らせします。
諸葛亮:分かりました。
では、今日はこれにて・・・。
【三拍】
魯粛:都督、諸葛亮殿はああは言いましたが、本当に可能なのでしょうか?
周瑜:分からぬ。分からぬが、東南の風が吹かなければ、我が呉は滅ぶ。
ナレ:その後、南屛山へ昼夜突貫で作らせた祭壇に諸葛亮がこもり、祈祷を始め
た。
周瑜や魯粛は東南の風が吹き次第、いつでも動けるよう将士を待機させてい
た。その最中、黄蓋がひそかに報告に訪れた。
黄蓋:都督、二十艘の船に干し草、枯れ柴、硫黄、煙硝を満載し、青布でしっかり
とおおい隠し、水上での動きに特に慣れた者ども三百名を配置したぞ。
周瑜:おお、用意は万端整いましたか。では東南の風が吹き起こり次第、陣を脱出
した態にして曹操の陣へ向かってくだされ。我らもすぐに後を追って総攻撃
に移ります。
黄蓋:承知した。
甘寧やカン沢も上手くやっておるようじゃ。
我が国の興廃、この一戦にある。
では、風向きが変わるのを待っておりますぞ。
周瑜:うむ。カン沢はおるか。
【二拍】
カン沢:お呼びですか、都督。
周瑜:陣中の慌ただしい気配を悟られぬよう、甘寧と共に蔡仲兄弟へ酒を飲ませて
おいてくれ。・・・今生最後の酒をな。
カン沢:! 承知しました。ではさっそく。
【三拍】
おう、甘寧、ちょっと耳を貸してくれ。
【声を落として】
東南の風が起きるまでの間、蔡仲らに気づかれぬようにしてくれとの事
だ。
甘寧:そうか、いよいよだな・・・よし。
おう、同志たちよ。
蔡仲:おお、これは甘寧様にカン沢様。いかがなされました。
甘寧:うむ、いつこの陣を抜け出して曹丞相様の元へ参るか、そろそろ相談して
おこうと思ってな。
蔡和:確かに、さようでございますな。
カン沢:まぁ酒でも酌み交わしながら、ゆっくり語ろうじゃないか。
蔡仲:それは結構な事でございますなァ。
甘寧:うむ、ここで大手柄を立てて、それを手土産に曹丞相様に認めてもらわな
ければな!
蔡和:はい、ここで成功すれば、我らの立身出世は約束されたようなものでござい
ます。
甘寧・カン沢・蔡仲・蔡和:はっははははは・・・!
ナレ:それから一日、二日経ち、ついに三日目の晩になった。
未だ東南の風は吹かず、周瑜の顔には焦りの色が浮き始めた。
周瑜:まだか・・・まだ風は吹かぬか!
諸葛亮め、確たる自信もなくあんなことは言い出したのではあるまい
な・・・!
魯粛:しかし、諸葛亮殿ほどの人物がそんな事を軽々しく言うとは考えられませぬ
。
もうしばらく見ていてご覧なされ。
周瑜:むむむ・・・すでに我が君も本隊を率いて長江をのぼって来ておられる。
このままでは・・・・・むっ?
魯粛:こ、これは・・・・風が・・・!
周瑜:生ぬるい風・・・東南の風だ・・・!
まさか本当に・・・諸葛亮とは人か、魔か。天地造化の変を奪い欺くとは
・・・黄巾の乱の張角、漢中の五斗米道にも通ずるものがある・・・!
今のうちに始末しておかねば、天下に災いをなすかもしれぬ。
ナレ:周瑜は身の毛をよだてると、丁奉、徐盛を呼んで密かに何か命令を授けた。
彼らは水陸の兵を五百引っさげて南屏山へ急いだ。
魯粛:都督、今のは何ですか?
! まさか・・・諸葛亮殿を殺しにやったのではありますまいな!?
周瑜:・・・・・見よ、この天変を。天候まで自在に操るような男をこのまま劉備
の元へ帰したら、必ず将来の災いになる。
魯粛:ッ、しかし・・・。
ナレ:しばらくして丁奉・徐盛が帰還し、すでに諸葛亮が迎えの船に乗って逃げ
去ってしまった旨を報告した。
周瑜:くっ・・・逃げられたか・・・。
しかし、曹操軍を目の前に控えていてすっかり忘れていたが、今思えば、
この時期には何日か風向きの変わる日が確かにあった。
諸葛亮め、それを知っていたのだ。八門遁甲などというのは、おそらく作り
話なのだろう。
魯粛:では、諸葛亮は・・・。
周瑜:うむ。我らを揶揄するつもりだったか、あるいは己に神秘性を持たせたかっ
たのか・・・それは分からん。
だがいずれにせよ、ああいう事をさも出来るかのように振る舞い、周りを信
じさせるのも才能だ。ゆえに我が呉にとっては脅威なのだ。
ある意味、曹操よりもな・・・。
魯粛:都督、過ぎた事は仕方ありますまい。今は目前の曹操軍を打ち破るべきで
す!
もうあらゆる準備は整っているではありませぬか。
周瑜:うむ・・・そうだな。
魯粛、急ぎ諸将を集めよ!
我らの勝機は、この風の吹いている間だけだ!!
魯粛:ははっ!
ナレ:機は熟した。
このわずかな戦機を外しては、呉に勝利はない。
本陣の幕営に主だった将軍たちが慌ただしく集まると、周瑜は彼らを見渡
し、厳かに声を発した。
周瑜:諸将よ! いよいよ決戦の時だ!
これより作戦を授けるゆえ、ぬかりなく務められよ!
まず甘寧、汝はかねてからの予定通りに蔡仲を囮に使い、曹操に降伏する
と称して北岸に向かうのだ。烏林の地へ上陸したら、曹操軍の兵糧を焼き払
え!
甘寧:心得た! して、蔡和の方はどうします?
周瑜:別に使い道があるゆえ、残してゆくがよい。
後詰めには呂蒙、凌統を向かわせるゆえ、縦横無尽に暴れてくるのだ!
甘寧:ははっ! よぅし、待ちに待った決戦だ! 腕が鳴るぜ!
周瑜:太史慈は合肥の曹操軍を攻撃後に、赤壁の曹操軍本陣へ進撃するのだ。
董襲、潘璋はそれぞれ兵三千を預けるゆえ、漢川方面へ突撃せよ!
そして黄蓋!
黄蓋:おうッ!
周瑜:老将軍の後には韓当、周泰、蒋欽、陳武を続かせる。
かねてからの秘策、確実に遂行されよ!
黄蓋:承知つかまつった! いよいよ曹操めに一泡吹かせてやれるわい!
周瑜:程普は私と共に旗艦に乗込み、後陣の右備えは丁奉、左備えは徐盛に命ずる
。我が君は南屏山に本陣を置かれる予定だ。
魯粛はホウ統殿と共に本陣の留守を守れ。
魯粛:ははっ、都督のご武運を祈っております。
周瑜:我が呉の興亡はこの一戦にかかっている!
おのおのの奮戦を期待する!
周瑜・ナレ役以外全員:おうッ!!!
ナレ:作戦を授けられた先陣の諸将は勇躍して続々と出撃していった。
その頃、本陣の留守として残された蔡和は、カン沢の元を訪れていた。
蔡和:カン沢殿、お呼びと聞いてうかがいましたが・・・。
カン沢:おお、蔡和殿。いよいよですぞ。黄蓋殿や甘寧殿、蔡仲殿もそれぞれの
役目を果たされるべく前線へ向かわれた。
蔡和:そうですな。周瑜達の命運も今宵限り・・・して、我らはこの本陣を奪い、
周瑜らの退路を断つのですな。
カン沢:ああ、その事なのだが・・・少々、事情が変わってな。
蔡和:? 前線に向かわれた方々から何か知らせでも?
カン沢:うむ。蔡和殿には、別の役目を果たしていただこうと思ってな。
蔡和:別の役目・・・とは?
カン沢:我が呉の勝利の為、出陣の儀式の生贄になってもらおう!
孫権軍部将:それっ、ひっ捕らえろ! 蔡和! 周都督がお呼びだ!
蔡和:ぐっ、こ、これは!? カン沢殿! どういうことです!
カン沢:まだわからんのか。哀れにもほどがあるわ!
我らと来てもらうぞ!
【三拍】
都督、蔡和を連れて参りました。
周瑜:うむ、ご苦労。
蔡和、汝が曹操から埋伏の毒として送り込まれた事は、初めから分かってい
た。
戦の神々に供えるには丁度良い首と、今まで汝の胴に預けておいたが、
それも今宵限りよ。
汝に残った最後の利用価値を使わせてもらおうか。
【剣を抜くSE】
蔡和:そ、そんな、では甘寧や黄蓋の降伏は・・・!
周瑜:当然、この周瑜の策よ。
蔡仲は甘寧の水先案内人の役目を終えたら汝の後を追うゆえ、
一足先にあの世へゆけッ!!
【蔡和を斬り捨てる】
蔡和:ギャッッッ!!!!
【二拍】
周瑜:天地、戦の神々よ、ここに生贄を捧げます。
我が呉に勝利をお授けくだされ。
・・・出陣だ!!
ナレ:ここに呉の水軍全部隊が、曹操軍へ向けて進撃を開始した。
その頃、甘寧は蔡仲を先頭に立て、すでに対岸へ上陸してい
た。
甘寧:おう、ここが烏林か。
蔡仲:そうです。さ、曹丞相のもとへ向かいましょう。
喜んで迎えて下さるに違いありませぬ。
甘寧:うむ。・・・おっとそうだった。その前に一つ忘れておったわ。
蔡仲:え?
甘寧:蔡仲ッ、汝の役目は終わった!!
蔡仲:げぎゃッ!!!?
甘寧:バカめ! 汝の降伏が偽りなのは、周都督がとうに見破っておられたわ。
それッ、敵の兵糧庫は目の前だ! 火矢を射ろ!!
敵は手当たり次第に斬り捨てて、存分に暴れろ!!
かかれェーーーーーッッッ!!!
甘寧・ナレ役以外:【喚声】
ナレ:それとほぼ前後して、長江の水上では黄蓋率いる偽りの降伏部隊が、曹操
軍の大船団を視界にとらえていた。
黄蓋:ふふふ、この時を待っていたわい。目にものを見せてくれるぞ!
者ども! 曹操自慢の大船団は目の前に並んで、今宵の襲撃を待っておる。
見よ! 敵は狼狽して為すことも知らぬ有様じゃ。
いかに大きい船であろうと、所詮もとは木や皮よ!
火薬船、突っ込め!! 突っ込んで縦横無尽に焼き尽くせィ!!
孫権軍部将:これが我らの闘志の炎だ、喰らえ!!
黄蓋:弓兵、火矢を射ろ! 曹操軍に腹いっぱい喰わせてやれィ!!
孫権軍部将:射よ、射よッ者共ッ!! 全てを焼き払うのだ!!
韓当:おお、火の手が上がった! よォし皆の者、突撃だ!!
曹操を逃がすなッ!!
孫権軍部将:大都督! 火です、敵船団から火の手が上がりました!!
周瑜:してやったり!! 老将軍が首尾よく火計を成功させたぞ!
見よ、曹操の誇る水軍はことごとく炎に包まれた!
この機を逃してはならん! 敵軍を殲滅し、曹操の首をあげよッ!!
進めェーーーーーッッ!!
周瑜・ナレ役以外:【喚声】
ナレ:東南の烈風に煽られ、人や物は焼け爛れ、陸も海も火焔地獄となった。
歴史に残り、永く後世に語られることとなった赤壁の戦い・三江の大殲滅
とは、曹操がこの一夜で味わった惨敗そのものの事を言う。
百万と称していた曹操軍は、この敗北で三分の一以下になったと伝えられる
。
数万人の捕虜や曹操軍が捨てていった大量の軍需物資を得て、孫権軍は一躍
その勢力をのばす。戦勝に沸く呉へ、劉備軍から祝勝の使者がやってきた。
新たな争乱の火種、荊州の領有を巡るその端緒を携えて。
END
おはこんばんちわー、作者のシオンであります。
・・・1年かけて書き上げた各陣営から見た赤壁の戦い、その孫権軍サイドからのうp第三弾となります。
例によって、間違いなく初心者向けの台本ではないですね、ええ(;´Д`)
もしツイキャスやスカイプ、ディスコードで上演の際は良ければ声をかけていた
だければ聞きに参ります。録画はぜひ残していただければ幸いです。
ではでは!