歪み愛
ずっと黒い春に包まれていました。
人並みに、それ以上に恋というものをしてきました。
それは決して鮮やかでなくて、黒色で、何色にも染まらず、深い深い闇でした。
高校一年、四月。
温かい桃色の風が吹いていました。学校は女学校とまでは言わずとも、男が極端に少なく、
割合で言うと全体の90%が女でした。女というものは、いえ、人というものは希少なものほど盲目
なる生き物で少し顔の整った男には女が群がり、薄暗い戦争をしたものです。
少し顔の整った男子の中のSという人は殊更に人気があり、まだ4月であるのに好きだの告白するだのと
噂立っています。どんな組織においてもこういう人は居るもんだなと、大変無関心でいました。
しかしそのSというのは、決して陽気な人間ではなく、前髪が長くて細身、身長も170cm無いほどで、
いつもマスクを付けていますが目は切れ長に鋭くどこかに影を持つ人間でした。
ここで断っておきますが、巷でよくある学校の人気者と普通の女子がどうとかなる少女漫画ではありません。
そんなに鮮やかな色気づいたものではなくて、そんな高尚なものでなくて、どこまでも黒い影が付きまとって離れないのです。
新学期早々私はSに呼び出されました。
彼と何ら面識のない私は戸惑いました。人気者に呼び出されたにも関わらず喜悦などの感情も起こらず、
ただ何か面倒な事にならないか怯えているばかりです。人と何かしら深い関係を持つと面倒な事になる
と心得ておりましたから、彼とどうこうなる事は私の中で最も恐ろしい事でした。
「友達に、なってくれませんか。」
謙遜した様子で、いかにもお伺いを立てている感じでした。そんな言い方をされては困ります。
付き合ってくれと言われればお断りできたでしょうに、友達になってほしいと初対面で言われ、
ノーと言うのはあまりに失礼で、面倒の種を撒いてしまうでしょう。仕方なくイェスと返事しました。
五月
それから彼とは友達をしていました。学校では周りを気にして話しかけもせず、放課後も特に何もせず、
ただ、テスト期間に入ると一緒にうるさいジャンクフードの店に行って駄弁りながら勉強をしたのです。
彼は女がうるさいだとか、毒親がどうとか、必要であれば励ましたり、たまに筆談をしようと言い出し、その内容に少し驚かされるだけでした。
‘セフレって必要だと思う?’
質問の意図が分からず呆気にとられましたが、彼は頭の良い方で教えてもらっている側である以上、
この時点ですでに彼を失うのは惜しかったのです。
「分からないけれど、好きな人と結ばれたなら要らないんじゃない。」
ガヤガヤとうるさい店内で少し声を張って言いました。
そうだよね。と彼は悲しそうに笑いました。それから何も話さず、各々の課題に勤しみました。
このなんでもない、男子高校生が言った(書いた)下ネタ交じりの会話が後に私たちに運命だと言わん
ばかりに首を絞めてくるのです。そして、私は純情ではあっても潔白ではないことを告白します。
私はこのころSに惹かれていないと言えば真っ赤な嘘になりますが、彼が私を満たしてくれないことは
明らかでした。テスト期間以外のたくさんの時間、彼は女子に囲まれていましたから。
六月。
部活に入りました。男子バスケットボール部のマネージャーになりました。
特にやりたいこともなく、しかし何かしらの部活には入らねばならないという状況で、
一番楽だと思うものに入りました。
何せ選手六人に対しマネージャーが五人も居たのです。男子の少ないこの
学校で唯一男子と触れ合える部だからでしょうか。その中で競争心など微塵も無かった私は
部活には顔を出さず、他校との試合の時だけ手伝うという中途半端な事をしていました。
3年生の引退試合の手伝いに行ったとき、木陰で皆の荷物を見張っていると、
当時3年生で主将の男子が試合を見に来た彼女と話しているのを見ました。
その主将をTとしますが、Tは負けたのにも関わらず屈託なく笑っていて、その笑顔がとても
可愛らしかったのです。足元の陰がすうっと伸びました。
後から同じ部活の先輩にTの事を聞きました。Tは彼女を溺愛しており、彼女のご両親に
娘にはまだ手を出さないでほしいと言われたことをきっちり守っているそうです。
毎休み時間彼女のクラスに訪れ幸せそうに話しており、その溺愛ぶりから部員には倦厭の目で見られていました。
彼女に向けられる愛を奪いたい。この人が欲しいと思いました。
明白な事に私は既にSを愛していました。様々な女生徒がいる中で私だけが特別なのだと、
私しか見えていないのだと言われれば、誰でも心を寄せる事でしょう。
しかしSが女に囲まれているのは事実で、気にしなくていいと言われても私の嫉妬の魔は耳を塞いで
おりました。そして私たちはただの友達でした。
胸に穴が空いたようだとはよく言いますが、
その表現で言うとこの頃、全身に穴が空いているようなのです。
その穴を埋めるために、Tの足首を掴もうとしました。
七月
肌が汗ばみ気持ちの悪い生ぬるい風が吹いています。
Sとの仲は瞬く間に1年生の間で広まりました。高校に入って出来た一番の友達に、
「実はSが好きなんだ」と言われました。だから近づかないでほしいという意味でした。
彼女の顔は酷く真剣で、目に少し涙を浮かべ、歪んだ笑みを浮かべています。
私は弁明しました。
私とSはただの友達でそういう関係ではないし、私はSに好意は無い。誘ってくるのはいつもSで、
私がどうこう出来る問題ではないけれど、出来る限り近づかないし、応援する。
そんなようなことを言いました。
半分本当で、半分嘘です。彼女を応援するつもりなど更々ありません。
自論になってしまいますが、好きというのには他人は甚だ問題ではないと私は思うのです。
彼女が居るから私は選ばれないとか、他の女が邪魔だとか、言いわけにしか聞こえないのです。
好きな人に振り向いてもらえないのは自分に魅力が無いからであり、他の人の方が優れている、もしくは
その人の嗜好であるからであり、私が消えたところでSは彼女に振り向かないし、Sは彼女を愛すことは
無いのです。
あぁ、あの時私は彼女にそう言ってあげれば良かったのかもしれません。彼女に嫌われることを覚悟で
正しき道へと導かなければいけなかった。私は面白いと思ってしまったのです。
Sは私が消えたらどうなるのだろう。
Sは常々死にたがっていて、女の悪口を言い、毒親に会いたくないがために夜遅くまで路上を
虚ろな目で歩いているような男です。
最近は周りの目を気にし、会うのも控えていて、他の女と遊んだという噂まであります。
この噂に射貫かれ私は穴だらけでしたので、少し、試してみたくなりました。
そして、愚かにもその間にTを手に入れようと策略していたのです。
八月
夏休みに入りました。一年の夏休みは暇だろうと大量の課題が出され、暑さに何もする気が起きず、
家に引きこもりたいという願望が強く現れます。しかし何故か部活はあって手伝いに来いとうるさいので
3日に1回程度部活に行きました。
引退しているにも関わらずTはいつも体育館に居ました。TはSと違い体格が良く、180cm近くあり、筋トレを欠かさないので服の上からでも分かる肉体美でした。
彼はリーダーとして優秀で、コートに立つとその場を支配しているようなそんな雰囲気、オーラを持っているように見えます。私とは対照だなと思いました。Tはとても白かった。白くて、眩しくて、不釣り合いな気もします。
しかし意外にも共通の趣味があり、そこから仲良くなるのは必然でした。
夏休みの間、私は一度もSと会いませんでした。
九月
夏休み明け、暑いような暑くないような気温の中皆の小麦色の肌が目に焼き付きました。
その中でSは全く焼けておらずむしろ元々白い肌が病的に白くなっていました。
放課後、堂々とSに引き留められ、教室で夏休みの間、
何故会ってくれなかったのかをやんわり聞かれました。
「友達にSが好きって子がいて、その子が近寄らないでって言うから、どうすればいいか分からなくて。」
性格が悪いような気がしますが、不思議と罪悪感なんてものはありません。
「誰。」
今までSから聞いたことのない低い声を聴きました。
「それは言えない。」
「誰って。」
言わないと片っ端から殺すぞとばかりに怒っていました。
私は心の中で狂喜しました。
人には性癖だとか趣味嗜好が伴い、他人に理解されず否定されることはどこにでもある話で、
私の場合、俗に言うとメンヘラと片付けられてしまうのですが、自分が誰かの特別であることに
喜びを感じます。嫉妬、執着、依存というものが好ましく、監禁されるなんて事があれば喜んで
手枷足枷を嵌めましょう。
突然訪れた幸福に酔いしれていると、
「俺が会いたいんだから気にしなくていいよ。」
いつの間にか怒りの表情は消え、目だけにこやかに言いました。
その後、いつものジャンクフードの店で夜十時くらいまで駄弁って、遅くなると悪いからと駅まで送って
くれました。彼の喋り方、話の切り出し方は突拍子も無くて、突然不思議な事を言い出します。
「こっちの道で帰ろう。」
明るい大通りを歩いていると、暗くて細い路地を指して言いました。
「どうして?ちょっと怖いよ。」
暗闇の上の方に小さなライトがチカチカと点いたり消えたりして恐怖心を植え付けました。
それに、今までそんな事言ってこなかったのに、急に、人格が変わったようにそう言うのです。
「なんとなく?」
Sは闇の中に入っていきます。私は怖くて大通りの明るい所で立っているだけでした。
「待って!」
置いて行かれるのが嫌で叫びました。
「早く。」
そう言われておずおずと闇の中に足を踏み入れると世界が変わったように思いました。風も、空気も、
地面も、何もかもが別の物質に変わりました。
Sは私の手を握りました。
「大丈夫?」
そう覗き込んでくるSの顔が近くて、自分の鼓動を感じました。
そのままずっと二人で闇の中を進んでいきました。Sはまたくだらない話をして、たまに怖がらせて
みたりして、時間の概念が無かったように感じます。
ぱっと明るい所に出ると、繋いでいた手をパッと放してバイバイと言いました。
彼は私を駅まで見送り、別れる時はいつも、愛おしそうに私を見るのです。
目の前には駅があって、こんな道があったのかと、キャットウォークみたいで、非現実的で
心が高揚しました。子供の時に体験した、もうしばらく体感しなかったわくわく感がぶわっと襲って
きて、Sに魅了されました。
Tが私にネックレスをくれました。九月に私の誕生日があると知ったようで、特段高いものでは
なく、私の趣味にもあっていないものをくれました。値段やセンスなんてものはどうでもよく、
ただの後輩に贈り物をしたこと事態が喜ぶべきことでありました。Tは友達を選ぶようで、
誕生日に贈り物をするのは彼女と、私と、バスケ部のチームメイトくらいだと言っていました。
あぁ、いつか彼女から奪わねばと思いました。
十月
Sの女遊びの噂があちこちに立ち込めて、息が出来なくなりました。
穴を埋めるためにTとプライベートで会うことが多くなりました。
私はこの時点でTを落としたと確信していました。
Tの彼女は受験に集中すると言って会うのはおろか、連絡もほとんど来なくなったそうです。
Tは埋め合わせのように私を使いました。好きな本を貸し合い、頭も良く有名な大学を狙っている
そうで私の勉強も見てくれました。
そうすると、Sと会う理由がほぼ無くなりました。
そもそもSは勉強を教えてくれるオトモダチであり、恋人でも何でもありません。
Sと会うほど女子から疎まれ、Sから離れるほどSは私の代わりを見つけています。
どうすればいいのか分からず彼の女の噂を聞くたびに私の心はささくれを作って、
何度も何度も泣きました。そんな薄情な男に涙を捧げているのも馬鹿らしくなって、
彼女に内緒でTと色んなところへ行きました。
十一月
もうすっかり学校にも慣れて、Sの話題は次第に減っていきました。
テスト期間もTと一緒に居て、Sは私の中から消えていきます。
Tは未だに彼女と別れたわけではないですが、風邪を引いたときは果汁100%のジュースだの
冷えピタだのを大きい袋二個分持ってTが家に押しかけてきた時は嬉しくてその場で
泣いてしまったこともありました。
このまま進んでいければ、Tの優しくて大きな愛の中で幸せに生きていけると思いました。
Sの手首を見るまでは。学校に行って、なんとなくSを眺めていると、長袖のシャツの袖が
捲れて幾本もの赤い線を見ました。鮮明な赤。そもそも彼には自傷癖がありましたが、最近の傷が異常に多く、昔の赤黒くなった傷と合わさって不気味さが増しています。今すぐにでも抱きしめてあげたかったけれど、そんなこと出来るはずも無く、私にはもうそうする資格さえないのではないかと思えます。
後から分かったことですが、ちょうどこの頃にSは彼女を作ったそうです。
それがどんな意味を持つかは想像するのも恐ろしく、資格がない私には何も出来ないのでした。
12月
Sの手首が目に焼き付いて離れなく、初めて私から彼を誘いました。
不自然に思われないように勉強で分からないところがあると言い、あのジャンクフード店に
呼び出しました。
「久しぶり。」
「久しぶり。」
Sの顔は心なしか暗いのです。疲れているようにも憑かれているにも見えました。
しかもSの様子はほんの少し、ほんの些細にも悪いほうに違っているように思います。
彼は何かと私に恋愛じみた質問を試験のように出してきます。一回でも回答を間違ってはいけない。
そんな気がしてなりません。
「街中で恋人と手をつなぐのどう思う。」
「それぞれのカップルによるんじゃない。私はしたくないけど。」
「ふーん。」
幾つか質問をしてきましたがSはへぇとかそうとか言うだけで正解を言えたのか全く分からず、
終始冷や汗をかきました。
「束縛する?」
背筋が凍りました。何と答えれば良いのでしょう。私は嫉妬深く、出来る事なら恋人の周りの
女に刃を突き立てて回りたいのですが、そんな事言えるはずがありません。
、、、九月頃、
私に堂々とSが好きだと言ってきたあの女がSは自分の物だと主張することに対してSは
「面倒くさい」と私に愚痴ってきたのを思い出しました。Sはきっと束縛が嫌いなのでしょう。
「しないと思う。されたくないし。」
「そっか。でもさ、実際付き合うと人って変わるじゃん。」
「そうだね。Sはどうなの。」
「、、、、、、。俺は、もう彼女の言いなりになってしまうんじゃないかな。浮気するなって言われたらしないし、何かしてって言われたらその通りにして。犬みたいに。」
Sは涙を隠すことの達人でした。ですから彼が今泣きそうになっていることに私は全く気付かないのでした。
その後はもう何も言わず、Sは自分の課題に向き合いました。乾燥で酷く赤く抉れている手が震えていて、私はSの手を取りました。痛くないように、優しく優しく握っていました。
そして、テーブルの下ではいつものように、足を交互に絡み合わせ、お互いが逃げないようにしていました。
十時を回って、もう帰らないとと言いました。どちらからかともなく言いました。
足を解いて店を出ると、温かい店内と外の寒気との差に体を震わせました。十二月二十五日。
私が会いたいと言ったら、Sはこの日が空いていると言いました。寒くて、二人は服のポケットに手を突っ込んで、寒い寒いと言いながら歩き出そうとした時に、
私の手がすっと伸びました。自分の手なのに自分の意志ではないかのようでした。
Sも驚きましたがそれ以上に私が驚き、恥ずかしくなってしまって、
「寒いから。」
と言いました。
「嫌いなんじゃなかったの。」
「寒い。」
寒いはずなのに恥ずかしくて熱くて、このまま死んでしまいたいと思いました。
Sは私の手を取って、
「可愛いねお前は。」
そう言って体で少し私を押しました。
街灯で明るい大きな通りを歩いて駅に向かいました。彼は酔っぱらったようにまた法螺を吹いたり、
下品な話をしたりします。
「キスとハグどっちが好き?」
Sは本当に酒を入れたのではないかと疑われます。歩くときはふらふらと私の方に身を寄せ、こんな
事を私に聞くのです。
「安心するから、ハグがいい。」
情緒不安定な私を慰めるために、何回かTに抱擁されたのを思い出しました。
「本当にそうだよなぁ、キス何て、気持ち悪いもんな。」
駅が見えました。また私はあの愛しい顔を見なければいけません。
「バイバイ。」
「バイバイ。」
体が動きません。階段を下っていかなければならないのに、Sの顔がいつも以上に可笑しいから。
Sは泣いていました。よく見なければ分からないくらい、静かに小さく泣いていました。
さっき、キスかハグかと聞かれた質問を思い出しました。
彼はただ、私の抱擁を待っているのです。愛おしい、悲しい顔で、私から愛を受ける事をただ表立って求めているのではなく、待っているのです。
ここで私は大きな罪を犯します。今まででも罪を犯していますがこれは本当に、一生悔いても
悔いきれない罪なのです。
私は逃げました。Sを抱くことができませんでした。Sを救うことができませんでした。
何故って、駄目だったんです。Sは私のものじゃない。Sはもう、私以外の誰かのものになっている
のだと勘づいていました。
今まで混乱させないためにSとTを主に描いていましたが、それ以外にも私は手を染めていました。
ある男は私の手が美しいと言い、その男にも彼女がいるのにも関わらず手を触らせ、握らせ、浮気と
して破局させたこともあります。またある男とは性癖が合致し、その男の彼女が他の男と話すことの
愚痴を聞いているうち、お互いに満たされ合うために監禁、調教のフリをして遊んでいました。
そしてSはその悪事の一つくらいは知っていて、彼も彼でとんでもない嫉妬の魔を抱えていました。
私達は似すぎてる。私とSは、似すぎて噛み合わなかったのです。お互いが満たされず、
満たされるために他に目を向け、またお互いに刃を突き刺す。
私はSと他人になる事に決めました。
一月、二月
Sを頭からはじき出し、Tを本格的に落とすことを目指しました。
Tは彼女と不仲になっていっていることを私に相談すべく、毎回カラオケで話します。
それとなくいい人を装い、
どちらも尊重したうえで、最終的には先輩に任せますが個人的には別れた方がいいと思います。
そんなようなことを言っていました。
相談しているうちにそれが依存になるように、可愛らしく自分のために一緒に悩んでくれる後輩
として努めました。
その努力実って、Tはあれだけ溺愛した彼女と別れました。
三月
Tにキスをされました。前の彼女と別れて2週間後です。
Tは受験が終わったし、別れた悲しみを吹き飛ばすためにカラオケに行くと言って聞かず、
私も同行させられました。
そしてどのタイミングかもわかりませんが不意にキスされました。
Tは何故か頭を抱え、後悔しているようでした。
「ごめん。忘れて。」
「そんなひどい。どうしてです。」
「彼女と別れてほんのちょっとで、しかも二つ下の後輩に急にキスするとか、でも、」
と体育座りで小さな声で言うのです。あの高くて筋肉質で強そうな人がこんなになるなんて、
可愛く思えてしまって、少しからかいました。
「だからって無かったことにするのは無理ですよ。私が親や学校に言ってしまうかもしれません。」
「そういう事じゃなくて、その、君のことが好きだけど、こんな無理矢理みたいな感じで、
違うんだよ。好き、だよ。でも、彼女と別れたばっかで、誰でもいいとかじゃなくて、ほんとに、」
Tは必至に伝えようとしています。もはやTに先輩の威厳など無く、ただの子犬と化しました。
「じゃあもう一度キスしてみてはどうです。無理矢理じゃなくて、ちゃんと待っててあげますから。
ほら。」
私の言葉にTは涙目になって私にキスをしました。
「あぁ、本当に好きだ。食べてしまいたい。」
今度は口の中を犯すような深いキスをしました。
Tは私に落ちました。四月一日に付き合うという形を取りました。