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地上の恋占い

「――スキ、キライ、スキ」

ぷち、ぷち、ぷち――


 口の中だけで呟きながら、花びらを一枚ずつ引き千切っているベルタを見つけた綺萌は、その異様な光景に一瞬だけその場で硬直すると、勇気を振り絞って恐る恐る口を開いた。


「……何、してるの?」


 よほど真剣になっていたのか、綺萌が近づくことにも気付かなかったベルタは、突然掛けられた綺萌の声に驚いてその場で硬直した。


「あ、綺萌……?」




××××




「恋、占い……?」

 驚いたように目を瞬かせる綺萌に、ベルタは軽く頷いた。

「地上の子供がやるような遊びの一種で……信憑性は無いようなんだけどね、暇だったから」

 綺萌に簡単な説明をしながらも花びらを千切り続けるベルタに、綺萌は楽しそうに微笑みながら首を傾げた。

「で? ベルタは誰を相手に占いをしていたの?」

 楽しんでいる綺萌の表情を見ていないベルタは、誤魔化そうと目に見えて焦りだした。

「べ、別にっ! 誰でもないわよ!?」

 慌てふためくベルタを見ながら、綺萌はよりいっそう深い笑みを浮かべた。

「煌也兄様?」



ぶちっ



 図星を突かれて動揺したのか、ベルタは茎と花の部分を切断しながら、可愛らしく首を傾げる綺萌に視線を向けた。

「なな、な何で私が、煌也を相手に恋占いなんてしなくちゃならないのっ!?」

 激しく動揺するベルタの様子を見つつ、綺萌は本で読んだ“恋する乙女”と同じ反応を返すベルタに微笑んだ。

「特に深い意味は無かったのだけれど……ベルタと煌也兄様、よく一緒にいるのを見かけるし、煌也兄様はベルタの側でも眠れるでしょう?」

「そう……かな?」



 煌也が側で眠れる――



 気配に敏感で、自室でも安心して眠りにつくことのできない煌也は、たとえ家族であっても気を許している綺萌以外の人間が側に寄ると、すぐに目を覚ましていた。

 そんな煌也の睡眠を邪魔することなく近くにい続けられる存在――


 告げられたわけではない、それでもその態度で示されているような“特別”にベルタは花を抱きしめ―握り締め―ながら微笑を浮かべた。



「何の話?」



 幸せを一人で噛み締めていた―ベルタ自身は気付いてはいないが―ベルタの背中に抱きつくように、話題の人物が顔を出した。

「煌也!?」

「おはようございます、煌也兄様」

 驚いて煌也から離れながら立ち上がったベルタに微笑を向けながら、煌也はまず妹に向かって声をかけた。

「おはよう、綺萌……ベルタはそんなに勢いよく逃げなくてもいいじゃないか」

 にっこり、と喰えない笑顔で微笑みながら、明らかに楽しんでいる煌也を見てベルタは千切りかけの花をそれまで座っていた場所に置き、横に置いてあった書物を手に取り煌也の背中を押した。

「な、なんでもない……それより今から講義でしょ! 早く行こう?」

 必死になってこの場から遠ざけようとするベルタに僅かに首を傾げながら、煌也は綺萌に向かって声をかけた。

「綺萌、長が午後になる前に参じるように、だって」

 煌也の言葉に面倒くさそうな表情を浮かべながらも一つ頷き、綺萌は二人を見送った。




「恋占い、か……」



 ポツリ、と興味なさげに呟くと綺萌はベルタが置いていった花びらを千切り始めた。



「キライ……スキ……キライ……」

ぷち、ぷち、ぷち


 残された花びらを千切りながら、綺萌は自然と微笑を浮かべていた。



「スキっ!」



 最後の一枚と共に口にした言葉に綺萌は楽しそうに微笑むと、ベルタが座っていた場所に花びらの無くなった茎を置き、ピンクのチョークでハートの形に囲んだ。


「ふふっ」


 たぶん授業が終わったらベルタはこの花を回収しに来るだろう。

 そのときのベルタの様子を想像しながら、綺萌は楽しげな足取りで煌也から伝言された場所に向かった。

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