6話 バケツ
「城! じゃなかった着いた城下町!」
「……しれっと牛乳持ってるけど味気に入ったの? それとも被害者を増やそうとしてるの?」
やだなぁそんな事する訳ないじゃないですか冗談が上手だねスライムくん。町は活気があった、近々目立つ祭りはないらしいが賑わうのが好きなのだろう。僕らの目的は信仰の欠片である。さて、何処にある事やら。
「城の倉庫とかじゃないかな、肥やしになってそう」
「森の欠片と同じだったら分かり易いんだけどね……」
「…………」
呑気に町中で城へ侵入する話をしてしまったからか、それとも不用意に同じ物である可能性が高い物を手に持っていたせいなのか。僕らは後ろからの視線に一切気が付く事はなかった。
「的当てだって、やってみる?」
「置き場所に困りそうなぬいぐるみしか置いてないから、いいや」
「美味しそうな食べ物があるよ、買ってみない?」
「今お腹空いてないし、倉庫の方へ行ってみようよ」
「じゃあなんでこっち来たのさ……お腹に悪いよ……」
「帰り買ってあげるから拗ねない拗ねない。ていうかスライムくんお腹あるの?」
「君がぼくに食べさせようとしたのは何だったっけ? そうだな、黒こげのパン……」
「ごめんね」
謝罪を終えた所で倉庫に行ってみよう。ポツンと放置されている倉庫を発見、鍵は掛かっているが中に入れないという事ではなさそうだけれど。
「……鍵を開けて中に入って物を頂くって盗人だよね」
「勇者にでも転職する? 確か国民の物資を私物にしていいんだよね」
「盗賊の方が優しいんじゃないかな、勇者より」
金目の物を盗む輩と手当たり次第に私物化する者、どっちがタチが悪いのだろう。ともあれ、今ここで出来るのは侵入口を探る程度。倉庫とは言え城の設備、穴は見つからなかった。
「何処からも侵入出来そうにないね……」
「鍵にでも変形しちゃえば……でもな」
「そこまでだ、盗人!」
「いえ、ひったくりには遭ってませんけど」
「何も盗られてないよねないよね、今の所」
「そうか、なら安心じゃない。倉庫に入ろうとしただろう、その上中の物を盗もうとも。ここで成敗してくれる!」
「まだ中の物とってないけど……どうする?」
「戦えばいいんじゃないかな」
「……それもそうだね。よし、戦おう」
騎士っぽい人が現れた。どうする?
「まずは説得から……僕達、ただ中にある物を自分の物にしたいだけなんです。本の少しの誤解です」
「それは盗人行為なんじゃないか?」
どうやら言葉を選び間違えたようだ。
「何やってるんだよ。ここはぼくに任せて、騎士さん。頭の奴バケツみたいですね」
「なっ! あんまりな事を言うと怒るだけでは済まされないぞ!」
スライムくんが説得を試みたが、怒らせてしまったようだ。
「駄目じゃん、もうどうすれば……そうだ」
「何か思いついたの……牛乳!」
「どうした、降伏なら受け付けて……うっ……ゴクっ……これは、さっぱりとした味に喉に残らない後味。美味い! これは何処の?」
「牧場の雄牛の牛乳」
「……何と?」
「牧場の雄牛の牛乳……耳悪いの?」
「……なんて……モノを……」
被害者が一人増えたが、僕達は倉庫の信仰の欠片を手に入れた。鍵は泡を吹いて倒れた騎士が持っていた。帰り道に牛乳を売り捌いて出来たお金で店の商品を幾つかと小銭が残った。