5話 新鮮牛乳
「ぐいっと、一発……飲み干す!」
「さっきの光景を目の当たりにしてよく飲もうと思うよね」
喉越しは爽やかだった。変に濁りが残ってない、飲みやすい味だった。生産元を知らずに飲み終えたい代物であった。
「美味しいよ、味は。うん、味はいいんだよ。お金は出せるよね、味には」
「味を強調するね。気持ちは分かるけど」
「どうかな、私特製の牛乳の味」
「……飲み干せる!」
迷った果ての返答がそれかよと訴える視線が厳しいけど、これ以上僕の口からは何も言えない。体験コーナーに行くまではよかったんだけど、搾る前にあれって思った。発信者はスライムくんだ。
「ねぇ、この牛さ……雄なんだけど」
「そうだよ、パパの思いつき……じゃなくて品種改良で生まれた雄でも乳が出る牛だよ」
「搾るの? 雄の牛から、ミルクを……」
「でも、よく考えなくても。普段飲んでる牛乳だって雌の牛から搾った物じゃない。性別の違いなんて、些細な物だわ。脂肪は雌が溜めやすいから味がさっぱりしすぎるのが問題なんだけど」
それを聞いて僕は興味が湧いた。製造過程なんて些細な事である、美味しいかどうかと極論を生み出し絞った牛乳ではなく製品予定の牛乳を飲み干す。
「スライムくんも飲もう、雄乳の牛乳」
「止めて、被害者を増やそうとしないで。ぼくはまだ綺麗な身体でってあ、美味しい! 美味しいけど大切な何かを失ってる気がする!」
気のせいだよと僕はスライムくんに微笑んだ。