4話 城を目指して
森を出た僕達は城を目指して平原を横断中。風が草を扇いでいて涼しそう、とも思ったけど今は夏じゃないからそんなに羨ましくないや。
「城に行ってどうするの。王様って偉いんだろ、何かないと会えないんじゃない?」
「別に王様に会う必要なんてないさ。ちょっと信仰の欠片を借りるだけだよ」
「……返せる見込みは?」
「五つ目が手に入ったら」
泥棒になるしかなさそうだねとスライムくんは呆れ顔。そんな彼を頭に乗せて僕は平原を歩く。蜜が取れそうな花畑や荷物を放っておいている商人を見かけたけれど。僕達は特に用事がなかったから、無視をした。
「花の蜜、ちょっと吸ってみたかったけどね」
「帰りに余裕があったら寄って行こう。家にまだあるし」
「そういう事じゃなくてさ。直に蜜を吸う事に意味があるんだよ」
「味なんて変わらないと思うけど」
「分かってないな、バケツくんは……うん? あそこに誰かいるね」
こんな昼間の草原に居るなんて、さては不審者かな。それ、もしかしなくても僕に対して言っているのだろうか。確かに頭はバケツで変な人扱いは受けるかも知れないが、それでも僕は怪しい人間ではない。
「怪しい人間に限って言うんだ、自分は怪しくないってさ」
「ぼ、僕は別にバケツを被った一般人だし……」
「何の話? 人間の女の子が暴れ牛に襲われてるみたいだけど、どうする?」
そう言われて僕は目の前をよく観察する。スライムくんの言う通り牛は確かに女の子を襲っていた。襲ってはいたが、女の子が怪我をしそうとかそういう雰囲気はない。
「助けが必要には思えないけど」
「でも牛の方、なんか興奮してない? 大丈夫かな」
「スライムくん、板に返信できない?」
「……何で?」
「ムレタ……闘牛用の布の代わりにでもなればなぁって思って……」
若干渋られた気もするが、スライムくんは板状になってくれた。全然風の影響受けてないけれど、大丈夫だろうか。そっと牛へスライムくんを向ける。
「あ、こっち来た」
「ねぇちょっとこれ思ったんだけど。ぼく牛に突進され危ない!」
「回避っと。言い出したのはスライムくんでしょ、男見せて」
「確かにそうだけどさぁ! 全く、何で人間の女の子は牛に挑みに行くんだ!」
「論点も突っ込む所も違う気もするけど……牛見失っちゃった……でも、女の子は無事だね。こっち来るよ」
平原の真ん中に居る女の子、怪しいな。なんて思いながらも女の子を待ってみる。赤茶色の髪をした女の子、だった。
「……牛さん、逃げちゃった……」
「ごめんね、助けようと思っただけなんだけど……」
「本当に何もしてないよね、向かってきた牛の突進避けただけだよね」
「ねぇ、バケツさん。助けようとしてくれたお礼に牧場に来ない?」
「あんまり聞かない言葉だね、助けようとしてくれたお礼って……牧場?」
女の子の言葉にスライムくんは疑問符を出した。僕も気になりどういう事かと首を傾げる。
「今ちょうど、牛の乳しぼり体験ができるんだけど。やらない?」
「面白そうだね、城には遠回りになるけど」
「急ぎの旅じゃないし、寄ってみようか。搾りたての牛乳が飲めるかもだし」
「……言っておくけど、牛から出た乳は直飲み出来ないからね」
あ、そうなんだ。ちょっと残念。